桜の木と少年
お早う御座いますこんにちはこんばんは。
お初目にかかりますまたはお久しぶりです。
青春くそ食らえ神影です。
今回もあたためておいたネタを案の定飽きたので一区切りついたところで放り投げる、雑の極み。
完結してあげたいんですけど、過程が長くなってしまう悪い癖ですね…嗚呼気を付けたい。
でもまぁ察せる人は察せる駄作です……
こうして更新も気分で行っておりますが、気が向いたら閲覧していただけると押し入れにでもバク転して喜びます(?)
それでは長々と失礼…
「好きです。僕と付き合ってください。」
ひらひらと吹雪く桃色の花弁。
愛しい君の頬と一緒で、溶けて消えてしまいそうだ。
柔らかい風が衣のように僕らを包みこんでは、どこか擽った。
気まずそうに思わず俯いて口を塞いだ君の髪に、ほら。
恥ずかしいけどキザみたいに、そっと指でなぞっていく。
瞬間、目と目が重なり合う。
僕はその潤んだ瞳に吸い込まれた。
儚くて、だけどとても美しく淡い瞳。
面白くて、可笑しくて、クスッと溢す君。
息を飲んだ。
…触れたかった。
すぐ壊れてしまいそうで、怖くて、
けど、愛しくてどうしようもなくて、
もういっそ、桃色のカクテルでも出来てしまいそうな程。
恋をすれば人生が変わるだとか、
時が止まってしまえばいいと願うだとか、
ただの作り話だとばかり思っていた。
嗚呼、自分は単純なんだなと実感する。
でも、確かなことがただ1つ。
今という時が、幸せだということ。
頬を染めはにかみながら笑っている君が側にいること。
有りがちでつまらないようなそんな出来事も、
穴があったら入ってしまいたくなる程恥ずかしい、
人間の人生の一時の幸せ。
ふと吹いた強風が、君のスカートと桃色の絨毯を舞わせる。
気を反らした君の唇を、そっと奪ってやった。
瞼の裏に焼き付いた、日本の風物より濃いピンクの頬の君。
何だかもう君が何をしても可愛くて、
鼓動が自分でも感じられる程高鳴って、
怒ろうとしていた君も怒るに怒れなくなり、
何処かネジが外れ壊れた様子で、わたわたしていて。
(…あぁ、好きだな。)
純粋に心からその言葉が溢れた自分が甘酸っぱい気持ちで一杯。
もうどうにでもなってしまえといっそ願う。
だけど、そんな僕らに世界は優しくなかった_____
…その出会いは始まりの季節だった。
私には、どこかの物語のような美しい出会い方をして、まんまとその恋の魔法にかかったように、一目惚れした人がいた。
「…真辺君、おはよ!」
「あぁ、おはよ、藤咲さん。」
儚げに優しく微笑み挨拶を返してくれる彼。彼は、真辺楼。彼女と同じ高校1年生。クラスに、というより学年に1人は必ずといっていいほどいる、ミステリアス少年であった。その圧倒的包容力と神秘性から、藤咲同様、真辺に一目惚れした女子高生は少なくはなかった。昔は、挨拶をしているだけで女子の視線が痛かった。だけど、今はその様な視線は減った。…あくまでも、そのような嫉妬の眼差しは、ということである。
「…ねぇ…藤咲さんまた真辺君に話しかけてるよ……」
「藤咲さんも頭イカれちゃったんじゃない…?」
「まさか~」
地獄耳でなくとも聞こえるそのひそひそ話に少し嫌気がさし、文句を言おうとするも、チラリと横を向けばそこには真辺がいる。黙々と読書をしている様子だった為、話が聞こえていたのかどうかは定かではない。だからこそ、無闇に言い返すことも出来ない。ちょっと木目を睨み付けながらグッと押し黙った。
…真辺楼には、妙な噂が流れ始めていたのだ。
『アイツ、何か毎日木に話しかけてるんだってよ~』
『何話してんのか聞いても教えてくれないし、頭おかしいんじゃね??』
『実は障害者?うわぁ~惚れてた女子かわいそ(笑)』
そう、真辺は毎日欠かさずとある木に話しかけてる様子が目撃されていた。それは、校舎裏に佇むように生えた1本の桜の木だ。
