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ハルシャ=ナーマ  作者: 菩薩
嚆矢の章
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第9話 追う者と追われる者

「げッ!」


「ぐッ!」


「ぎいッ!」


「えぐぅ!」


朝露に濡れる森林に、4つの断末魔が響く。焼きボノンゴの薫りにつられて、残骸を漁ろうとひっそり姿を現した犬型モンスター。赤、青、黄、緑と色彩豊かに分かれた彼らの頭を、アーシャの矢が貫いたのだ。

4匹を一度に射殺すため、彼女が使用した矢は通常よりも2、3倍太い物だった。目刺しの如く連なったモンスターを拾い上げ、弓使いの少女はその腹を割いた。昨夜目にした小さな真珠がこぼれ出る。


アーシャ「わぁ……! 凄いです……!」


リーブを得るため、他のメンバーよりも早起きした甲斐があった。周囲に誰もいないことを確認すると、アーシャはズボンのポケットにリーブを取れるだけ押し込んだ。

綺麗物好きのフレイアに出くわしたら、あの猫娘は十中八九要求してくるに違いないからである。


クラリス「ん? アーシャ早いわね。雑魚モンスター殺して一体何するつもりなのさ」


クラリスの不機嫌そうな声に、アーシャのなで肩が小さく飛び跳ねた。水浴びの後らしく、乱れた金髪から水滴が滴り落ちている。


アーシャ「ああいや! 最近弓の腕前が落ちてきたかな~と思いまして! 大した意味は無いんですよ!」


ハゲスルメマン「む……アーシャくんとクラリス、おはよう」


フレイア「まだ眠いニャ……猫に朝は厳しいのニャン……」


アーシャの大声に、クラリス以外の3人も目を覚ましたようだ。重い瞼をこすりつつ、顔を洗いに近くの川へ歩いて行く。クラリスもボノンゴを焼くため、焚き火の方へ行ってしまった。誰もリーブの件を持ち出さず、アーシャは内心安堵した。


ハゲスルメマン「さて、今日の行程だが班を2つに分けたいと思う。吾輩とクラリスくん、義輝くんとアーシャくんとフレイアくんの二組にね」


黒い魔女帽をかぶった少女がすぐさま不服そうに鼻を鳴らす。


クラリス「どうしてあたしがスルメ臭いハゲとディグノーを探さなきゃならないのさ。嫌なんですけど」


ハゲスルメマン「バランスを考えての結果だ。君はギルドの中で最も身体が脆い。故に最も頑強な吾輩と組み合わせたのだよ」


有無を言わさず決定すると、ハゲスルメマンは獲物の皮を剥ぐための小型ナイフを研磨しようと工具箱を取りにテントへ向かった。


クラリス「ギルドマスターの権限を濫用してるよね。悪意に満ち満ちてる」


足利義輝「否、ハゲスルメ殿は無駄な行動はせぬ。やはり不器用なりにも貴様を気遣っているのではないかね」


クラリスのぼやきを足利義輝がたしなめる。戦いの前から険悪な雰囲気が流れてしまうと、各々本領を発揮できないだろう。準備を終えたスルメ倶楽部は、森の深奥部へ繋がる道に立った。


足利義輝「凄まじい妖気を感じる……間違いなくこの先に龍がいる」


クラリス「さっさと終わらせるぞ、他のギルドに乱入されたら面倒だし」


アーシャ「ハイパーリーブを手に入れれば、イーフィとウィンディとまた三人で……頑張ります!」


フレイア「今度こそ召喚術成功させるニャ、期待するニャ!」


ハゲスルメマン「覚悟はできたようだな」


ハゲスルメマン「討伐対象はディグノー! くれぐれも討ち漏らすでないぞ諸君!」


ハゲスルメマンの号令と共に5人の戦士が鬨の声を高らかに、森の奥に潜む闇へと突撃していった。


ハゲスルメマン「よッ、ほッ」


ハゲスルメマンの足が地を強く蹴り、湿った黒土を巻き上げる。深奥部への道に入った途端、地面の起伏は恐ろしい程激しくなった。左右から伸びた枝が2人の行く手を阻む。

近くの茂みで、雷鳴の如き爆音が轟いた。誰何するまでもない、久々の来訪者にボンバーソーセージ達が興奮したのだ。北の森がボンバーソーセージの巣であることは入る前に承知済みであったので、ハゲスルメマンとクラリスはまるで耳障りな音楽を聞き流す様な、憮然とした表情で歩を進めた。クラリスは長距離の走りが苦手なのか、魔力を消費し浮いている。


ハゲスルメマン「そんなに浮いて疲れないか? クラリスくん!」


クラリス「おっさん、ちゃんと前見る!」


ハゲスルメマン「ヌヌッ、危ないぞ!」


ハゲマッチョの右手の平から暗褐色のエネルギー弾が連射され、枝にぶら下がっていたソーセージを木っ端微塵に爆砕した。

このまま美魔女との会話に興じていれば、爆殺されるのはハゲスルメマンの方であっただろう。針葉樹林の木立を抜けある程度開けた草原に出た時、2人の足が止まった。


クラリス「なぁおっさん。あたし達さ、つけられてね?」


ハゲスルメマン「ハッハッハ、君も感づいていたか。本当に困った御仁だよ彼は」


クラリス・ハゲスルメマン「禿頭毛亡!」


ゆっくりと振り向いたスルメ倶楽部幹部の視線の先には、巨大な黒馬に跨った闇騎士の姿があった。前回の襲撃と違い、兜を脱いでいる。絹の様に垂れた黒髪を指に巻きつけ、彼は恍惚とした表情で語った。


禿頭毛亡「また会ったなハゲスルメマンよ。見るがいい、貴様が私から奪った美しい髪を。二度と戻ることのないこの髪を……」


ハゲスルメマン「吾輩は仕事中だ、君の余興に付き合っているほど暇ではないのだよ」


クラリス「ほら帰れ帰れ、帰ってイーフィとやらの乳でも吸ってな」


禿頭毛亡「おのれ、愚弄するか……!」


闇騎士の瞳に憤怒の炎が燃え盛る。真の力を解放したのか、長髪が一気に蒸発した。漆黒の炎に包まれた剣をハゲスルメマンへ向ける。


禿頭毛亡「ゆけ、魔黒号! 生意気な小娘を踏み潰し、今こそ憎き怨敵の首を刎ねて見せようぞ!」

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