第二話 「召喚」
今話は以前とうこうしたものを改稿したものです。
改稿が出来次第、投稿していきますので、どうか、宜しくお願いします。
「ここは、ゲームの中、なのか?」
その可能性は、限りなく低いと思いつつも、和斗は思わずそう口にする。
記憶が途切れる直前までの出来事を思い出した和斗はまず混乱する頭と不安を落ち着かせるために深呼吸をし、少し落ち着いた頭で今の状況を理解できるよう改めて思い出す。
(まずは、覚えている所からだ。俺は五時ごろまでOOOをしていた。それからログアウトして明日の朝食のを食料品が少ないことに気が付いてコンビニに行ってその帰り道に無灯火の車に突っ込まれた時に思わず目を閉じて・・・)
その後を必死に思い出そうとするが、それ以降の記憶はすっぽりと無く何一つ思い出せなかった。だが
車とぶつかりそうになり目を閉じた時に、何か温かいなにかに包まれる様な感覚が合った事を和斗は思い出す。しかしその感覚は激しい痛覚を感じた脳が分泌した物質によってそのように感じた可能性も否定は出来なかった。
(けど、本当にゲームの中なのか…?)
だが、ゲームの中ではない事は辺りの風景と何より、先程手を付いた際に感じた地面の感触が最新技術がふんだんに使用された事によって現実と同レベルの五感、即ち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚がそれぞれ味わえるフルダイブ型VRMMORPGであるOOOに勝るとも劣らないのだが、何かが違うという感覚を拭い去る事は出来なかった。
そして情報を得る為に辺りを見るが周囲には多い茂った樹と草しかなく、それほどの情報は無かったが和斗は先ほどからある既視感を感じていた。そして、記憶を探りそれが何なのかを突き止める。
「もしかして、ここは『湖精の森』なのか?」
和斗のその言葉は誰にも聞かれることなく森の中に微かに響いた。
『湖精の森』それはOOOにおける最初の大陸であるグランの中央に位置する街、アトラの東にある深い森の名で、蜘蛛等の昆虫系、野生の狼などのモンスターが多く出現する森で、森の奥には澄んだ碧色の水を湛える、水の妖精が存在するといわれる湖を擁する森である『湖精の森』とそっくりであった。
だが、何かが違う、と和斗の第六感は告げていた。
「はあ、一体どう言う事なんだろうな」
思わずため息を吐きながら、取り敢えず立ち上がると先送りにしていた事、感覚で分かっていたことを確かめる為に今の自分の服装を確認する。
まずズボンに関しては直前まで着ていた学校の制服である紺色のズボンに黒色のベルト。そして上は白のカッターシャツにネクタイとここまでは変わっていないが、ズボンよりも下、靴は立ち上がる際にも見えた黒革製のブーツに似た靴へと変わっていた。
続いて背の方に視線を向けるとそこには艶のある濡羽色のコートの様なモノを着ており、腕から指先を見ると右腕には銀色の幾何学模様と己の尻尾を噛む輪廻の龍が描かれたそれは、一月に一度だけ死亡しても最大HPの十パーセント程の状態で蘇生する効果を持つ「廻星の煌輪」という名前の銀色の腕輪が、反対の左腕にあったのも右腕と同様の腕輪だがこちらは鉄製だが、白色の石が五つ埋め込まれており、一日五回までだが、確率で決まる即死効果のある呪詛や状態異常を受けたに腕輪の石が身代わりとなり砕ける「身代わりの玉石」があった。
これらの学生服を除くすべての装備が和斗がOOO内のアバターであるヤクモが身に着けていた装備品だった。そして「ヤクモ」の装備品を和斗が身に着けているという事は、もう一つ「ヤクモ」が持つ武器があり、それを確かめる様に腰に手を当てるとそこには金属のような感触があり、それを手に取り、確かめる。
それは金属で作られたスマホなどを入れる為のキャリングケースに似たモノで、和斗はケースの留め具を外し中を確認する。ケースの中には裏面は金属の様な光沢を持ち、表面には白かまたは幾つかは絵が描かれたカードが複数枚収納されていたが、その中で一枚だけ別の場所に収納されていた。
「…良かった」
ケース内にあったカードある事を確認し、和斗は安堵の息と同時に疑問は消え去り確かな確信へと変わる。
「…やっぱり、これは俺の装備だ」
制服の上に濡羽色のコートに加え、両指や手首にある指輪や腕輪、腰には金属製のキャリングケース、果ては靴が黒いブーツに変化している事からそもそも普通ではないのだが、それ以上に身に着けている装備はVRMMORPGのOOO内での和斗のアバターである「ヤクモ」の装備だと和斗は確信を得た。
