ルゥ曰く伏線はあったらしい
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16/03/20 誤字脱字を修正しました。
それから約数分後、帰路についた俺たちは再び森の中を歩き始めていて、そろそろコリルと話し合いをしなくちゃなと思い始めていた。ちらりと見た背中のコリルは取り返した眼鏡をかけていて、なんとなくしょんぼりとした感じの表情をしている。
「なぁ、コリル」
肩に居るヨルカと距離の近いルゥは仕方がないにしても、背後の雛祭や雨澄たちには出来るだけ聞こえないよう、声のボリュームを抑え気味で話しかけた。
「はい、なんでしょう?」
「さっきは急に大きな声出して、ごめんな」
「……いえ」
微かに視線を逸らせたので、気にしていたのは間違いないだろう。
「勝手なことをしました。ごめんなさい」
「いや……うん、コリルが効率とか色々と考えてくれた上でやったっていうのはわかってるんだ。でも、味方でも敵でも、命がかかわることはちゃんと言ってくれないと困る」
「……はい。味方でも敵でも、被害などを想定して報告すべきでした」
「あー……それもそうなんだけど、俺としては、出来るだけ誰かが死んだりとか、そういうのは無しの方向で行きたいなーって感じなんだ」
「……敵も、ですか?」
「うん。俺は召喚士でいろんな種族と言葉が交わせるし、だから話し合いで解決出来るならそれでいいかなって思うんだ。もちろん会話が成立しなくて、戦うべき時もあるのかもしれないけど、それはみんなで……じゃない、俺が判断するから」
「……」
「みんなは使い魔で、俺に力を貸してくれているんだから、すべての事柄の責任くらいは俺に押し付けて欲しいんだ」
コリルの瞼が、少しだけ持ち上がる。そして瞳の星の輝きが、強まった。
「わかりました。それが、あるじ様の命令ならば」
「う、うーん、命令ではない、かな? お願い事だよ」
「お願い事……あるじ様は、不思議な考え方をお持ちのようです」
「そう、かな?」
俺からすれば、コリルの方が不思議キャラに感じるのだが。
「とっても、面白いです」
とろんとした笑みを浮かべたかと思うと、ギュッと抱きしめていた力が強くなる。
「わたしを、あるじ様の使い魔にしてください。お願いいたします」
「え、えっと……こちらこそ、よろしく?」
返事に、コリルはこくりと頷いた。
サイレリアさんの出した試験をしている段階で、てっきり仲間になってくれるのだとばかり思っていたけど、違ったのか? まぁ、結果オーライ、なの、かも。
「妖精たちのコトも考えると『王の資質』だけではないみたいですね……」
「え……? 妖精たち?」
「あるじ様のこと、もっと知りたいです」
「う、うん……俺も、もっとコリルのこと、知りたい、かな」
はぐれ妖精を追い払い、眼鏡も取り戻したし、コリルの世話? も問題ないし、これから一緒に暮らすのは確定だと見てもいいだろう。ともなればもっと彼女のことを知りたい。何をして上げられれば一番いいのかとか、色々考えられる材料になるしな。
「はぁ……」
唐突の大きなため息に、ビクッと身体が震える。ため息の主は、ルゥだ。
ちらりと様子を伺うと、なんとも言い難い複雑な表情を浮かべていた。ルゥのこの、どうしてこうなるのよ、どうして上手くいかないのよ、みたいないろんな感情が混ざった風の表情は、本当に珍しい。
「どうしたんだ、ルゥ?」
その問いかけに、歩く速度を落としつつ、俺のすぐそばまでやってくる。
「……別にぃ」
「いや、あからさまに変な表情してるんだけど?」
ただ不機嫌そうな様子は、少しも感じられない。
「……まぁ、なるようにしかならないのかなぁって思って」
「……?」
コリルが仲間になる件について、だろうか? いやそれは変か、そもそも策士を仲間にしようと言い出したのはルゥなわけだし……となると、なんだろう?
「……」
ほんの一瞬だけど、ルゥの視線が背後へと向けられた。
少しでもルゥの感情を知りたいと思い振り向くと、なんでしょう? と言った風に雛祭が小首を傾げる。雨澄や泡波、エルトもこちらを見ていて、特別変な感じは……
「ん……?」
ちらりと、エルトの背後に何かが光ったように見えた。
「はい、すとーっぷ」
その掛け声と共に、俺の身体をルゥが抱き留める。見ると、目の前には木があり、歩き続けていたらぶつかっていたとすぐに察した。
「わ、悪い……」
「はぁ……もういい、わかった、無駄な抵抗なのね、諦めるわ」
「……何が?」
「もう、鬱陶しいから出てきなさい! 気づかれてないとでも思ってるの?」
背後に向かい、ルゥがちょっと強めの口調でそう言う。なんだろうと思い振り向くと、同じように雛祭たちもそちらの方向を見つめていた。
エルトだけは振り向くことなくこちらを見ていたが、俺たちの視線に軽くため息を吐き、くるりと身体を反転させる。
すると、とある茂みの中から、妖精が顔をのぞかせた。
「あれ、君は……」
それは見覚えのある、目つきの悪い妖精だった。
「み、見つかったなら、仕方がないわ……」
目つきの悪い妖精が片手を上げると、次から次に妖精が姿を現す。どうやら先ほどの村で見た八人、全員が付いてきてしまったみたいだ。
「ちぇっ……何か困ったことでもあったら、助けようと思ってたのに……」
「悪い、もうちょっと大きな声でしゃべってくれないか?」
「っ……!」
ただでさえ目つきが悪いのに、ギロリと睨んだかと思うと、ピューッそばまで飛んでくる。が、目の前でペシッとルゥに叩き落とされた。
「お、おい、ルゥ……」
「だって、何するかわかったもんじゃないし」
「ぅぅぅ……」
うめき声を上げつつ、ふらふらと妖精はまた飛び始める。そしてルゥをちらちら警戒するように見ながら、しゃべり始めた。
「あ、あんた、召喚士なんでしょ?」
「う、うん」
「こいつたちも、みんな使い魔なんでしょ?」
「ま、まぁ、そうかな?」
ルゥと雨澄たちは違うけども。
「だったら、わたしたちを使い魔にしても、問題ない、でしょ?」
「……へ? 君たち、を?」
なんとなく不服そうな顔をしているけど、ひょっとしたら、使い魔にして欲しいとお願いされているのだろうか?
