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そして全部バレる

2016/03/20 誤字脱字を修正しました。

「いぃぃぃやぁぁぁだぁぁぁあ!」


 夕食後、アサネさんがそれぞれの寝室へと案内しようとしてくれたところ、ヨルカが俺と同じ部屋じゃないと嫌だと駄々をこねはじめていた。


 普段、丁寧な口調で話しているので、こんなヨルカは少し新鮮だ。


「でもねヨルカ、主と使い魔という関係だとしても年頃の男女が同じ部屋で寝るというのは問題があると思うの」


「嫌だ! 姉さま嫌い!」


「うっ……か、カズト様からも、何か言って頂けませんか?」


「えっと、こうなったヨルカには何を言っても無駄だと思います」


「そ、それはそうなんですけども……」


 客間の前で、俺の足にしがみ付いて離れないヨルカ。そんな様子を雨澄たちは苦笑いを浮かべながら見ている。


「ふぅ……もう面倒だから言っちゃえばいいじゃない」


「ちょっ、ルゥ」


「そうですわ、言ってしまった方が楽になりますわよ」


「……? どういう意味でしょう?」


 アサネさんだけじゃなく、雨澄たちもルゥ、エルトの言葉に首を傾げる。


 そのコトを伝えてしまうと俺の命が危ない気がするので言いよどんでいると、半眼で一度睨んだあと、ルゥが暴露を始めた。


「言い訳に聞こえるかもしれないけど、わたしたちの家って学生寮なの。小さな部屋にみんなで住んでるわけ。で、だから普段からみんな一緒のベッドで寝てて、今更部屋を分けたりする必要がないってことで、ご理解頂けるかしら?」


「……それは、カズト様も一緒に、という意味でしょうか?」


「そうよ、カズトは毎晩ヨルカの抱き枕になってるって意味」


「ヨルカを、抱き枕?」


「ち、違いますよアサネさん! ヨルカ『を』抱き枕にじゃなくて、ヨルカ『に』抱き枕にされてる、です!」


「ちなみに私は一人で寝ておりますので、一緒なのは他四名になりますわ」


「……へぇ、そうですか」


 わー、また能面みたいに無表情だよぉ!


