第2話
前回までのあらすじ。
突然、俺の妹を名乗る美少女が現れた。終了。
うん。意味が分からない。
「……え~と、シュウくんって本当に妹がいたの?」
綾音が俺と自称妹を交互に指差しながら聞いてきた。その表情からはいきなりのことで混乱しているのが分かる。
「いや、いないはずだが……」
もしかして、さっき冗談って言った生き別れの妹というヤツだろうか。いやいや、そんなことが現実に起きるわけがない。
大体、両親はほとんど仕事で帰ってこないとは言え、たまには帰って来るし定期的に連絡も取っているんだ。本当に妹がいるなら黙っているとは思えない。
じゃあ、どういうことだ?
……分かった! 家を間違えているんだ! そうに違いない。
俺は恐る恐る美少女に質問する。
「……もしかして隣の風見さんの家と間違っていませんか?」
右隣が綾音の家で、左隣が風見さんの家なのだ。最初の文字が同じと言うことで前に二回ほど家を間違えて、風見さんの家の客が俺の家に来たことがある。今回もそれだ。
さっき風上と名乗っていたような気がするが気のせいだろう。
「私が用事があるのは風見さんの家じゃなくてこの家だよ」
どうやら俺の予想は外れたようだ。
だったら答えは一つしかない。
「……綾音、警察って119だっけ?」
俺は制服のポケットからスマホを取り出しながら綾音に聞いた。
「119は消防署で、警察は110だよ。それがどうしたの?」
「いや、不審者が現れたから通報しようと思って」
「不審者とは困った人もいたものだね。どこにいるの? そこのおっぱいが大きい人?」
自称妹は誤魔化すような感じではなく本気で言っているようだ。
……この女、天然か。いきなり妹を名乗る奴が現れたら誰でも勘違いか不審者を疑うはずだ。疑わない奴がいたとしたら、それはよっぽどの馬鹿だけだ。
「ここにいるおっぱいの大きい女じゃなくてお前だ」
綾音が顔を赤くしながら「おっぱいが大きいとか言わなくていいよ」と言いながらアワアワしているが、今の問題は目の前の自称妹だ。
綾音を弄るのはまた後にしよう。
「え? 私? 私はここの娘で、お兄ちゃんの妹なんだけど……」
……美少女にお兄ちゃんと呼ばれるのは恥ずかしいものがあるな。まぁ、それ以上に気持ちよくもあるが。
だが俺はそんな感情を隠して冷静に対応する。
「俺はお前のことを見たことも聞いたこともない」
「そりゃ、初めて会ったんだから見たことはないだろうけど。……もしかしてママから話を聞いてないの?」
「聞いてない」
んー、もしかして本当にこいつは俺の妹なのだろうか?嘘をついているようには見えない。
まぁ、根拠もなく疑っても仕方ない。母さんに確認しよう。
手に持っていたスマホを操作して母さんに電話しようとする。だが俺が電話をする前にスマホから通話を知らせる音が鳴った。表示を見ると母さんからだった。ピンポイントなタイミングでかかってきたな。
電話に出ると向こうから陽気な声が聞こえる。
『どう、秀二。そろそろ奈央、そっちに着いた?』
「確かに目の前に風上奈央を名乗る黒髪の美少女がいるが」
『その娘、秀二の妹だから。ああ、もちろん私が浮気して出来た種違いの子供でも、パパが浮気して出来た腹違いの子供でもないから安心してね』
マジで俺の妹かよ。て言うか、その注釈は必要あるのか?
