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聖なるダンプ  作者: クリストフ・ドメニコ・ケルビーニ
2/5

第一話 事故


熱狂___

叫び、踊り、完全に狂っていると言っていいほどだ。

皆大声で何かを叫んでいるが俺には意味が分からなかった。

凄まじい熱気にあてられ、おれは水中で空気を求めるかのように空を見上げた。

数えきれない星々が広がっている。

きれいだ。

そうだ___確かこれは___


流星群が見えた日だ。おれはまだ5歳だった。

誰もかれもが家の外に飛び出し、空を見上げていた。

しかし流星群だと思われていたものは、打ち上げに失敗し、バラバラに崩壊した巨大な人工衛星だった。

流星群はおれたちの村に降り注いだ。 あたりに致命的に有害な燃料をまき散らしながら。

そしておれはあの日、すべてを失った。


-----


ブオオオオオオオオオオ

バコーンバリバリバイリ!!

「ウオー!!!」

突然ダンプに轢かれたかのようなすさまじい衝撃が全身に走り、おれは目を開けた。

「目が覚めたようだな」

視界にぼんやりと人影が浮かび上がってくる。


「お前さん、こんなところで寝てたら車に轢かれちまうぜ。ってもう轢いちまったな、ははは!」

小太りの男が、目の前で引きつった笑みを浮かべてしゃがみ込んでいた。

「目立ったケガは・・・無さそうだな! よかった。治療費を出してやろうにも、今は持ち合わせが無い。」

思わずハッとして両掌を見る、指は全部ついているようだ。

辺りを見回してみる、半壊した建物や崩れかけたビル、まるで廃墟だ。

いったいここはどこだ? まったく状況が思い出せない。轢かれた時に頭でも打っただろうか。

俺はさっきまで・・・

「…ッ!!」

頭の前のほうに鋭い痛みが走り、思わず抑え込んでしまう。

「に、にいちゃん大丈夫かよ、とりあえず冷やしたほうがいいんじゃねぇか?」

一応の罪悪感はあるようで何とかしようとおっさんはわたわたしている。

「いや、大丈夫だ。」

言葉は出る。

「それより、何も、思い出せないんだ。 ここは、どこだ?」

「おいおいそんなこともわからないのか?

ここはグオーグの七番街だよ、おれはママーレ・ドボーイってんだ、よろしくな。

前の仕事では上手いことやってたんだが、会計をちょろまかしたのがバレちまってな、今は個人で運送屋をやってる。」


ブブブブブウウウオオオーーー!!!

突然あたりに奇妙な音が鳴り響いた。

なんだこれは、ほら貝か何かか?

「やべえ、やつらだ! 事故を嗅ぎつけて死体を漁りに来たにちげえねえ。

兄ちゃん、とりあえず乗れ! 逃げるぞ!」

慌てふためくママーレに促されるまま、おれはトラックの助手席に乗り込んだ。

まだ頭が痛い。

「シートベルトはこないだバカを縛り上げるのに切って使っちまったからな、死なねえようにどっかにつかまってろ!」

ママーレは、興奮と恐怖で手を震わせながらエンジンキーをなんとか差し込み、アクセルを思い切り踏み込んだ。


「ウオー!!!」

ギャリギャリと砂塵を巻き上げながら加速するトラック。

座席に体が押し付けられる。

「おい、いったいどうしたって」

「いいから黙ってろ舌噛むぞ!!」

尚も背後から聞こえるほら貝のような音は一向に遠ざかる気配もなく、

むしろ少しづつ近付いてさえ来ているようだ。

いったい何が、何で、どうして逃げているのかも分からない。

すごい振動で窓から放りだされそうになる。

必死に座席にしがみ付き、どうにか体勢を保っている状態だ。


ブブブブブウウウオオオーーー!!!


かなり近くから聞こえる音に思わず息を飲んだ。

ゆっくりと後ろを振り返ろうとする。

「見るんじゃねぇ!!」

「どうすんだ!」

「くそう、気づくのが遅すぎたんだ。仕方ねえな!」

ママーレは冷や汗をダラダラたらしながら、しかめ面で毒づいた。

震える右手でデカくて赤いレバーを握ろうとしている。

「大損だぜ!」

ママーレがレバーを倒したとたん、ゴオンと鈍い音と衝撃が後ろから響き、トラックはだんだんと加速し始めた。

ほら貝の音が遠ざかっていく。

「何をしたんだ。」

「積み荷を捨てた。あれは高かったんだが、命には代えられねえ。」

「何を積んでたんだ。」

「儀式用の高純度圧縮肉だ。まあある意味運が良かったかもしれねえな。

やつらはあれに食いついて、こっちはもう追って来ねえだろう。」

ママーレは息を吐いて、汚い雑巾で顔の汗をぬぐい始めた。

手の震えはまだ止まらないようだ。

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