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「「「「「かんぱーい!」」」」」
「…乾杯。」
「いやー、1か月ぶりか?この集まりも。」
「なかなか休み会わないもんな。」
「そりゃそうだ。ほぼ同じ職場だ。」
ゲラゲラ笑い声が響く。今は夕方なのに、店の奥から罵声が聞こえる。
「父さん、定休日ってなに?」
「息子よ。知らなくてもいいことってあるんだぞ。」
「いや、でも、なんか、男の人泣いてない?」
「「「「「触れてはいけない領域と言うものがあるんだ。」」」」」
親父たちの真面目な顔に頷くしかない。
「で、なんで息子さんいるんすか?」
「あー、こいつも、ついに仲間入りってことよ。」
「「「「ようそこ!大人の入り口へ!」」」」
「なんだよ、大人の入り口って。」
「少年の夢をボロボロにされたんだろ?」
「あれきっついよなぁ。」
「いたいけな少年の夢だっつーの。」
「俺は海賊王で、奥さんにばれたとき3時間拘束されて話されたっす。からだ作りから、カイケツビョウの恐ろしさ、海の怖さ。もう、途中から怪談話だったっすよ。」
「俺は魔王だったなぁ。魔力なしって鼻で笑われながら、あんたが魔王になる前にあたしが殺してやるっていわれたわ。」
「お前の奥さんこえーな。俺はハーレムだったぞ?次の日なぜか、5人の女の子に囲まれてボロくそに言われたがな。」
「「「「鍛冶屋のエロガキってお前か?!」」」」
酒がはいった親父どものテンションは上がる。
「ハーレムは夢だろぅ。かわいいこに囲まれるんだぞ?」
「で、鬼にかこまれたってか。」
「お前の嫁も含まれてんだぞ?まぁ、確かに女は可愛いだけじゃないことを思い知らされたな。」
「ねぇ、みんなはなんで夢をすてたの?」
「捨てたって訳じゃないけど、現実見るようにはなったな。」
「俺の夢は将軍だったし、努力はしたぞ?で、将軍より街警備のが性にあってるっておもっただけだな。」
「俺はまだハーレムを諦めたわけではないっ!」
「「「「黙れ!酔っぱらい!」」」」
「先輩、奥さんにめっちゃ管理されてたっすよね?」
「だな。むしろ、調教だな。」
「じゃぁ、なんでこんなこと言えるの?」
「「「「大人の入り口から離れられないだけ。」」」」
酒が進む。飯も進む。会話が進む。ほとんどがくだらなくて、どうしようもない話だけど、すごく楽しそうな姿に、ちょっと憧れた。
「まぁ、なんだ。何をしたいかは、知らないが、ちゃんと努力すればいいんじゃねぇか?」
「だな。何にも考えてないから、女性陣もぐだぐだ言ってくるんだしな。」
「相談したら、親身になってくれっだろ。」
「「「「「一生からかわれるけどな。」」」」」
お開きとなり、お店のおばさんに「あんな大人たちには絶対になるな。」と釘を刺されて、店を出た。
「ちょっとは納得できたか?」
「正直微妙。」
「まぁ、そんなもんだろ。でも、努力してみてから、また母さんに言われたこと、俺らが言ってたこともう一度思い出せればいいかもな。」
親子二人で家路へ。昨日よりもここがゲームじゃなくて、現実なんだって思える。
「で?フラれた子とどこまでしたんだ?」
「あ?!酔っぱらい!何いってやがる!」
「え?何もしてねーの?知識とられただけ?マジお前俺の子か?!」
「うっせー、エロ親父!母さんに今日聞いたことチクってやる。」
「え?まって?どのこと?ちょーっと、まって。お話ししよう?」
家に帰って母さんの前で正座をする父さんの横で、お土産がないと妹に説教される俺は、もう少し今を知ることにする。知識チートをつかうのか、つかわないのかだけじゃない。自分が将来どうなりたいかを考えなくちゃいけない。
でももう決まってることがひとつ。
優しい奥さんがほしい。