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人は恐らく誰しも初恋というものを体験するだろう。もしも、家が隣同士で生まれた時から一緒の物凄く可愛い幼馴染の少女がいたらどう思うだろう?恋に落ちるよな普通。
俺、柳田明は前に述べた絵に描いたような幼馴染がいる。その可愛さは保育園時代に男子の間でおやつやお昼ご飯、お昼寝の時間までも隣を争われるほどだった。
そんな彼女と俺は今では高校2年生。そして幼馴染の彼女、浦上椿は先輩の男子により放課後に告白の定番である誰もいない音楽室に呼び出されていた。まだ先輩が来る前にきてしまった椿は窓の外を見たかと思うとおもむろにスマホを取り出し何かを打ち込み始めた。
なんでこんなに詳しく状況がわかるかって?
かれこれ一時間は音楽室の掃除ロッカーでスタンバっているからです!
今日掃除ない日で良かった!!ホームルームもサボってここにいるからな俺!!
「遅くなってごめん」
音楽室に現れたのはサッカー部のレギュラーでイケメンの先輩だ。おせーんだよ、こちとら雑巾の匂いが制服につきかけてるわ。というか部活はどうした。
「いえ、待っている間に外の景色を見て新しいアイデアが浮かんだので気にしないでください」
「さすが美術部のエース」
掃除ロッカーの隙間から見える奴はイケメンスマイルを振りまいている。
「あのさ、・・・初めて浦上がかいた桜の絵を見てからずっとどんな人がこの絵を描いたのか気になって、その絵が賞を受賞して表彰されたとき浦上を見てからずっと」
照れながら椿に告白の言葉を口にしようとしている先輩を見るたび思い出す。小学3年生の頃、俺のうちで二人で遊んでいたとき俺は物心ついたころからの想いを椿に伝えた。
『椿ちゃん!ずっとずっと大好きでした!僕とつきあってください!!』
「好きだ。浦上付き合ってくれ」
苦笑いを浮かべた椿が言う言葉は分かっている。
「すみません。私には好きな人がいるので付き合えません」
『えー、明くんサクトくんじゃないからごめんね』
椿は一礼すると固まる先輩を背にさっさと音楽室を出て行った。流石に同情するぜ先輩よ。先輩がとぼとぼと音楽室を出ると俺も掃除ロッカーから出て、教室に向かう。
歩きながら思い出す。俺の初めての恋敵を、そうこうしているうちに教室につくと椿が凄い勢いでスマホを打っていた。
「あ!明~~!!
俺に気付いて顔を上げ手を振る椿は何なんだ?天使か?しかし分かっていたこいつはただの天使なんかじゃない。
「ねぇねぇ!今日校庭の野球部見て思いついたんだけどさ!もしも[桜の剣士]の登場キャラたちが野球部だったらどう思う!?絶対可愛いしかっこいいよね」
興奮しながら話す椿をさっきふられた先輩が見たらどう思うのだろう。[桜の剣士]とは今椿がドはまりしている乙女ゲームのことである。ちなみに俺の初恋を打ち破ってくれたのはこれまた椿が幼稚園の頃から小学6年生まではまっていた。[マジクール戦隊]のレッドのサクトのことである。
そうこいつはいわゆる腐女子。推しのキャラクターがイチャコラ妄想するのが大好物。さっき先輩が言っていた桜の絵だって、もしも[桜の剣士]たちが学生で全てを背負って卒業したらという妄想を俺に語り泣きながら家でしあげたものだ。こんな超がつくオタクで腐女子の女子の顔以外にどこがいいんだろうと考えるときもある。
「聞いてるのーー?でねでね「はいはい帰り道で聞くから」」
それでも俺はこいつの全てが好きなんだ。たとえ2.5次元のチケットを取るために名義をか貸せと言われたり、絵を描くために変なポーズをとらせられたりするが、やっぱり椿が大好きだ。