第三話 救済院
あれからおれたちは、おとなしくなったあの化け物を何とか梱包し、ママーレがトラックですぐさま運ぶことになった。
速達だからだ。
ママーレとチャオマーは、化け物の箱にぬいぐるみや犬の写真を入れていた。
化け物があれで喜んでおとなしくなるとでも言うのだろうか、やはりこいつらは頭が変だ。
おれはママーレに言われて、手伝いについていくことになった。
トラックは市街地を走る。
「お前を家に置いていってもいろいろと不安だからな。チャオマーのやつは気が利くタイプじゃないし。
チャオマーってのはあのバールを持ったうるさい奴の名前だよ。チャオマー・ガレットだ。」
「そうなのか。」
まだあの化け物にぶん殴られそうになった時の恐怖がぬぐえない。
あんなやつはジャングルでは見たことがなかった。
気を紛らわそうと外を見ても、町の景色は妙なものだらけで、さらにおれの精神を摩耗させた。
その中でもひときわ妙なものが見えた。
10メートルほどの塔があり、そのうえで巨大な像か何かが高速回転している。
回転が速すぎて、像の形はよく分からない。
「あれはなんだ?」
「ありゃあ守護者の御神体だな。どこにでもあるよ。
熱心なやつは供え物をしたり礼拝しに行ったりしてる、まあ市民の心のよりどころだな。」
「あんな大きなものをどうやって回しているんだ?」
「像を作ってしかるべきところに置く、すると自然に回転し始めるんだ。
守護者さまのパワーがそうさせるんだとよ。
あの回転を発電機に応用しようとしたやつが大昔にいたんだ、像に磁石を付けたりコイルを設置したりしてな。
ただ、そういうことをしようとすると、なにかとんでもない災いが降りかかるらしい。
今の時代に、そんなことを試すバカはいないがね。」
「すごいな。」
おれはしばらく、像の神秘的な回転を見ていた。
どこからか、酷く傷ついたカラスがふらふら飛んできて、像の回転に巻き込まれていった。
カラスは一瞬で血煙に変わり、霧散した。
守護者のパワーが精神を救ってくれることをどこか期待していたおれの心は、哀れなカラスと共に粉々に打ち砕かれた。
「あの化け物はどこに運ぶんだ?」
「こいつはアキレア救済院の支部行きだな。」
「救済院?あの化け物を救うのか。」
「正確には違うな、救ったフリをする奴らだ。いわば誘拐のマッチポンプだな。」
「どういうことだ。」
「次元漁師は知ってるか?
簡単に言うと、別の次元に定置網みたいなものを張って漁をするやつらだ。
俺も詳しくは知らないが、有用なもの、やばいもの、いろいろ獲れるらしい。
そいつらの網に、知性を持った生き物の子供がかかることがある。
そういうやつらを買い取って、『私たちが悪人から救助しました。』と言って親元に返して謝礼を貰うやつらだ。
漁師の中には救済院と結託して、わざわざそいつらを狙って漁をするやつもいるって噂だぜ。」
「なんてやつらだ。」
あの化け物は被害者で、しかも子供だったとは。
おれは少し同情した。
「そんなことをしてバレないのか?」
「そこらへんを上手くやるのがあいつらの仕事だ。」
あのボロ屋を離れてから30分は経っていると思う。ママーレの運転は酷く粗い、尻が痛くなってきた。
さっきのバイクといい、こいつらに安全運転という概念はないのか。
「あそこらへんだ、見えるか?屋根のとんがったやつ、そこが救済院の支部だ。
あそこで引き渡すんだ。」
「見えんぞ。」
「あれだ、あれ?どうなってんだ?」
ママーレの指した先では、黒煙がもうもうと上がっていた。