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「そ、そんなっ。皆様困りますわ。私のために、争わないでくださいっ!!
あ!ねぇ!一緒に遊ぼ!魔術師様役がまだ空いてるよー!」
「あー、ごめん。やめとく。買い物頼まれててさ。」
「俺ももうやめたいー!将軍って、戦うと思ってたけど、ただ、女のとなりでベッタリしてるだけなんだもん。」
「僕もやめたい。王子様ってなにすればいいか、よくわかんない。」
「なんでよ!将軍様はお姫様をまもるのよ!ママが言ってたもん、片時も離れないって。王子様は、お姫様にプレゼントをあげるのがお仕事なのっ!ちゃんとやってよねー!」
「えー。騎士団長ってかっこわりー。」
「王子様って、ママと喧嘩したあとのパパみたいなんだね。」
最近、巷では「お姫様ごっこ」が流行っている。というか、女の子がみんなやりたがる。女の子が隣国から来たお姫様役。男がそれに群がる、第一王子、第二王子、将軍、宮廷魔術師。たまに、隣国の兄王子。はたまた、架空の魔王様を演じさせられる。男にとっては何がなんでも避けたい遊びだ。だって、とにかく女の子を誉めて、称えて、口説くだけなんて、つまらない。
「じゃ!行くわ!」
「「「またねー!」」」
しかし、とある一角では、男の子が張り切り、女の子がやりたがらないごっこ遊びが存在する。
「彼女は俺のものだ!」
「何を言う!わしのもんじゃ!」
「…ワタシノタメニ、アラソワナイデー。
あ!お兄ちゃん!あたしが仕事代わる!今すぐお手伝いする!」
「あ、ダメだよ!まだ始めたばっかだぞ!これからだろ!」
「そうだそうだ!これからバトルが始まるんだぞ!」
「嫌よ!なんであたしが70のおばあさん役なのよ!しかも、ただ座ってるだけだし!あたしも戦いたい!」
「よねばぁが戦ったら死ぬだろ!」
「死なないわよ!この前薪割りしてたもん!」
「「「やるな!よねばぁ!!」」」
その名も「よねばぁごっこ」。女の子がよねばぁ役。男の子はそれに群がる男連中。宰相様、庭師、居酒屋亭主、若手騎士、冒険者等々、好きキャラクターを選ぶ。そして、戦う。ごっこ遊びはごっこ遊びだが、戦いごっこ遊びだ。基本、最初だけ女の子は登場し、あとはそっちのけで戦う。
「じゃぁさ、よねばぁ役も戦えばいんじゃね?あ、お前ら妹に傷つけたら、ぶっ殺すぞ?」
「「わかってるって、シスコン!」」
「おい!シスコンってわかってていってんのか?」
「え?知らない。母さんがいってたよ?」
「うちも言ってた!奴はシスコンだってー。」
「くそばばぁども。あとでしめる。」
「お兄ちゃん諦めなよー。ママたちにはパパも敵わないんだよー。」
そう、子供達は真似をしたがる。近場で行われていること、大人が噂していること、みんな聞いてえんじる、話す。それは、大人が思っているより、的確に現実を表現している。
重い買い物かごを肩にかけ直す。
ここは、王宮から少し離れた庶民がすむ街の一角。王宮で繰り広げられている乙女ゲームよりも、身近な恋愛のが面白いと思っている親をもつ子供達の集まりだ。