何故なら、その装備はここ半年の間に揃えた装備でほぼ毎日ログインしこの装備を身に着けていたのだ。見間違る方が難しいとも言えるだろう。
であるならば、今いるこの場所が記憶の通りならば最初の街であるアトラの北にある湖精の森かまたはその近辺だろうと和斗は考えたが、そこであるここがゲームなのか、そして自分は死んだのかなどの疑問があるが、それともう一つ気になる根本的な事があった。
「それにしても。一体どういう訳で、俺はここに居るんだ?」
もしOOOにログインしているのであれば、最終ログアウト場所であるティルノーグ大陸の中央にある王都のはずれにある宿屋のはずで、こんな初期の街の近郊にあるこの場所に寝ていたのは、何らかのバグによるものなのかと言う疑問と、ゲームでないのならここは何処なんかと言う疑問が浮かぶが、人影も情報も無いために手の打ちようが無かった。
そうして、現状に悩んでいる和斗の耳に、草を踏みしめる音が聞こえ、その方向を見ると、そこには赤い毛と赤い眼の狼がいた。その数五匹。
「…赤狼」
湖精の森に出現する狼にして、ティルノーグ大陸に生息する「白狼」の下位互換モンスター。だが初心者からすれば厄介であり、十分な強敵だった。その理由は「白狼」と同じくその数が多い事だ。OOO稼働初期時代に「赤狼を一匹見つければ、十匹いると思え」という格言も出来たほどだ。
そして、「ヤクモ」の装備を纏ってはいるがこれがゲームなのか現実かなどの情報が一切ない今の和斗に対して初期のモンスターと言えど恐怖心を湧き起こすのには十分で、和斗が怯えている事に本能的に理解したのか、統制の取れた動きで五匹の「赤狼」が和斗へと距離を詰める。
「っ」
恐怖で足が動かず、そのままやられると思ったその時、腰のキャリングケースが開き、一枚のカードが宙へと浮かびあがる。そのカードに描かれているのは一本の剣と澄んだ碧色の湖。そしてそのカードはまるで和斗を叱責するかのように光を放ち、突如として出現した光を警戒して「赤狼」の足も止まる。
「…ああ、そうだな」
カードに描かれたその絵は和斗にとってもはや相棒ともいえる存在のカードで、和斗は励まされ導かれるように彼女を召喚ための詠唱を諳んじる。
「我と契約を結び、我に剣を捧げし最高の騎士、呼び声に応え、我が前に来たれ」
静かに、しかて強く語り掛けるように和斗は詠唱を進め、カードは魔法陣へと変わりそこから濃密な彼女の鎧の色と同じ白銀の魔力が溢れ、和斗を守護するかのように白銀の魔力は渦を巻くなか、和斗の詠唱は続く。
「汝は湖の妖精に愛されし騎士、その剣は我の剣と成し顕現せよ」
そしてトドメとばかりに和斗はその存在の名を口にする。
「その名は‥‥‥ランスロット・デュラック!」
最後の詠唱を終えた瞬間、辺り一帯がまばゆい銀光が辺りを染め上げて、魔力の嵐が無秩序に吹き荒れたが、すぐに秩序を取り戻した魔力の嵐が一点へと収束すると同時に、辺りを照らしていた銀光が晴れ、そこには、フルフェイスマスク型の兜に白銀の騎士鎧、そして腰に剣を佩いたが和斗に対して膝を付き、頭を下げていた。
「……」
「……」
和斗と騎士、いやランスロットは互いに言葉は無く、そして静かな森には一切の音がなく、まるでこの場の時間そのものが止まったかのような錯覚を与えるなか、静寂を破る様に甲冑を纏った騎士が静かに口を開いた。
「我が名はランスロット・デュラック。円卓の騎士にして、貴方の剣を捧げ、あらゆる敵を討ち破りましょう」
「ああ。頼む、ランスロット」
「はっ!」
和斗にそう告げ、和斗の返事を聞いた白銀の騎士、ランスロットは立ち上がり赤狼達と向かい合い腰の剣帯から剣を収めた鞘ごと外し、地面へと突き立て威圧を兼ねているのだろう、地面に突き立てた鞘から音もなく剣を抜刀し、鞘より二歩前へと出る。
「我が名は、ランスロット・デュラック! 一度だけ勧告するが故に選べ!その牙を納め去るか、それとも牙を剥くか!」
それはこれより先へは行かせないというランスロットの決意を現していた。
そして鞘より抜き放たれランスロットが持つのは月の光を受け銀に輝く両刃の直剣。刀身を含め一切の装飾はなく武骨であるが、それ故に洗練された美しさがあった。その剣の名は【不毀の輝剣】決して刃毀れせず、折れないと謳われし剣だった。
次話の第三話を現在改稿中なのですが、出来上がる時期はまだ未定ですが出来次第投稿しますので、今少し待って頂けると幸いです。
それでは、今回はこれにて失礼します。次話を楽しみに待って頂けると幸いです。では、また次話で。