最初からそんな可能性は考慮してない。離婚した後に再婚して出来た義理の妹の可能性は考慮したが。
義理の妹とか萌えるし。
「……何で事前に説明しなかったんだ? て言うか、何で今まで秘密にしていたんだ?」
『今は仕事の途中で忙しいから詳しいことはまた今度ね。ちなみに奈央が行くことを事前に説明しなかったのは秀二をビックリさせるためです。じゃあね』
「お、おい、待て!俺はまだ話が――」
俺が台詞を言い切る前に母さんは一方的に電話を切った。まだ言いたいことが沢山あったのに。
て言うか、こんなドッキリはいらねぇよ。ビックリし過ぎて通報するところだったわ。
とりあえず俺はスマホをポケットにしまって自称妹――もとい、実の妹である奈央を見る。
そんな俺の様子を見て奈央が無邪気な笑顔を浮かべる。
「私が本物の妹だって分かった?」
「……ああ、らしいな」
いや、全く何も分かっていないが。まぁ、母さんがそう言うのならそうなのだろう。疑う理由はない。
ただ理解は出来ても実感は出来ないが。いきなり出来た妹を妹だと実感できる奴がいたら、そいつはよっぽどの馬鹿か変態だけだろう。
「……え~と、奈央ちゃんって本当にシュウくんの妹だったの?」
綾音が探るような表情で俺に質問してきた。
「ああ、だからその大きなおっぱいを揉ませてもらおう」
「何でそうなるの!?」
「だって、さっき俺に生き別れの妹がいたら何でも言うことを聞くって言っただろ?」
「それは今日の転校生がシュウくんの生き別れの妹だった場合でしょ!?」
ああ、そうだったけ。忘れていた。
まぁ、それは大丈夫だろう。
「何の話をしているかは知らないけど、今日お兄ちゃんのいる高校に転校するよ」
「というわけだ。約束は守れ」
俺達と同じ制服を着ているんだ。転校生だということはすぐ分かる。
「で、でも奈央ちゃんが私達のクラスに転校してくるとは分からないし!」
往生際が悪いな。一日にも二人も転校してくるわけないだろ。
「じゃあ、そろそろ学校に行こうか。結構、玄関で話込んでしまったからな」
そう言うと俺は玄関から出て綾音も出てきたところで鍵を閉める。
そして学校に向かって歩き出す。
「ちょっと待って! まだ話は終わってないよ!」
綾音が俺を追いかけながら大声を出す。
だが俺は綾音を無視する。綾音に反撃のチャンスを与える訳にはいかない。
何故なら成績は俺の方が良いのに口論になると俺が負けるからだ。
「ねぇ、お兄ちゃんっておっぱい星人ってヤツなの?」
奈央が俺の隣に並んで可愛らしく首を傾げて質問してきた。その目は軽蔑のものでなく単純に興味があるといった感じだ。
こいつ、人のパーソナルスペースに入ってくるのが異常に上手いな。会って数分なのに、もう親しく話せている。
まぁ、それを理解した上で普通に相手してやるか。実の妹だと言うなら、これから一緒に住むことになるだろうし。仲良くなっておいて損はない。
「まぁ、俺も年頃の男だからな。性的なことには興味がある。だが、これは違う。単純に嫌がらせをして綾音の困る顔を見たいだけだ」
「……お兄ちゃんって性格が悪いんだね」
奈央が呆れたような表情で言う。
そうか? これぐらいは普通だろ。
「そう言えば、今さらだけどお兄ちゃんと綾音さんってどういう関係なの? もしかしてママやパパが帰って来ないのを良いことに彼女を連れ込んでいるとか?」
奈央が口に手を当てて意地悪そう笑みを浮かべる。
綾音がいなかったらそう言うのも良いかもな。俺、格好いいから本気になれば彼女ぐらいすぐに出来るだろうし。
「違う。隣の家に住んでいる幼馴染みだ。両親がいないせいで、昔から世話になっているんだけど聞いてないのか?」
「ママはそんなこと言ってなかったと思うよ」
これも俺に対するのと同じドッキリだろうか?
まぁ、俺の母さんは性格が悪いから有り得る話だな。
「ちょっと待ってよ!」
綾音もしつこいな。無視だ、無視。学校まで行けば俺の勝ちだろう。
その後、結局学校に着くまでに俺は綾音に言い負かされておっぱいを揉むという話はなくなった。
一応、他のことなら常識の範囲内で言うことを聞いてはくれるらしい。性的なこと以外でどうやって嫌がらせをしようか。
2話終了です。
では感想待ってます。