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スカイめいぷる

16/03/20 誤字脱字を修正しました。

 ルゥのせいか、不機嫌そうにぶつぶつ独り言をつぶやく雨澄に付いていくこと十分、スカイめいぷるへと到着していた。


 赤いレンガ造りのお店は想像していたよりもはるかに小さく、二十人も入れば満席だと思われるくらいだ。店内は外観と違って大正時代のミルクホールを彷彿させる雰囲気が漂っており、和服の店員さんが数名忙しそうに行ききしている。


「ちょっと早く着きすぎたわね」


 腕に付けている赤いベルトの時計を見ながら、雨澄がそう言う。


「テーブル全部埋まってるし、近くのお店とか見て時間潰すか?」


「そうね、五分前くらいにまた戻ってくる感じで」


「それじゃあその、そこのお店が気になってるんだけど、いいか?」


「へ? そこ? べ、別にいいけど……」


 了承を貰い、二件先にあった服屋へと向かう。まだ夏休みが始まったばかりの時期だというのにすでに秋物が並べてあり、そんなものなのかなぁとか思いながら服を手に取る。


「んー……これ可愛いな……うっ、高っ、ゼロが一個多い……」


「……えっと、式原? 一応訊いておくけど、その服、買うとして誰が着るの?」


「そりゃヨルカかミルカかコリルだけど? これはヨルカが一番似合うと思うけど」


「そ、そう……」


 なんだろう、どうして苦笑いを浮かべているのだろうか。


「ヨルカはどう思う? ……って、居ないのか」


 先ほどの、ヨルカの鳴き声が思い出される。今にも泣きだしそうな……いや、もう泣いていたかのような声が、耳に残っていた。


 雨澄とスカイめいぷるへ移動しようと歩き始めたくらいでヨルカの存在に気づき、戻ってきたルゥが首根っこ捕まえて、無理やり連れていったけど……


「あ、あのさ式原、もう一つ訊いてもいい?」


「う、うん」


「こういうこと、よくやってるの? その、ヨルカちゃんの服を選んだり?」


「そうだなぁ、お金の問題もあるから買うこと自体は少ないけど、食品の買い物ついでに服を見ることはよくあるかな? 人間界は魔法界と比べて服が多いんだってさ」


「へぇ、そう」


 実際、買った服の着数は本当に少なくて、ほとんどはルゥが作ってくれている。それぞれに似合そうな服を選び、覚え、生地を買い、作るというのがウチの流れだ。


「確かにソレ可愛いわね、ヨルカちゃんに似合いそう」


「だろ? この袖の部分が猫になってるの可愛いよな」


「う、うん……」


「でもピンクか……白の方が可愛いような……って、どうした? 顔、赤くない?」


「いや、まぁちょっと、何か変な感じかも……」


「ん……何が?」


 ぽりぽりと頬をかき、言い淀んだ風の後、答えてくれる。


「えっと、可愛いって言葉を、普通に使うんだなぁって思って」


「……ん?」


 可愛いは可愛いだと思うんだけど、もっと別の言い方をしろってことか?


「いや、別にいいんだけど」


「そ、そうか? あ、このパーカーはコリルが好きそうだな……フードに耳つきか」


「コリルちゃん、そういうのが好きなの?」


「あー……どうなんだろ? コッチに持ってきてた服は、こんなの多かったけど」


 とにかくシンプルな服が好きみたいで、家の中ではパーカーか、大きめのTシャツ一枚にパンツだけなんて姿をしている。でも出かける時はそれらしい恰好をするみたいで、その時は、ゆったりとした感じでフリフリが多めの服を好む傾向にあった。


「持ってきてる服とか、チェックしてるんだ?」


「チェックさせられてる、が正しいかな? ルゥは昔からそうだし、ヨルカたちも全員そうだけど、服装にはうるさいんだよ、ちゃんと見て褒めろとか」


 特にうるさいのは言うまでもなく、ルゥとエルトだ。


「ヨルカちゃんやミルカちゃんでもそういうこと言うんだ?」


「さすがに褒めろとまでは言わないけど、二人ともこだわりはすごいよ、特にヨルカ」


 ルゥが服を作る際、ヨルカは細かいところまで注文するしな。レースの柄とか。


「ふーん、女の子に囲まれて暮らしてると、色々大変なのね」


「服とか髪を褒めろ、思ったことは言葉にする、一緒に住むんだから変な遠慮はしない、これがルゥの教えだよ……」


 他にも、誰かがトイレにいったら耳を塞ぐ、テレビはアニメ優先、身支度や買い物が長くても文句を言わないなどなど、いろんなルールもある。


「あぁなるほど、だからさっき会った時、あたしの服の感想を言ってたのね」


「癖みたいな部分が半分あるから、軽く流してくれると助かるよ」


「ま、いいけど……これ、ミルカちゃんに似合うんじゃない?」


「え、どれ?」


 そんな話をしながら服を見ていると、時間が過ぎるのはあっという間だった。二件隣のお店にいたことが幸いし、ぎりぎり予約時間を過ぎることなくスカイめいぷるへと戻り、すぐに席へと案内された。


 店内はあからさまにカップルばかりに見えて、確かにこれは一人だと入りづらいなぁ、なんて感想を抱きながら、雨澄と向かい合うような形で座る。


「食べるモノ、もう決めてるのか?」


「まぁね……でも一応メニュー見るけど」


 一つだけだったメニューをテーブルに広げ、二人で眺める。


「あ、コレ、この飴の中にアイスとかフルーツが入ってるコレが美味しいんだってさ」


「おぉ、美味しそう……雨澄はコレにするのか?」


「んー、コレとコレとコレも食べてみたい」


 飴でコーティングされた一口サイズの果物が複数並んでいるプレート、綿飴だろうか、カラフルなソースのかかったそれ、二センチは無いだろう動物の形をした飴が五つくらい乗っているお皿、それぞれを雨澄は指差した。