どんな種類だっただろうか。思い出せないけれど、春にはとても良い花だと最初は思っていた。しかし、真辺の行動は確かに怪しかった。
お昼は必ずそこで食べる。そして、まるで返事が聞こえているかのようにずっと楽しげに、1人永遠と話し続けているのだ。
ただ、その話を盗み聞きしようと試みた者が何人かいるのだが、その時に限って何も語らなくなるのだそう。まるで盗み聞きされているのにすぐに勘づいているかのように。
そんな事が続き、真辺は女子は勿論、マトモな友人関係を築き上げていなかった。けど彼女には、それがどうしてもわざとやっているようにしか思えなかった。最初から、話しかけられても笑顔で受け流して、遊びに誘われても断って、勉強も運動もそこそこで、授業の合間になると本を読み出して、わざとクラスメイトから遠ざかっている。
(…友達、欲しくないってやつなのかな。)
たまにそういう人はいる。というか真辺以外にも、クラスには浮き気味の人だってやはりいる。その人は暗くて、皆話しかけたがらないような、それでこそ陰キャラと呼ぶのだろうか。恐らく仲の良い人もおらず、新学期は大人しくしていようと思っているのだろう。その人が話しているところなど授業以外聞いたことがない。
だが、真辺はそこまでではない。なんとも形容し難いのだが、陰キャラというわけではない。そんな簡単な言葉に縛り付けられるほど、彼は単純ではない。
かといって何と例えればいいのかと聞かれたら返答に口ごもる。
何だろうと思いつつ真辺と目が合わないかなと然り気無くチラチラ見ていた彼女だったが、期待も空しく、真辺は読んでいる本のページをピラリとめくった。
上手くいかないことが続き、今日も今日とてため息混じりの昼休みが訪れる。
だがふと真辺の机の上には、置き去りにされている青い風呂敷。
(…あ、真辺君のお弁当かな。珍しい…)
彼は昼休みが始まるのと同時にいつも教室から直ぐいなくなる。
アホな男子はテレポートしているだの騒いでいたが、昔ちゃんと教室から颯爽と飛び出していく真辺の姿を見たことがある。
と言っても、気を抜くと本当に気がつけばいないレベル。
だが、そんな真辺の弁当箱が置き去りにされている。
(忘れて行ったのかな?いや、そしたらすぐ戻ってくるよね…)
興味を失いかけた矢先、ピンッと頭の触角が立ち、1つの考えを脳裏に発信した。
「………………………。」
挙動不審に辺りを見渡す。
真辺の姿は見られない。
そして、これがお弁当だったら、とりに戻ってくるはず。
ということは…
「…うわぁ…大きな木……」
…やって来てしまったという罪悪感が残るも、裏側ながら生い茂る美しい翠と、引き立つ桜の大木に目を惹かれた。
いや、学校の裏側だからこそ、あまり手入れもされていない密林のような状態なのかもしれない。
だが、それも天然の密林。
……大袈裟に言うと、なのだが。
(…風通りも良いし、ある意味穴場みたいな場所なのかも…)
子供のようにキョロキョロしては、その風景を目に焼き付ける。
多分、恐れて二度と来れないからだ。
そりゃそうだ、真辺のお気に入り?の場所だからだ。
ちょっと羨ましいけど、人の邪魔はしちゃいけない。
…今はお許しください、アーメン。
「…あ、あとこの桜の木だよね。真辺君が話しているのって…」
下から咲き誇る桜を見上げる。
時折吹く風になびかれ、漫画のような桜吹雪が目に映る。
桜大好き日本人にとってはやはり趣がある。
「…綺麗だなぁ~」
『フフッ、綺麗でしょ。』
「はい!とても…」
ニコニコしながら呑気に返事をして、ふと固まる。
すぐバッと振り返るも、そこに人の姿は見られない。
「…今…女の人の声……」
耳を押さえるも、耳にはその声が記憶されていない。
何だろう、声が聞こえたというより、声が脳に直接届いたかのような、そんな不思議な感覚。
校内放送?ラジカセ?勝手に頭の中で想像した幻聴?
