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「なぁ、前世って知ってるか?」
「新しいおもちゃか何か?それって楽しい?」
「いや。なんでもないや。」
とある公園のベンチで語り合うふたり。そこには全く甘いものはない。にも拘らず、遠目にそのふたりをうかがう固まりが2つ。
「あの木の影にいるのは妹たちだな。」
「あっちのベンチは、うちの従業員ね。きっと父様命令だわ。」
「こうもバレバレだと逆に申し訳ないな。」
「ええ。彼は仕事があったはずなのに。あとで父様をとっちめる!」
この気性の強さ。確かに母さんに似ているとも言えなくない。
「で、前世って何?」
「あー、うん。この世に生まれてくる前の人生って言えばいいのかな。別の記憶があるというか。」
「へぇ。小説とかになりそうね。」
「そんなのないの?」
「ないわね。なんでそんなこと言うの?」
「いや、考えが同世代だと思えなくて。」
「年寄りくさいって?!」
「違うから、手をさげろよ。マジなんとかしろ、その叩きぐせ。他の人にしたらダメだろ。」
「あなたにしかしないもん。」
「よりたちがわりぃ!」
このふたりの会議というなのデートが、週一だとか。ふたりのやり取りがどう考えてもじゃれあってるとしか見えないとか。もう付きあっちまえばいいのにと思われてるのは、本人たちは知らない。
「で、何が言いたいのよ。」
「いやさ、やたらと達観してるだろ?旦那様の影響かとおもったけど、なんつーか、ちゃんと理解して経験しての言動って感じがしたからさ。」
「ええ、だって経験済みだもの。」
「ほら、やっぱり前世が。」
「違うって。うちの商会が経験済みなのよ。もともと小さな商店だったのをご先祖様の手腕で商会までもっていったのよね。でも、ひぃおじいちゃんが調子にのって、悪徳みたいなのしちゃって、信用がた落ち。そのあと、おじいちゃんと、母様がなんとか信用をかちとって、婿養子の父様がそれを引き継いでる感じかな。だから、信用に関しては敏感なのよ。誠実にってね。」
「だとしても、この歳ではすごくないか?」
「んー。母様がなくなったときかな。「どんな人にも誠実にしなさい。お金はもらえるなら、どんどんもらった方がいいけど、少しの傲慢で全くなくなるようなバカな真似はするな。」って言われてさ。」
「「ずびびびびーーーー」」
ベンチの方から鼻水すする音が。いい話だが、泣くほどか?ついキナ臭い目でそちらを見てしまう。
「ま、そういうことよ。だから、誠実、確実にやってるのよ。それだけ。」
「ほぉ。まぁ、わかった。」
「で、前世ってもうけれそう?」
「やめとけば?広がりは持てそうだけど、それよりおもちゃの方が爆発的に売れそう。」
「んー、じゃ、竹トンボ?と着せ替えができるお人形?だっけ。」
探偵ごっこに飽き始めた妹がやって来たので、今日はここまで。
「じゃぁな。また来週。」
「ねぇ、そろそろ付き合わない?」
「あ?付き合ってんだろ?」
「うん。やっぱ、わかってないのね。お母様に今度の女子会相談したいことがあるって言っておいて。じゃぁね。」
「あー、伝えとくわ。」
「兄さん、あれ、告白だよ?」
「は?何がだよ。」
「お姉ちゃんと恋人にならないの?」
「あ?え?どういうこと??」
「お姉ちゃん、この人の何がいんだろう?」
「俺は優しくて可愛いお嫁さんがほしいんだよ。」
「ニヤニヤして気持ち悪いー。」
突然手を離して、駆け出す妹。思いの外、喜んでる自分がいるのが恥ずかしい。
「母さんたちにいっちゃおー!」
「おい、まて!それだけは絶対にやめろ!!鬼ばばぁたちに知られたら、ずっとからかわれる!」
「「「「「誰が、鬼ばばぁだって?くぞがき!」」」」」
現実は小説より奇なり。そんな現実で、今日も平和に生きていく。