表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/3

お姉さまの背中にGが居る!?【1】

※ラノゲツクールMV向けに作成した、10000文字以内のショートノベル(予定)です。

『カン カン カラン カラン……』


 踏切警報機が目覚まし時計とは比べ物にならない程の、電鐘式の甲高い音を周囲に響かせている。黄色と黒が交互に配色された長い遮断桿が、これから侵入してくる者を阻もうと、ゆっくりと降りていく。そして、端にある踏切警報灯は、赤色の灯火を交互に激しく点滅させていた。


「はぁ……はぁ……」


 小走りできた私は、踏切警報機より少し前でゆっくりと立ち止まる。踏切の先を見ると、手を膝に当て息を整える女子学生の、まるで勝ち誇ったような安堵の様子が窺えた。

 それもそのはずだ、ここは、この街の悪い意味での名物『開かずの踏切』だからだ。

 朝のこの糞忙しい時間にも関わらず、この時間で踏切が降りると何故か三十分以上は開くことがない。


 私の名前は『河野かわの 鈴絵すずえ

 私が通う学園は、この踏切の少し先に建っている。この踏切に捕まってしまった場合でも、迂回することも可能だが、他のルートにした場合はそれなりの距離があり、またキツイ角度の坂道も多かった。迂回せず、踏切が開くのを待つことも選択肢の一つだが、踏切が開いた後は、急がないと時間的に遅刻ギリギリの登校になってしまう。四月にはこの所為で、多くの新入生がこの踏切の餌食となる事が多かった。

 つまり、一番楽をして通学したければ、開く時間を守って、この踏切に捕まらないようにすることだった。


 私の場合、昔はうっかり寝坊してしまうことが多く自業自得なのだが、良くこの踏切に捕まり、その後駆け足で学園に駆け込むことも多かった。しかし、最近は、ワザとこの踏切に捕まるように登校するようになった。


 なぜ、そんなことをするのかって?

 ふふん、それは、私の目の前に答えがあるのです!


 ……そんな、独り言を脳内で呟きながら、踏切の隅で、開くのをじっと待っている一人の女子生徒に目を向ける。

 少し背が高く、白く透き通るような肌、すらりとしたセミロングのなびく髪、制服を着ていても分かる羨ましいほどのくびれ、ここからでは分からないけど少し大きな瞳と整った顔、それは私にとっての理想のお姉さまだった。

 そんな、お姉さまの名前は、『来栖くるす 真理子まりこ


 何度も寝坊して気が付いたのだけれども、来栖お姉さまは、この時間、この踏切でじっと待ち続ける事が多かった。学園の日直やクラブ活動の朝練が無い日は、ほぼ毎日といってよいだろう。理由は分からないけど……。

 そのことに気が付いた私は来栖お姉さまのスケジュールを密かに調べ上げ、こうして三十分お姉さまを視姦……じゃなかった、目の保養で見つめる事にしていたのだ!本当は、挨拶やお話をしてみたかったのだが、数多くの生徒に慕われている来栖お姉さまと、私のようなちんちくりんの女子高生とでは釣り合わないと思い、今は遠くから見つめる所で満足することにしていた。


 今日も来栖お姉さまは、ため息が出そうな程の綺麗な後ろ姿だった……が、少しだけ何か違和感を感じた。


「……ん? なんだろう……」


 気になった私は足を踏み出し、来栖お姉さまとの距離を少しだけ縮めてみる。セミロングの髪の毛の先に、黒い何かが付いていた。糸くずやゴミにしては少し大きなものだった。


「……うーん、気になる……」


 気になった私は、もう少しだけ勇気を振り絞って来栖お姉さまに近づくと、出来るだけ悟られないように顔を寄せ、その黒いモノが何かを確認しようとする。そして、それが何か分かったとき、私の全身に一気に鳥肌が立つ。


「ゴき……ぶッ!?」


 勢いで、大声で叫びそうになってしまった自分の口を、素早く両手で塞ぐ。恐る恐る来栖お姉さまの後ろ頭の様子を伺う。……幸いにも踏切警報機の音で気が付かれることは無かったようだった。


「…………」


 いや、でもどうしよう。多分、いや間違いなく、ゴキ……ブリ……だよね……。


 私は、深呼吸をし心を落ち着かせると、勇気を振り絞りもう一度、来栖お姉さまの違和感の先を見つめる。

 ……そこには、やはりゴキブリが来栖お姉さまの背中に細長い髪の毛のような触覚をなびかせながら悠々と這いつくばっていた。

 あの黒々しさは、クロゴキブリだろう……多分……。


「………………」


 しかし、最初の恐怖や気持ち悪さは次第に薄れていき、だんだんと腹が立ってきた。

 私なんか、背中どころか握手すらもしてもらったことのないのに、あんなグロイ生物が来栖お姉さまの背中を制服越しとはいえ触っているなんて、絶対に許せない!


「……!! ……!!」


 私は、両目に思い切り力を入れると、ゴキブリに向かって目力で睨みつける。


「(てめーみたいな、害虫が居座っていい場所じゃねーんだよ! さっさよ消えろよこのカス!)」


「……」


「…………」


「…………!?」


 睨みつけていた私をあざ笑うかのような、ゴキブリの視線を感じた!……ように感じた。


「(……害虫の分際で、調子こいてんじゃないわよ……!)」


 私は負けじと睨み返すも、ゴキブリはそんな私を無視するかのように微動だにしなかった。

 でも、これはもしかしたら来栖お姉さまとお話できるチャンスじゃないだろうか?



*****



『あの、来栖お姉さま、ちょっと宜しいでしょうか?』(妄想)


『あら? なんて可愛い後輩ちゃん! どうしたのかしら?』(妄想)


『背中にゴキブリが付いていましてよ』(妄想)


『まぁ、それは嫌ですわ、追い払って頂けないでしょうか』(妄想)


『はいどうぞ(手でゴキブリを叩き落とす)』(妄想)


『ああ、なんて勇気ある後輩ちゃんでしょう、是非私の彼女になってください!』(妄想)


『はい、喜んで!』(妄想)



*****



 あるあ……ねーよ!!


 それに、ゴキブリが背中にいるなんて教えたら、普通の女子高生なら絶叫して失神してしまうかもしれない。こんな公衆の面前で、来栖お姉さまのそんな醜態を晒させる訳には参りません!


 そんなことを考えている、辺りに踏切待ちをする学生や社会人が増えてきていた。来栖お姉さまの背中のゴキブリを確認すると、ムカつくことに未だに微動だにしていなかった。

 今のところ気が付いているのは私だけのようだけど、他に気付く人がいるとも限らない。私は、もう少しだけ来栖お姉さまの背中に近づくと、周りからはゴキブリの姿が死角で見えないような場所にさりげなく移動する。


 そんな私を、ゴキブリはじっと見つめている(ようなきがした)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