考えを巡らせても納得のいく答えが見つからず、次第にぞわりと寒気がした。
……ま、まさか。
「おっ…お化け…!?真辺君お化けと喋ってるの!?」
「僕がどうかした?」
「…ヴァッ!?」
情けない獣の呻き声のような可愛げのかの字もない悲鳴が漏れ、そこからビクッと飛び退く。
バクバクする心臓を押さえ振り返ると、そこにはキョトンとしている真辺の姿。
しかも手にはやはりさっきの青い風呂敷。
…しまった、長居しすぎてしまった。
真辺が来る前に立ち去ろうと思っていたのに。
「あっ…真辺く…いや、これは、その、えっと…」
何か言われる前に言い訳をしなければ。
こういう時こそ先手必勝。
そう思っていても混乱し過ぎた頭では思考回路があやふやで、マトモな言い訳が思い浮くはずもなく。
「さ、さ、桜!真辺君、桜好きなんだね!!」
咄嗟に訳のわからないことを叫ぶ女子高生。
人はパニックに陥ると何を仕出かすかわからない。
「…クスッ、藤咲さんって、時々面白いこと言うよね。」
「え!?」
面白い…それは好印象でいいのか否や。
…いや、後者だろう。
やらかしたと後悔の念が渦巻く。
すると真辺は桜の木を見上げ、ポツリと
「…好きだよ、桜。…大好き。」
優しく、儚げに呟いた。
その姿に思わずドキリとときめいてしまう自分も単純である。
真辺の白く透き通るような美肌がとても桜とマッチしていて、それはもうとても綺麗で、見惚れてしまう。
それもそうなのだが、まるで自分のことを言われているかのような妄想が…
「…あ。」
真辺の口から発せられた僅か一単語でハッと我にかえる。
真辺が藤咲の方へ振り返り直すが、内心顔が変じゃないかなんていう変なところが気がかりだった。
何も言わないところから、恐らく大丈夫だったか、それとも気にされていなかったかのどちらかだろう。
「クラスの人、藤咲さんのこと探していたよ。」
「えっ!?本当!?」
「うん、確か…山城さんと志水さんだっけな。」
ありがとう真辺君、おかげで焦りが倍増してしたよ。
なんて言えるはずもなく、慌てて走り出した。
すっかりお昼ご飯のことを忘れていたアホだった。
「教えてくれてありがとう真辺君!」
急いで戻って、急いでお弁当とってきて、急いで山城と志水に謝らなければ…と、そこでぴたと動きを止める藤咲。
「…真辺君。」
「ん?」
「……真辺君てさ、背後霊的なの…いる?」
…目をぱちくりさせる真辺。
やがてプッと吹き出し、「…何か見えるの?」とイタズラっぽく微笑み、自分の背中を確認する。
(…ですよね!!)
「ごめん!!やっぱさっきの無し!気にしないで!!」
意味のわからないことを問いかけ穴があったら更に深く掘ってもはや埋まりたい程恥ずかしくなり、藤咲は逃げるようにその場をあとにした。
微笑みながら見送っていた真辺は、少しずつ笑みを崩す。
「…だってさ、桜。」
先程とはまた違った雰囲気で、語りだす。
「…あぁ、心配しないで。彼女はクラスメイトさ。
…僕が愛してるのは君だけだよ。」
誰にも聞かれていないのに、話声もしないのに、真辺はそう諭し、そっと草の絨毯の上に座りこみ、木の根元に寄り添った。
「…今日は遅くなってごめん。お腹壊しちゃったのかな?
ちょっとトイレに寄ってたんだ。そしたら、ね。
ごめん。ビックリしたでしょ。
普段は悪評ばかりだから、てっきり僕が話しているのを盗み聞きする人以外いないと思っていたのだけど。
大丈夫、今度は気を付けるから。
…それにしても変な子だったね。
いつ僕が背後霊なんか見える人みたいになったんだろう。
今時の噂って面白いや。…桜もそう思わないか?」
春風が花弁を散らした。
まるで、降り注がれる花弁が何か返事をしたかのように。
「…もしかして、まだ心配している?
僕は大丈夫だよ。桜がいるから。…だから、泣かないで。
…そんなことより、ほら、見て。
今日のお弁当は桜の大好きな卵焼き入りだよ。
形綺麗でしょ、もう大分慣れてきたからね。」
こうして、真辺は嬉々と語り続けた。
風に揺すられる桜の木と、一人の少年。
その場の時だけ、とてもゆっくり流れていたようだった。