第1話 蒼雷
少年「そこか!」
豪雨の中、一体の影が草原を疾駆していた。地を蹄で力強く蹴り、剣山のごとく突きあがっている岩を跳躍する。遠くからでも、それは馬だと一目で分かる。背に乗っているのは弓を構えた少年だ。霧が立つほどの豪雨にもかかわらず、鏃からは火が噴き出している。
少年の憎悪に満ちた視線は、前方斜め上に向けられていた。そびえ立つ峻険な崖、頂上に悠然と佇む剽悍な山羊。王者の風格を漂わせる彼の双角に、蒼雷が蛇の如くまとわりつく。弓弦を限界まで引き絞り、少年は呟いた。
少年「五年……長かったぜ。だが、こうして相見えたからには容赦しない」
少年「くらえ、我が一族の恨みを!」
鏃の炎が一層照り映え、竜の顔に変化する。高らかに弓弦の音を響かせ、火焔の矢は山羊へと一直線に飛んでいった。矢が目標に到達する刹那、山羊の角から稲妻が放たれた。矢を木っ端微塵に破壊し、そのまま少年の胸に直撃する。鞍上より吹き飛ばされた少年は、地面にもんどりうって倒れた。
踵を返す山羊、雨の音、狭まる視界。
最後の息が吐き出されるのを感じながら、少年は無念の呪詛を唱えた。
少年「ちくしょう、俺は、俺は、まだ、なにもなしとげて……」
雨は小降りになり、雲の隙間より漏れ出づる光が草原に倒れた少年を優しく包み込んだ。