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聖なるダンプ  作者: クリストフ・ドメニコ・ケルビーニ
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第四話 マグロ

「なんじゃこら。」

火事だった。

巨大な火柱が上がり、煙がもうもうと出ている。

辺りは火消しや野次馬でごった返し、あったはずのとんがった屋根はもう見る影も無く崩れ落ちている。

喧噪の中、一人その場にそぐわない恰好の少女が、呆然とした様子でへたり込んでいた。

着ている修道服は灰と泥に塗れ、最早茶色い頭巾と化している。

シスターのつもりだろうか、誘拐マッチポンプ集団も表向きは慈善事業かなにかのふりをしているのだろう。

「おい、どうなってやがるんだ!クロア!」

熱気から右腕で顔を庇うようにしながら叫ぶママーレ。

「あ、あああぁ、ママーレさん! ウオーー!!」

ママーレに気付き、涙を滝のように流しながらこちらに駆け寄ってくる茶色いシスター。

「院が!救済院が!!!か、火事でっ!!」

「見りゃあ分かる!いったい何があったんだ!」

ママーレが、クロアを火から庇うように抱きとめる。

「ウオーー!!」

完全に錯乱しているようだ。


「ひとまず落ち着かせよう。だいぶ煙に巻かれていたようだし、治療が必要かもしれん。

水を欲しがるだろうが絶対に飲ませるな、そのまま死ぬかもしれない。」

おれは火災に詳しい。

ジャングルにいたころは、みんなで火遊びして何度もボヤを出したものだ。

「クロア、こりゃあもう手遅れだ。

周りに燃え移る建物もねえんだ。火を消すのを止めさせたほうがいいぞ!

燃え残りがあると保険会社は『全焼じゃない』とかぬかして、金を払い渋りやがるんだ。」

ママーレも火災に詳しいようだ。

「うう、ううぅ・・・ ウオー!!」

クロアは、おれたちの言っていることがまるで耳に入らないようだ。

「この子の体を冷やした方がいい。やけどを負っているかもしれない!」

おれは素早く火消しから水を奪い、近くにあったドラム缶を満タンにした。

錯乱して泣き叫ぶクロアを、ママーレから受け取る。

「ウオーー!」

事は一刻を争う、おれはクロアを一気にドラム缶に突っ込んだ。

「うお!?ウオオーー!」

クロアは驚いて暴れ始めたが、おれは離さなかった。

頭をつけてしまうと、水を飲んで危険だ。

「落ち着くんだ!」

「ウオオ!ウオーー!!

オオオオオオオーーーー!!!!

アアアアアア!!ギイイイイ!!アアーーー!!!

ヤメテーーー!!!アーーアアッアーーー!!

ウオオオーーー!!イギイイイィィアアアァーーーー!!

ガボガボガボ!!ウアアアアア!オオオーー!!

アッアアーー!ウアアーーー!!!

アアアアアア!!!!

アアウオイイィ!!イヤーーー!!!

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


こちらに気づいた野次馬が騒ぎ始めた。

「やべえ」

「あいつ!シスターを殺そうとしてるぞ!」

「ちがう! 治療中だ!」

「アアアー!タスケテエエェ!ゴボゴボ」

「その子を離せ!」

野次馬はおれの言うことには耳を貸さず、武器を取り出し始めた。

「止めんと撃つぞ!」

ズガンガン!

気の早いやつが発砲し始めた、おれを殺す気だ!

「これじゃあ収拾がつかん!一旦ずらかったほうがいいな。トラックに乗れ!」

「治療を止めるわけにはいかん!」

おれはクロアをドラム缶ごとトラックの荷台に積み込もうとしたが、さすがに重い。

途中でドラム缶がこけて、中身を盛大にぶちまけた。クロアはまるで水揚げされたマグロのような状態だ。

何発か銃弾が頭をかすめ、ヒヤリとした。

なんとかクロアを抱き上げ、荷台に走りこむ。まるでマグロを運ぶ漁師だ。

「出すぞ!」

ママーレがトラックを急発進させる。

燃え盛る救済院と、銃声が遠ざかっていく。


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