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「くそばばぁ!どこにいる!…いって!!」
「うっせーぞ!これから俺は夜勤なんだ。」
「叩くな!バカ親父!」
「それより、ばばぁ言うな。よねばぁに失礼だろ。」
「よねばぁのことじゃねぇよ!てか、よねばぁがばばぁじゃなかったら、誰がばばあになるんだよ!それより、かあさんだよ、どこいんだ!?」
「母さんならまだ仕事場だぞ?」
この前サラダがないことで、妹からは精神的に、母さんからは物理的にボロボロにされた親父は、レタスをみてご満悦だ。
「あいつら、俺のことシスコンっていってんだぞ!」
「しすこん?なんだそりゃ。」
「あー、もういいよ。あとでとっちめる!」
「無理だろ、母さんだけでも無理だろ?それが5人だぞ?現実を見ろ。」
結婚前まで料理のりの字も知らなかったと言う親父は、手際よく肉を切り下味をつけていく。
「ねぇ、なんで母さんと結婚したの?」
「ん?好きだからだな。」
「恥ずかしくないの?子供にいうの。」
「なら、聞くなよな。あ、玉ねぎとってくれ。」
「ん。ねぇ、母さんが記憶持ちってしってんだよね?」
「おぅ、知ってるぞ。次は、トマト。」
「はいよ。母さんの知識で一儲けしようとか考えなかったの?」
「まったく。んー、味が薄い。」
「はい、塩。でもさ、もしかしたら大金持ちになったかもしれないじゃん。」
「サンキュ。で、もしかしたら、その知識を欲した奴に命を狙われたかもな。仮定で言ってもしかたないだろ。俺は今幸せだ。」
「でもさ。」
「でもが多いな。気になるなら、次の飲み会に参加して、いつものメンバーにも聞いてみろ?みんなおんなじ答えだと思うが。」
「父さんたちはそうだよね。」
「まぁな、たぶんこんなんだから、母さんが選んだんだろ。」
「確かにね。」
部屋にトマトのいい香りが漂う。今日はチキントマト煮らしい。
「なんかあったか?」
「ぼちぼち。」
「そっか。苦しくなる前にいえ、これでも父親だ。」
「フリフリエプロンが似合ってるよ。」
「だろ?罰だとよ。まぁ、前の記憶についてなら、母さんのが先輩だ。身近に先輩がいるって幸せだぞ。言い方は変だが、つかえるものはつかえ。」
「立ってるものは親でも使えってか。いや、これ意味がちがうんだよな。」
「よくわからんが、そういうことだな。よしできた!そろそろ母さんも帰ってくるだろ。喧嘩はすんなよ?あと、妹巻き込むな。」
「わかってるって。」
ここは現実。前世で姉がやっていた乙女ゲームの世界と同じように進行していても。母親が転生者でも。その母の職場の仲間が転生者でも。さらに、俺も転生者でも。
気持ち悪いくらいの偶然が重なってても、現実なんだと、父さんを見てると実感できる。
「サラダは、レタスでいいな!」
1ヶ月前に同じ事をいって、レタスだけを出して、ボロボロにされたことを忘れるバカ親父だけど。