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第3話

 学校に到着すると奈央は職員室に行くために俺達と別れた。

 そして俺は綾音と一緒に教室に行って、今は自分の席に座ってラノベを読んでいる。

 ちなみに俺の席は窓際の一番後ろだ。いや、元一番後ろが正しいな。俺の列はクラスの人数の都合で他の列に比べて一列少ないのだが、今日来たら俺の後ろに席が増えていた。間違いなく転校生の席だろう。

 何となく綾音の方を見ると他のクラスメイトと談話している。


「てめぇ、どういうことだ!?」


 いきなり制服を着崩したチャラい男が俺に殴りかかってきた。俺はチャラ男の拳をラノベから目を離さず受け止める。いつものことなので慣れた。


「うるさいから黙れ、久世」


 久世はそこそこイケメン(もちろん俺ほどではない)な上にクラスのムードメイカー的な存在だ。モテそうな設定だが、スケベな性格のせいで女子と仲良くなることはあっても恋愛的な意味で好かれることはない。スケベな性格なのに女子に嫌われないのは明るい性格のおかげだろう。


「くっ……。さすがボクシング経験者。俺の拳を止めるとはやるな」


「このぐらいボクシング経験者じゃなくて余裕だ」


 俺は中学生の時にボクシングをしていた。

 だが今はもうやめている。

 ある時、練習試合で対戦相手の目を怪我させてしまったのだ。幸い、その相手は視力を完全に失うことはなかったが後遺症が残ってしまって、そのせいでボクシングを続けるのが厳しくなり引退してしまった。

 別にそのことに責任を感じて俺もボクシングを止めたわけではない。スポーツをやっている以上、怪我は避けられないし俺もわざとやったわけじゃない。

 ただの不慮の事故だ。謝罪もして最低限の礼儀は果たした。俺が気にする理由はない。

 だが周りは俺のそんな態度が気に食わなかったらしい。段々、ジムに居づらくなり退会。

 そしてプロを目指していたわけじゃなく趣味でやっていただけなので、そのまま引退することにしな。


「そんなことより早く消えろ。読書の邪魔だ」


「聞くことを聞いたら消えてやるよ!」


 面倒臭いな。でも、この雰囲気だと話が終わるまで静かになりそうにない。

 仕方ない。話を聞いてやるか。

 俺はラノベを机に置いて溜め息を吐いてから久世のことを見る。


「じゃあ、早く言え」


「お前、今日篠宮さん以外にも女を作りやがったのか!?」


「はぁ?」


 いきなり何を言っているんだ、この馬鹿は。

 て言うか、綾音とも付き合っていない。まぁ、勘違いされる原因は分かっているが。

 よく一緒にいるから夫婦とからかわれていたのだが、途中でわざわざ否定するのが面倒臭くなったので無視することにしたのだ。

 それで気付いたらクラス公認の夫婦になっていた。お互い恋人もいないから別に否定する理由もないので、これに関しては無視している。


「さっき他のクラスの奴に聞いたんだよ! お前が篠宮さん以外にも美人な女を連れて登校していたってな!」


「ああ、それか。妹だ」


「適当な嘘つくなよ! お前が一人っ子なのは知っていているぞ!」


 俺も今朝まではそう思っていたけど違ったらしい。

 人生って何が起きるか分からないよな。


「二股か!? 二股なのか!?」


 うるさいな。

 お前のせいで他のクラスメイトの視線も集まっているだろうが。一発殴って大人しくさせてやろうか。


「相変わらず貴方達は仲が良いわね」


 久世の後ろから妙に楽しそうな声が聞こえた。

 この声はあいつか。ハァー、また面倒臭い奴が増えた。

 朝ぐらい平和に過ごさせろ。


「……神崎か」


 俺は久世の後ろに立っている声の主の名前を呼ぶ。

 神崎葵、今朝の話に出た綾音にエロ本のことを吹き込んだ変態女だ。

 見た目だけは清純で可愛いので他学年の男子からは人気がある。

 だが実際は男同士のカップリング(特に最近は俺と久世の組み合わせがハマっているらしく事あるごとに絡んでくる。非常に不愉快な話だ)が大好きな、いわゆる腐女子というヤツだ。