「一応言っておくけど、あなたが考えてるようなコトは一切ないわよ。一緒に寝るのを望んだのもヨルカだし、わたしとミルカも一緒だから変なことは出来ないし」


「……本当? ミルカちゃん?」


「は、はい、ワタシもヨルちゃんも命令とかじゃなくて、一緒に寝たくて寝てるんで、そのぉ、それが日常で、今夜も出来れば、一緒に……」


 たれウサ耳で恥ずかしそうに顔を隠しつつ、そう返事をしたミルカはとても可愛い。


 そんなミルカの様子に嘘ではないと納得してくれたようで、仕方がありませんね、という風な軽いため息を吐いた。


「わかりました、では不問と致しましょう。ベッドをもう一つお運びしておきますので、カズト様たちはヨルカの部屋をお使い下さい」


「あ、ありがとうございます」


「こちらの客間は、雨澄様たちにお使い頂きましょう」


 アサネさんの言葉をエルトが訳し、雨澄たちがにっこりと頷く。


「どうせならあたしたちも式原と同じ部屋がよかったけど、仕方がないかー」


「そうですね、私たちも式原くんをサンドバッグに……じゃない、抱き枕にしてみたかったですねー」


「わたしもヨルカちゃんの抱き枕になりたい……」


 今の言葉は、聞かなかったことにする。変に反応して波風立てるより、黙っていた方が記憶から薄れるのも早いと思うし、このままヨルカの部屋へ移動しよう。


「お風呂の支度はもう出来ておりますので、いつでもご利用下さい。デル家自慢の薬草風呂ですよ」


 あ、この流れはヤバイ。お風呂ネタはヤバイ。


「へぇ……それって噂に聞く、魔力量が増えるってやつ?」


「んふふふ、どうでしょうか。美容に良いのは間違いないですよ?」


「それは楽しみね」


「だな、楽しみだな! よしまずはヨルカの部屋へ移動しよう」


「えっ……えぇ、そうね」


「ヨルカがどんな絵本見てたのか、気になってたんだよなー」


 ちょっと強引にルゥの手を引き、その場を立ち去ろうとする。


「ちょっと待って」


 しかし、雨澄が声をかけてきた。


「な、なんだ?」


「お風呂なんだけど、式原が最後でいい? あたし式原の後に入りたくないし」


「お、おう」


 こういうハッキリと意見を言うところが、雨澄の良いところだと思いたい。


「ちょっと待って雨澄さん、式原君が最後だとわたしたちが浸かったお湯、飲んじゃうかもよ?」


「いやいやいや、絶対に飲まないから」


「そう断言されるのも少し、なんだかなぁって思うんですけど?」


「え? 雛祭は飲んで欲しいの?」


「式原くんが私たちの浸かったあとのお湯を飲むか飲まないかの二択の話ですと、飲んでくれた方が好感度は高いと思います」


「そもそも雛祭たちが浸かったお湯だひゃっほう! とか思って飲んだりするって発想自体がないんだけど……」


「式原が入る直前にお湯を抜けばいいんじゃないの?」


「それで雨澄たちの気が済むなら、そうしてくれていいよ……」


 薬草風呂、浸かってみたかったけど飲む飲まないとかの話になるくらいなら、諦めた方がマシと言えるだろう。温まれないのは残念だけど。


「何言ってるのよカズト、たった今わたしがお風呂楽しみだって言ったの忘れたの?」


 うわ、何を言い出してるんだよ!?


「そうですわよ、ケット・シーの薬草風呂、しかもデル家のモノとなるとそう簡単にはお目にかかれない秘湯です。入らない理由がありませんわ」


「そうだけど雨澄が嫌だって言ってるんだから仕方がないだろ? 俺の分まで、ルゥもエルトもゆったり浸かってくれ、な? なっ?」


 ルゥとエルトの肩をポンと叩きつつ、目力でそれ以上危険なワードを口から出さないでくれと念を送る。


 みんなで一緒に寝ているどころか、お風呂にまで入ってるとかバレたらどうなるか火を見るより明らかだろ!


「あっ……そうね、わたしたちだけで楽しむことにするわ」


「そうですわね、カズトの分まで楽しむことにしましょう」


 さすがは察しのいい二人だ、念が伝わったようだ。ミルカはそんなやり取りに首を傾げていたけど、すぐに理解したようで、遅れてコクコクと頷いていた。


「あんたたちが先に入っていいわよ、魔法界にくるのは初めてなんでしょうし、お客様なんだから一番風呂の権利は譲るわ」


「……そ、そう」


「では、すぐに支度をしましょうか」


「タオルは脱衣所に置いてあります。あとお風呂上り用に果物と薬草ドリンクも用意しておきますので、そちらもご自由に」


「……とのことですわ」


 エルトに訳して貰い、ぺこりとお辞儀をしながらお礼を言っている三人。その後、支度のためにすぐに部屋へと入っていった。


「ふぅ……助かった」


 安堵のため息を吐きつつ、ヨルカの部屋へと歩き出す。


 妖精時代のルゥはアイコンタクトで会話が出来ていたのだが、最近はさっぱりで、こういう時のために出来なくなった理由を追及する必要があるのかもしれないな。


「ご主人様! 今日も洗いっこしましょうね!」


「ちょっ」


 急いでヨルカの口を塞ぐが、時すでに遅し。俺たちとは逆の方向へと歩いていっていたアサネさんが、また能面のような顔でこちらを振り向いていた。


 そして瞬時に傍へと移動してきて、あと三センチくらいでおでこがくっつきそうなくらいの距離まで顔を近づけ、おどろおどろしい声で問うてくる。


「カズト様? 今、何やら聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど?」


「式原ぁ? 今、ヨルカちゃん、何て言ったか教えてくれない?」


「あれ、雨澄に雛祭……どうして、背後に?」


 閉じていたはずの部屋のドアは開いており、右後ろには雨澄、左後ろには雛祭が立っていた。二人とも、笑顔だ。


「七羽とひなは、見事に退路を断ちましたわね」


「そうね、結構なスピードだったし、二人の実力がどれくらいか多少はかれたわね」


 諦めた様子のルゥとエルトは、そんな会話をしている。ひどい。


 つまりは助けてくれそうなのはミルカだけど……ミルカに頼るのもなぁ?


「ミルカちゃん、わたしも一緒に入っていい? 身体も髪も洗ってあげるから」


 ちらりと見たミルカは泡波に絡まれている最中にようで、苦笑いを浮かべている。


「カズト様?」


「「式原(くん)?」」


「あー……えっと、そのですね」


 自然と、身体が正座をしてしまう。最後の味方だろうと思っていたのに、思考とは別で身体は諦めてしまったようだ。白状するしか、ないのか。


「しょ、召喚士と使い魔というものは、あまり距離が取ることが出来ないんです。その制約で寮の大浴場には行けなくて部屋の小さなお風呂を使ってたんですけど、どうしてもヨルカたちも一緒に入るって聞かなくて……そうなってました」


