僕は今、異世界にいるようです
「あなたの名前は?」
「竹内省吾です……」
さながら刑事ドラマの取り調べといったような趣だった。
「なぜ東地区のあの廃屋にいたんです?」
「わかりません……」
それこそ警察官のような制服を着た、しかし同じ年頃の少女と受け答えをしながら、省吾は考えていた。なぜこんなことになっているのだろうと。
「では、あなたの住所は?」
「はあ。多分ここから見て、異世界に住んでいます……」
尖った耳のその少女は、怪訝な顔で省吾を見た。
そう、彼、竹内省吾は今、おそらくは異世界にいるのだった。
◆
あれは省吾の感覚で、まだ数時間前の出来事だ。省吾は文化祭前日の夕方、クラスの出し物として用意していた作品を台無しにしてしまった。専用の紙で作った高校校舎の大型の立体模型の一部を、転んだ身体の下敷きにしてしまったのだった。
「ど、どうしよう……っ」
幸か不幸か、誰もその現場にはいなかった。へたり込んだその目の前には、めたくそに潰れた高校名物、図書館タワーを模した紙細工の残骸が残っているのみだ。
わかっている。誰も庇ってはくれない。それだけのことをしたのだし、省吾は一人ぼっちだからだ。
しかしつらいのは、一人ぼっちの人間が寄る辺もないままに責められる心細さを、誰も理解してくれないことだ。
悩んだ挙句、省吾は一目散に逃げ出した。
四階男子トイレの一番奥の個室。そこで彼は頭を抱えた。頭の中でひたすらごめんなさいを繰り返し、泣かないように堪えていた。
そして、いつの間にか異世界にいた。