「全部一つずつ注文して、二人で食べればよくないか?」


「なるほど、それ採用。お茶はどうする?」


「そうだな……ん? これも美味しそうじゃないか?」


「どれどれ、痛っ」


 俺が指差した、薄い飴を何層にも重ねたクッキーみたいなヤツを見ようと動いた雨澄の頭が、俺にコツンと当たる。


「お、悪い」


「う、ううん、こっちこそごめん」


 おでこを撫でつつ、雨澄は顔を真っ赤にしていて、ちょっと可愛い。


「俺、お茶は緑茶にするよ」


「そ、それじゃああたしも」


「このクッキーみたいなヤツはどうする?」


「えっと、じゃあそれも」


「それじゃあ注文するな」


 店員さんを呼んで、それぞれを注文する。注文し終えてメニューをたたむと、裏側にテイクアウトの商品が書かれており、つい眺めてしまう。


「みんなの分、お土産買って帰らないとな……」


「そのお土産って、あたしのお金で買うつもり?」


「あぁそのことなんだけど、さっきルゥがこれを渡してくれって」


 別れ際に受け取っていた、茶封筒を雨澄へと渡す。


「デート代、だってさ」


「だ、だからデートじゃないし……ん? 結構、入ってる」


「そうなのか?」


「中身、見てないの?」


「急に渡されたし、雨澄に渡せって話だったから……」


「はぁ……あんた、お金の管理まであいつにさせてるの?」


「もちろん俺もお金は持ってるけど、生活費は、全部ルゥかな……」


「へぇー、お小遣い制なんだ」


「……」


 言われてみれば、なんだか変なような気もするけど、買い物はいつもルゥと一緒だし、料理するのもそうだから、問題がないような感じもある。ルゥが今の身体になった時からそんな風になってた気がするけど、よく覚えてないな。


「ま、これだけあれば色々買えるんじゃないの?」


 茶封筒を返される。


「奢りだって言ったのはあたしだから、注文したものは全部払うわよ」


「いや、でも……」


「お土産をソレで買ったら? 五人分だと結構な値段になるし」


「……う、うん」


 雨澄がこう言ってくれているんだし、甘えるとしようか。


 また何か機会があったら、今度は俺が奢ればいいんだし……いや、その機会を俺が作らないといけないな。


「魔法薬を使ったお茶が試飲出来たりするお店があるって聞いたし、今度はそこに行ってみないか?」


「へ……こ、今度?」


「うん。さすがにエルトは一緒になるだろうから二人きりは難しいと思うけど、どうだ?」


「ま、まぁ、別にいいけど……」


「次は俺の奢りな」


「……わかった。まぁまだ夏休みはあるし、来週くらいにでも行く?」


「そうだな、帰ったらすぐお店のこととか調べてみるよ」


 魔法薬の関係ならみんな喜びそうだし、そうだ、雛祭たちを誘うのもいいかもしれない。


「あ、そういえば、海なんだけどさ」


「海!? もう海になるの!?」


「へ? もう?」


「ま、まだ、今日初めて出かけたのに……いきなり、海? い、いいけどぉ……あれ? もう次とその次の約束? 意外と乗り気なの? ひょっとして脈ある? 本当に?」


 背後にある大きな時計に向かってぶつぶつ言っているのが、なんとなく恐い。


「えっと、雛祭が海のそばに別荘があるから、そこへみんなで行かないか、みたいなメールをくれたんだけど、雨澄も大丈夫だよな?」


「……」


 あれ、急に機嫌が悪くなったような?


「はぁ……うん、そうよね、式原ってこういうヤツよね」


「……?」


「その話は聞いてるし、特に問題ないわよ」


「そっか、じゃあこのまま話を進めるか……くしゅん」


 んん? なんだか、寒気がするような?


「くしゃみなんてして、もしかして夏風邪? あー、式原だしね」


「何が言いたいのかよくわかるけど、ここの冷房が効きすぎなだけだと思う」


「そう? そんな感じはしないけど……」


「そうか? 俺は首回りがすごく寒い気がするんだけど」


「……それ、ヨルカちゃんがいないからじゃないの?」


「……」


 そっか、ここ最近はずっとヨルカがマフラーになってたから、それで、か。


「……ヨルカちゃんのこと、心配?」


「えっ……うーん、心配、とはちょっと違うかも?」


「と、言うと?」


「寂しい……かな。ヨルカとはいつも一緒にいるはずなのに、そばに居ないような感覚がここ最近ずっとあってさ」


「……そう」


「早く、元に戻ってくれないかな……」


 いつものヨルカの笑顔を見て、抱っこして、新しい魔法薬の話をしたりしたい。


「ヨルカの声が、聞きたいよ……」


「……そうね、あたしもヨルカちゃんと……ん?」


 雨澄が、くるりと振り向く。


「どうした?」


 彼女の後ろにあるのは、観葉植物と、古い大きな時計くらいだ。


「今、ヨルカちゃんの声が……」


「ん? ヨルカ?」


「ううん、気のせいかも……あ、お菓子きたみたい」


 二人の店員さんが、お菓子もお茶も一度に全部運んできてくれる。


 テーブルに並んでいくお皿をキラキラとした目で眺めている雨澄を見て、今はこの時間を楽しまないとなと思うのだった。


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