「つまり、式原が入りたくて入ってたわけじゃないって、そう言いたいわけ?」


「…………そ、そういうわけでもない、です」


 そうですと言うとヨルカが泣いてしまうので、口が裂けても言えない。


「フォローってわけじゃないけど、わたしたちも一緒に入ってるわけだし、カズトが特別変なことした、だなんてことはないわよ。エルトの胸にはすっごく興奮してたけど」


「おまっ、なに火に油注いでんだよ!」


「だからフォローってわけじゃないって言ったじゃない」


「むむむぅ……エルト、本当にあなたも一緒に入ってたの?」


「えぇ、まぁ……私の髪や身体を洗うのも、カズトの務めですし」


 特に俺を異性としては見てません、とでも言いたげな涼しい表情をしているけど、頬が少し赤いような気もする。


「カズト様、一応申し上げておきますけど、私たち使い魔は通常、同性でも主様と一緒にお風呂に入るだなんてことはありません」


「は、はい……そんな気は、してました。交代で入るんですよ、ね?」


「当たり前です」


「ヨルカちゃんたちがそう言ってるからという免罪符を手に入れて好き放題やってただなんて……式原君、やるね」


 わー、泡波に初めて褒めて貰った気がするなぁ。


「はいはいそこまでよ、もうカズトいじめはいいでしょ?」


 ルゥはパンパンと手を叩き、どんよりしていた空気を打ち払う。


「わたしもヨルカもミルカもエルトも、みーんな納得してカズトと一緒にお風呂に入ってるの。わたしたちが納得してるんだから、外野はとやかく言わない」


「で、でもおかしいでしょ? あんたとエルトはなんだかその、わざとっぽい感じがするけど、ヨルカちゃんやミルカちゃんは幼いこといいことに、式原が何か騙してるように見えるんだけど……」


「幼いのは外見だけで、ヨルカもミルカもあんたより年上なんだけど?」


「……え?」


「それに、二人をちょっと甘く見過ぎよ。ちゃーんと『そういうこと』もわかっててカズトとお風呂に入ってるんだから、結構したたかなものよ」


「……」


 本当に? と言いたげな雨澄と雛祭の視線を受け、ミルカは顔を真っ赤にさせて目を逸らす。


「……あれ? 雛祭さん、ひょっとしてヨルカちゃんとミルカちゃんも……」


「は、はい、そうみたいです、まさかの伏兵です……」


 納得してくれたのか、雨澄と雛祭はちょっと距離を取った場所でこそこそと内緒話を始めている。もちろん、アサネさんの顔は目の前にあるままだけど。


「カズト様、最後の確認ですが、ヨルカの身体を洗ったことはあるんですね?」


「は、はい……でも、大切なところはもちろん、触ってませんよ?」


「そういう部分はちゃーんとわたしとエルトが見張ってるから、大丈夫よ」


「……そうですか、では信じましょう」


 能面のようだった顔が、疲れた風に変わっていく。


「はぁ……ヨルカはヒルダに似たのね、困ったものだわ」


「え……? ヒルダさん?」


「はぁ……」


 こめかみを押えつつ、ため息を吐きながらアサネさんはとぼとぼと去っていく。


 もしかして、ヒルダさんもヨルカみたいなことをしてて、アサネさんが止めたりしている日々なのだろうか?


「さてと式原、結論が出たわ」


 振り向くと、ちょっと顔の赤い雨澄と雛祭が。


「きょ、今日はあたしと雛祭さんも、あんたと一緒にお風呂に入るわ」


「…………ごめん、よく聞こえなかった、もう一度言ってくれないか?」


「私と雨澄さんも式原くんと一緒にお風呂に入ると言ったんです」


「あ、わたしも」


「えっと……」


 それって、雨澄たちも一緒に、俺とお風呂に入るってこと、だよな?


「いやいやいやいやいやいやいや、はぁあ!? 何言ってんの!?」


「これは決定事項よ、あんたに拒否権はない」


「そうです、式原くんがヨルカちゃんたちに変なことをしていないか、審査する義務が私たちにはあるんです」


「ついでにわたしはヨルカちゃんとミルカちゃんとお風呂に入れてハッピー」


 ダメだ、何か変な方向に暴走してるぞ、この二人。泡波はいつも通りだけど。


「ルゥ、エルト、何か言ってやってよ」


「わたしは別にかまわないわよ」


「私も七羽たちとはお風呂を共にしたいと思っておりましたし、問題ありませんわ」


「俺に味方はいないのかよっ!!」


 というわけで……


「んふふふぅ、お風呂楽しみですねー、ご主人様♪」


「あ、あははは……」


 ミルカの弱弱しい苦笑いを見つめながら、俺も諦めの境地へと達する。


 その後、みんなで入ったお風呂は……大変だった。


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