そんな風に感じていると、他の妖精たちも彼女を囲むように飛んでくる。
「さっきの食べ物くれるなら、魚取ってくる」
「わたしも木の実とかキノコいっぱい取ってくる」
「いろんな使い魔を連れてるんだしいいでしょ?」
次から次へと言葉を発する妖精たちに、なんと返事をすべきか悩んでしまう。彼女たちはそれぞれそれなりの魔力を持っており、一人くらいならまぁ、とか思わないこともないけど、八人にもなると……
「あんたたち、それなら東の森へ行けばいいでしょ? 森を掃除するだけで食料も寝床も手に入るんだから、それでいいじゃない」
「……あんたの言葉をはいはいって信じるわけないじゃない」
「はいルゥストーップ、落ちつけ」
今にももう一度その妖精を叩き落とそうとしてるルゥを止める。
「そ、それに、わたしはそいつに頼んでるの、使い魔のあんたは関係ないじゃん」
頭に両手を乗せ、びくびくしながらそう続ける目つきの悪い妖精なのだが、俺は頼まれた覚えはなかったり。
「はあ? このわたしはカズトのパートナーで使い魔じゃないし。カズトの使い魔になるのなら、わたしの使い魔になるのと同じだし」
「はあ? あんた何言ってるの?」
「ストップストップ! ルゥ、落ち着け! 相手は子供なんだろ!?」
しゃべり方も声も子供っぽいし、ルゥがそうだって言ってたんだろ確か。
「えっと、あるじ様の使い魔になりたいのでしたら、お願いすべきです」
「うっ……」
コリルの正論っぽい感じの言葉に、妖精がたじろぐ。
「ミ、ミドちゃん、お願い、しようよ……」
「で、でも……」
「そもそもこいつに付いていこうって言ったの、ミドちゃんじゃん」
「そ、そうだけどぉ……」
妖精たちは何やらこそこそと言い合いを始め、その間にルゥは落ちついたみたいで、もう大丈夫よ、みたいな顔でこちらを見てくる。なので肩に乗せていた手を離し、ずり落ちそうになっていたコリルを背負い直す。
「ねぇ、使い魔にしてあげればいいじゃない」
突然、雨澄がそんなことを言い出す。エルトのそばに居るということは、彼女から会話の内容を聞いたみたいだ。
「別に、あんたには関係ないでしょ?」
「あたしは式原に言ってんの。召喚士なのも、主になるのもあんたでしょ?」
「……う、うん」
確かに俺の問題と言えば俺の問題だ。けれども、ルゥの意見を無視するわけにもいかないのも事実で……
「とりあえず面接みたいなものくらいしてあげたら? 何の妖精なのかも訊いてないんでしょ?」
「あ、バカっ!」
ルゥのバカ発言に、雨澄がムッとした顔を浮かべた。何かルゥにとって不都合な言葉を言ってしまったんだろうけど、雨澄の言うことも一理あるので、一応訊いてみることに。
「あ、あのさ、君たちって何の妖精なの?」
「え? わたしは火の妖精、だけど?」
「……あーぁ、狐、全部あんたのせいだからね、覚えときなさいよ」
そんなルゥの言葉は、もう耳に入っていなかった。
「火の妖精!? マジで!? 火の魔法も使えたりするの!?」
「ひぃっ、な、何よ急に近づかないでよ……つ、使えるわよ、火の妖精なんだし、当然でしょ?」
「よし採用! 使い魔にしよう!」
「……へ? 本当に!?」
いやっほう! ついに念願の火属性の使い魔だ!
「ミドちゃん、使い魔にして貰えるの?」
「そ、そうみたい……」
「さっきの食べ物、いっぱい貰えるの?」
「ちゃんと役に立てば、貰えるはずよ、多分」
「さっきの食べ物ってクッキーのこと? 安心していいぞ、他にももっと美味しいモノたくさん食べさせてやるから!」
「本当っ!?」
嬉しそうに舞う妖精たちと一緒に、俺も舞ってみたり。
「あー、はいはい、わかったわ、とりあえずカズトの使い魔候補ってことで仮契約ね。今後使い物になるかどうかわかんないし、花菱のところで畑の番人の手伝いをしながら様子見ってことで、それならギリギリ許してあげるわ」
「わかった、そんな感じで!」
俺の反応に、こめかみに手をやりながらルゥはため息を吐く。
というわけで八人の妖精を連れ、意気揚々と塔への帰路へとつくのだった。




