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受け継がれる絆

2015/02/10 誤記など修正しました

 目が覚めると、ルゥが俺の顔を覗き込んでいた。どうやら膝枕をしてくれているようで、後頭部には柔らかい感触が伝わってきている。


「なんで俺、ルゥに膝枕を……?」


「わたしがじゃんけんで勝ったから」


「じゃんけん? ってか、ココどこ?」


 頭を動かして辺りを見回してみるが、見たこともない場所だ。俺のお腹の上でヨルカが眠っていて、ベッドの上なのだろうということはわかるけど……


「もう、くすぐったいじゃない、頭を動かさない」


「で、どこなんだココ?」


「ヨルカの部屋よ」


 そう言われて改めて部屋を見回すと、本棚には薄くて大きな本……たぶん絵本が大量に入っているのは目に入るが、他にはまったく何もない。これがヨルカの部屋だと言われても、正直ピンとこない様相だ。


「ヨルカはカズトの使い魔になったわけだし、ココに帰ってくることなんてほとんどないんだから、片付けられてても不思議じゃないでしょ」


「あぁ、そっか……」


「それで……もう大丈夫なの? とりあえず身体に異常はなかったけど」


「……何が?」


「え……? もしかして、何も覚えてないの?」


 ルゥの慌てた様子に、ミルカとエルトが姿を見せる。どうやらベッドを背にするように床に座っていたみたいだ。


「私と書庫で本を読んでいたのは覚えていますか?」


「うん、そりゃ覚えてるけど…………あっ」


 フッと自分に何が起こったのかが思い出される。


 そうだ、ヨルカと召喚士の必殺技みたいなやつを試そうとして、実験してみたら魔法陣が急に爆発して……


「あ、あはははは……」


「思い出したみたいね……で? 何をしてたの?」


「え、えっと……ちょっとした魔法、みたいな?」


「そんなの痕跡でわかってるの、何の魔法を実験しようとしてたか訊いてるの」


「……」


 座った目でルゥとエルトが顔を覗き込んでくるのだが、出来れば言いたくない。たまには俺だって活躍したいし、すごいじゃないとか言われたいし、ドヤ顔したい!


「書庫の奥に消えたかと思ったら急に大きな爆発が起こって、駆けつけてみたらあなたとヨルカが目を回していて、辺りには倒れた本棚と散乱した本の山……あの後、誰がそれを片付けたと思ってますの?」


「うっ……それは、とんだご迷惑を……」


「何言ってるのよ、あれを片付けたのはわたしとミルカじゃない」


「ちょっ、今はそんな些細なことはどうでもいいでしょう? 重要なのはカズトが何をしようとしていたかで――、」


「カズトが言いたくないみたいなんだから、いいじゃない」


「……」


 ルゥの言葉に不満そうなエルトは、ミルカを見る。


「わ、ワタシも、御主人様が言いたくないのなら、そ、それでいいと思います」


「……はぁ」


 ため息からして、なんとか諦めてくれたみたいだ。


「どうせ俺だって活躍したいしとか、わたしにすごいじゃない、とか言って欲しくて隠そうとしてるんだろうし、たまには主らしいこと、男の子らしいことをさせてあげましょ」


「……」


 ぐうの音も出ないほどの察しの良さに、何か言い返したかったのだが、『すごいじゃない』と言って欲しかった、という部分を当てられたことにより黙り込んだ。


 言われて気がついた。『すごいじゃない』だなんて言葉は、ルゥしか言いようがない台詞なわけで、つまり俺は、ルゥに褒めて貰いたかったのだ。


 自分自身の思惑すら気づけなかったのに、それを見事に理解した彼女に言い返す言葉なんて、あるはずもなかった。


「さてと、ほらヨルカ、起きて」


「ふなっ!?」


 身体を揺すられ、ヨルカが飛び起きる。


「狐たちはもう夕飯を食べてるだろうし、わたしたちも行きましょ」


「……おう」


 ルゥは本当に、さすがだ。




◆◆◆




 ミルカに案内されたその部屋では、聞いていたとおり雨澄たちが先に食事を始めていた。


 特に言葉が通じなくても問題はなかったみたいで、やってきた俺に対し『もう大丈夫なの?』なんて、優しい言葉をかけてくれる。丸い木のテーブルに並んだ料理は魚がメインのようで、お土産であるマグロも並んでいた。


「こちらにおかけになってお待ち下さい、すぐに料理を運んできますので」


 ぺこりとお辞儀をし、ヒルダさんが部屋から出ていく。アサネさんの姿はなく、キッチンで料理をされているのだろうと推測される。


「すっごい広い部屋だな……」


 赤い絨毯に暖炉、キラキラと光るシャンデリア、大きな絵画。二百人くらいの規模でパーティーが出来そうな広さで、なのに部屋の真ん中にぽつんと木のテーブルが二つあるだけで、なんとなくソワソワしてしまう。


「あそこに山積みになってるテーブルとか並べて、ここで晩餐会とか開いたこともあるんでしょうね」


 確かに部屋の端にはテーブルや椅子が山積みになっており、普段は掃除が大変だろうから片付けてあるんだろうなと察した。


「ここでヨルちゃんの誕生日パーティーをしたことがあるんですよ」


「へぇ、こっちの世界でもそういうのはあるんだなぁ」


 聞いたことないけど、もしヨルカやミルカの誕生日が十三月とかだったら、人間界ではいつ誕生日パーティーをすればいいのだろうか?


