第4話 金も無いのにふてぇ奴
サンバドルのバザールは今日も盛況だ。広場に数百もの店が軒を連ね、生鮮食品から銃器類に至るまであらゆる物資を扱っている。
猫族のフレイアは黒い尻尾を揺らしながら食料品売り場へ近寄った。鉄の柵で囲まれた場所に、数百匹もの猫が放し飼いされている。いや、目が1つだけという点からして猫ではないのだろう。
店主「お嬢ちゃん、ひょっとしてボノンゴに興味がおありかい?」
頭を丸く剃りあげた大男が手揉みをしながら近づいてきた。ハゲスルメマンと違い、その瞳は引きこんだ客を逃がすまいと鋭い光を宿している。
ごわごわした長い顎髭から虱が弾丸の如く飛び出し、フレイアの顔に当たった。不快感を堪えてフレイアは質問した。
フレイア「ボノンゴ? ペットですかニャ?」
店主「まぁペットとして買う客もいるが、基本的には食用だな。身体も小さいし保存も利くから長旅にゃあ必須アイテムだ」
店主「お安くしとくぜ、お嬢ちゃんはかわいいからな」
今ならボノンゴのエサも合わせて10匹につき金貨10枚で負けてやると店主は言った。
金貨10枚と言うと、サンバドル在住の貴族が携帯する唐草紋章入りの短剣と同額の値段である。法外な値段にフレイアは手をひらひらと横に振った。
フレイア「ダメダメ。金貨10枚なんて大金、小銭入れがはち切れて持てないニャ」
店主「なるほど……弱小ギルドの唯一の取り柄は言い訳、とはよく言ったものだ」
フレイア「ニャッ!? お客様に対して何てこと言うニャ!」
店主「お客様だと? 金もないのにふてぇ奴だ、奴隷にもこんな野郎はいなかったぞ」
奴隷という言葉に猫娘の耳は敏感に反応した。
フレイア「まさかアンタ、奴隷商人かニャ!? 奴隷の売買は人権侵害だからとハーゲル王国のレイギャン王が2年前に禁止したはず」
ザルブ「裸体にしか興味のない南国の王が、全世界に同志を持つこの俺、ザルブの奴隷密売ネットワークを見抜けると思うか? えぇ?」
ザルブという名の店主は凄むようにフレイアの耳に低く囁いた。今更ながら、フレイアはこの店に近づいたことを後悔した。嬢ちゃんと呼んでいるところ、相手は自分を年端もいかぬ少女と思っているに違いない。確かに低身長で胸も小さいが、猫族を基準にすれば立派な成人だ。猫娘が拳を握りしめた時、隣から抑揚の無い声が聞こえた。
闇騎士「店主。ボノンゴを50匹貰おう」