 その他にも数々の特殊な趣味を持つ超弩級の変態である。

 だから、こいつの性格を知っている同級生達は神崎を敬遠している。

 ちなみに神崎は『人間は同性同士で付き合うべき』をモットーにしている女だ。つまり趣味はBLだが、恋愛対象は女。

 本当にどうしようもない奴だ。

 噂の中には露出狂でたまに下着をつけず学校に来ているというものがあるほどだ。まぁ、さすがにそれは嘘だろうが。もし本当だったら嫌すぎる。

 その場合はすぐに綾音から引き離さないと。綾音に悪影響だ。まぁ、現段階ですでに悪影響だけど。


「そう!皆のアイドル、神崎葵ちゃんでーす!」


 神崎が横ピースをしながらハイテンションに挨拶してきた。

 え?朝っぱらからどうしたんだ?

 遂に本格的に頭が壊れたか?


「ちょっと……。ツッコミぐらい入れてよ。これじゃあ私が寒い人みたいじゃない」


「安心しろ、お前は充分に寒い」


 その証拠にさっきまで怒っていた久世も引いている。

 まぁ、これに関してだけは礼を言ってもいいか。言わないけど。


「ハァー、つまらない性格をしてるわね。そんなじゃあ人生を楽しめないわよ。もっと自分を晒け出さないと」


「余計なお世話だ。て言うか、そこまで晒け出したら人生が終わるぞ」


 何故、朝からこんなに疲れないといけないのだろうか?

 俺はのんびり読書をしていたいだけなのに。何か悪いことしたっけ?

 ……ああ、そう言えば数学の宿題を忘れていたな。それのせいか?

 まぁ、まだ時間はあるし大丈夫だろう。


「まぁ、いいわ。それで朝から何を騒いでいるの?」


「聞いてくれよ、神崎! 秀二の野郎が篠宮さん以外にも美少女を引き連れて登校してきやがったんだよ!」


「な、何ですって!」


 若干、キャラ崩壊してまで大袈裟に驚く神崎。よく分からない歌舞伎のポーズみたいなことをしている。


「誰なのよ!私にも紹介しなさいよ!」


 神崎が俺の机をバァンッと叩いて詰め寄ってきた。

 顔が近い。頭突きするぞ、この野郎。


「もう少ししたら分かる」


「どういう意味なの?」


「だから、もう少ししたら分かる」


「だから私はその意味を痛いっ!」


 何かもう面倒臭いので本当に頭突きをしてしまった。

 神崎が頭を押さえて大袈裟なリアクションを取りながら後ずさる。


「乙女に対して酷くない?」


「問題ない。俺は乙女に対しては酷いことはしないから」


 基本的に俺は女の子には優しい紳士キャラだ。

 基本的ということは、もちろん例外もあるけど。


 キーコンカーンコン。


 お、チャイムか。良いタイミングに鳴ったな。


「お前ら、朝のSHRが始まるから早く自分の席に座れ」


「仕方ないわね。後でちゃんと聞かせてもらうわよ」


「俺にもちゃんと説明しろよ」


 渋々といった感じだが神崎と久世が自分の席に戻っていく。

 SHRが終わったらそれどころじゃないだろうな。今のうちに仮病でも使って保健室に行こうかな。


「何を騒いでいたの?」


 綾音が俺の隣に座りながら質問してきた。


「俺と一緒に登校していた美少女は誰だ、だとさ」


「……ああ、そのこと。色々と大変なことになりそうだよね」


 綾音が遠い目をする。

 これからクラスに起きるであろう騒ぎを想像しているのか、俺との賭けのことを思い出してるのかのどちらかだろう。

3話終了です。


感想待ってます。

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