こうしてヒキニートはできましたとさ。
「…マジで?」
「マジだとも?」
いやそんなことで疑いはしないけども、なんか怪しいんだよなぁ。
もう一度街並みを確認してみる。眼下には知らない街ではあるが、日本らしい街並みだ。おそらく、嘘は言ってないだろう。
てか本当にここめっちゃ高いんですけど。一体何階だ?
場所を聞いたら、故郷とは全然離れた都内の高級マンションの一室らしい。2階にさらに部屋がついてるとか、実際に済んだらいくらするんだここ?マジでこんなところに住んでいいのか?
「…なんでそんな眼で見るんだい?」
「いや怪しいし」
「…失礼な。ただの好意だって」
確かに怪しいと言っても、確証があるわけじゃないしな。
最初は天界か前の世界かと思ったけど、日本となると話は変わってくる。しかも働かなくてもいい、お金も用意してもらえるとなると誘いに乗りたくなってくる。
だって当時は17歳で死んでしまったから、やりたかったこととか欲しかったものがいっぱいあったんだよ?魅力的すぎるだろ?
「…具体的にはいつまで暮らしていいんだ?」
「君の満足するまで住んでくれていいよ?あとで紹介するけど、他の部屋には配下の天使も住んでいるから、満足したらそいつに言ってくれればいい」
うーん、怪しさ満点だな…。断った方がいい気がするけど…。
「どうする?どうしてもって言うなら無理強いはしないけどさ」
………。
結論から言おう。あのクソ天使の提案を受け入れたよ。
あぁそうさ。魅力に押し負けたんだよ。俺だって人並みに欲があるんだよ。
提案を受け入れた時のクソ天使は、めっちゃ嬉しそうだった。ありゃ絶対に後で何かあるな。
「あぁ、それと姿見はこちらで調整したけどこんな感じでいいかい?」
そう言うとクソ天使は両手をパンと叩き、手鏡を作り出した。こういうところを見ると、確かに人外の存在なんだなって思える。
なにせ前に会ったときも今も、すげぇ人間臭いんだもの。
用意された鏡を見ると確かに俺なんだが、それは日本人のときの俺じゃなくて転生後の俺だった。しかも50手前のじいさんじゃなくて、20歳くらいの若々しい感じだ。
実は日にちを教えて貰ったら、こっちの日本人の俺が死んでから2、3年くらいしか経っていないらしい。
だから今のところ当時の家族は健在だし、故郷から離れているからないとは思うけど鉢合わせしてもわからないようにていう配慮だそうだ。
と言っても、別に異世界人らしい見た目という訳ではない。なぜかはわからないけど、転生した先はほぼ日本人と変わらない親の子だったんだよね。もちろん俺も黒髪の日本人ぽい顔だ。眼だけは紅色だけど。髪を腰ぐらいまで伸ばしていること以外は、日本人として見られるとは思う。
もちろん当時の周りはちゃんと欧米風な見た目の人たちだった。…偶然だよな?
「えっと、名前は確かキリア・ヒイラギだっけ?ちょうどいいから、柊霧亜で戸籍も一応作っとくね」
名前も日本人ぽいっちゃぽいよなぁ?マンガとかにいそう。転生先の親に理由聞いてみたけど、外国から移住したらしい。
異世界に日本ぽい国があるとか、そのときもテンプレかよって思わず突っ込んじまったさ。
なにはともあれキリア・ヒイラギ改め俺、柊霧亜の第3の人生…いやボーナスステージか、が始まったのだが…。
それから2ヶ月後…
今は深夜の2時、俺は2階に作った自室に篭っている。
「よし!これで一通り終わったぁー」
目の前には大型のディスプレイが置かれており、そこには有名ゲームのエンディング画面が映されていた。もちろんこの据え置きハードとゲームソフトは、あいつが用意した金で買った。
最初は金を用意してくれるって言っても、せいぜい人ひとりが不自由なく暮らせる程度だと思ったんだよ。
けど、渡されてた通帳をみた瞬間、目を見張っちまった。なにせ頑張って働くお父様もびっくりの額が入ってたんだから。ちなみに先月の頭にも同額が振り込まれてました。
世の働くみなさま、なんだかごめんなさい…。
だから本当に欲望のままに生きることができてしまっている。
衣類や日用品、食品なんかはネット通販で注文すれば届けてくれるので、外には出る必要もない。
ゲームやマンガといった娯楽品も買い放題で、漫画は全巻大人買い、ゲームは当時クリアできていなかったものに新タイトルまで買い放題になってしまった。
おかげで気づけば見た目はひどいことになっている。結構肌が白くなってきてるし、ヒゲは伸び放題、髪もさらに伸びてボサボサだ。…ちゃんと風呂には入ってるぞ?
だが結果として、元の年齢に近づいてしまった気がする。
まずいとは思うんだよ。でも外に出る必要はないし、人に会っても配達員の人だけだし、困ってないんだよね。
まぁ、あのクソ天使は好きにしていいと言ってたし。適当なところで満足しておいて、飽きたら終わらせよう。それまでは楽しむことにするさ。