 そんなことを考えていると、アサネさんとヒルダさんが沢山の料理を運んできてくれる。こちらのテーブルにはヨルカがいるためか、雨澄たちより豪華な気がしなくもない。


「ねぇ式原、あれ見て?」


 背後にいた雨澄に肩を叩かれ、振り向く。すると暖炉の上に飾ってあった大きな絵画を指差しつつ、なんとなくニヤけた顔で言った。


「あのヨルカちゃん、すっごく可愛いと思わない?」


「……おぉ」


 つい声が漏れてしまうほど、可愛らしい絵だ。


「ヨルカも一応デル家のお嬢様だし、パーティーの時はこういうドレスも着てたのね」


「さすがは元王族ですわね、ちゃんとした格好をすれば風格があります」


「んー、ヨルちゃんの後ろに立ってる男の人は、誰でしょう……?」


「……? えっと、ルゥもエルトもミルカも、何を言ってるんだ?」


 俺の言葉に、三人がきょとんとした風の顔でこちらを見てくる。


「いや、よく似てるけどあの絵の人、ヨルカじゃないし」


「「「え……?」」」


「ちっ……」


 雨澄が軽く舌打ちをし、それを見て雛祭が苦笑いを浮かべた。


 なるほど、俺は試されていたのか。


「さすがはヨルカの主様ですね、お察しの通り、あの絵はヨルカではございません」


 俺たちの会話を聞いていたらしく、笑顔でアサネさんが教えてくれる。


「あのお方はこの街をお作りになられた我々の先祖、レトナ様です」


「……へ?」


 名前を聞いて、ドクンと心臓が高鳴った。


「この辺りに大きな結界を作られ、当時戦っていた北の蛮族共を蹴散らした勇者でもありまして、ケット・シーでは大変珍しい、武に優れた方だったと伝え聞いております」


「……」


「ちなみに後ろに立たれているの男性の方はレトナ様と契約をされていたでララート様と仰いまして、私とヒルダが使えている主様の先祖にあたる方です」


「そう、ですか」


 レトナとララート……まさか、こんな形で『出会う』ことになるだなんて……しかも、二人の子孫が同じように契約をしているだなんて……


「二人の絆は、今も結ばれたままなんですね」


「え……? そう、ですね、そういうことになりますね」


 そっか……なんだか、嬉しいな。


「んん? なんですか、ご主人様ぁ?」


 テーブルに並んでいく料理をキラキラした目で見ていたヨルカが、俺の視線が気になったのか、くるりと振り向く。


「なんでもないよ」


「んふふぅ、そうですか♪」


 そう言いながらも身体も反転させ、抱きついてくる。


 俺もヨルカと、レトナとララートみたいな絆が作っていけたらいいなぁ。


「この光景は目に余るわね、ヒルダ」


「えぇ、早く対処しないといけませんね、アサネ」


 あぁ、そういえばレトナにもこんな風に嫉妬深いというか、そんな一面があったな。これも受け継がれているモノの一つなのだろうか。


「カズト様、明日の午前中には必ずヨルカが猫の姿へ戻れる薬を完成させますので、もう少々お待ちください」


「は、はい、よろしくお願い致します」


「となると、あいつの所に行くのは昼からってことね……」


「……あいつ?」


 つぶやきに反応すると、一人だけ食事を始めていたルゥは口に含んでいたモノを飲み込み、説明を始めてくれた。


「『策士』の所に行くって話したでしょ? 七賢者って呼ばれる魔法界でも屈指の知能をもった七人の一人で、さっき街で色々と情報収集したら意外と近いところに住んでるみたいだったから、午後から出発でも大丈夫かなぁって」


「もしかして、東方の森へ行かれるのですか?」


 ルゥの話を聞いて、アサネさんが少し心配そうな顔をしている。


「そうだけど、何か問題でもあるの?」


「最近、あの森にはいい噂を聞きません。なんでもはぐれ妖精たちが住み着いて村を作り、森や近隣の街を荒らしているとか」


「アサネさん、はぐれ妖精ってなんですか?」


「種族ごとにあるルールを守らなかったり、殺し盗みなどの犯罪に手を染め、住む街や村を追い出された妖精たちのことです」


「それは、怖いですね……」


 しかもそんなのが集まって村を作ってるだなんて怖すぎる。


「大丈夫よ、そんなの見つけたらこのわたしが容赦なく灰にしてやるから」


 あ、こっちの方が怖いかも。


「そういう者たちがいる、とだけでも頭の隅に置いて頂けていたら何よりです」


「わかったわ、情報ありがと」


「ご主人様、この煮魚取って下さい! これ、とっても美味しいんです!」


「う、うん……はい、あーん」


 なんとなく、策士に会いに行くだけだったはずなのに、面倒事にも巻き込まれる展開ではないかと、小さな不安が残るのだった。


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