第2話 太陽の村サンバドル
ー太陽の村・サンバドル村ー
大陸の中央に位置するサンバドル村。ここは東西貿易の要所ともあって、昼夜人の往来が絶えない。門から役場までの一本道には、様々な露店が肩を並べ 独特の熱気を醸し出す。商業に賑わう反面、この村は東西南北あらゆる場所から勇猛な戦士達が集う対魔族専用拠点でもある。
近年、急速にその数を増やして来た魔族。その人知を超えた圧倒的なスピードと力の前に、人類はあまりに無力であった。人類はギルドというグループを作り、魔族を狩ることで天敵の脅威を避けるのと同時に、日々の糧を得ていた。
ハゲスルメマン「とまぁこんな感じで、ギルド『スルメ倶楽部』のメンバー諸君に集まってもらったわけだが……」
とある酒屋、丸テーブルを囲み五人の男女が集結している。普通ならボンバーソーセージの足を肴に、麦酒を飲みかわし談笑しているところだ。
しかしメンバーは皆等しく鼻をつまみ、眉を顰めていた。そう、陽気に語るこのハゲの口がイカ臭過ぎるのである。金髪碧眼の美少女が、陰気な調子でぼやく。
クラリス「あ~マジくっせ。いい加減にしろよクソハゲ」
ハゲスルメマン「はっはっは! クラリスくんにはまだ刺激が強かったかな? 吾輩のスルメフレグランスは!」
坊主が誇らしげに厚い胸を張る。すると、真向かいの猫耳少女がこれまた鼻を押さえ涙目で話しかけた。
フレイア「確かに癒しでなく暗殺手段として使うなら持ってこいニャね」
フレイア「でもいい加減にしてくれないと、ボクの腕輪が錆びちまうニャン」
猫族のフレイア。獣人は一応種族的には魔族に分類される。フレイアにとって魔族狩りは同族を殺すことになるが、ギルドメンバーのためなら命を捨てる覚悟も彼女にはあった。
不意に、フレイアの隣に座る弓使いと思しき少女が小さく呻き、テーブルに突っ伏した。
ハゲスルメマン「ど、どうしたアーシャくん! 随分青ざめているが具合でも悪いのかい?」
アーシャ「隊長……息がキツすぎますです……死んじゃいますぅ」
弓使いの少女が艶やかなブロンドのポニーテールごと震える。相当参っている様子だ。うんざりした様にクラリスが肩を竦めた。
クラリス「臭いものが苦手だったからね、アーシャは。なぁおっさん、ハゲスメルマンにでも改名したら?」
ハゲスルメマン「ふむ、そいつは難しい問題だ。吾輩はどちらかと言えばスルメマンの方がイケていると思うぞ」
フレイア「酒屋で真剣に議論する話題じゃないニャ。てかマジで誰か消臭魔法を詠唱しろニャン……」
無駄な問答が展開される中、パーティーの輪から少し離れた場所で網代柄の浴衣を着た壮年の男が日本刀の手入れをしていた。彼は戦闘中、ひいては普段の生活でも全く他人と話さない。
常に無表情で、どこかしら自分の世界に入り浸っている雰囲気もある。他メンバーもこの異国情緒漂う男の性格を尊重し、無闇に話しかけないよう日頃から心がけていた。