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二章・エピローグ

2015/1/17 誤記修正しました

 竜の国から帰国すると、部屋では雨澄たちがお茶を飲んでいて、なんでも昨日についてを聞きにやってきたらしい。なので、どうやって鍵のかかった部屋に入ったのかはあえて訊ねず、事前にルゥと相談して決めていた、嘘は言っていない程度の内容を話した。


「ふ~ん……結局全部、式原が悪かったってことね」


 雛祭特製のクッキーを齧りながら雨澄はどうでもよさそうに感想を漏らす。事件については、学園側にも口止めをされているようなモノだし、結界のはってあった実験室に間違って迷い込んで大変なことになった、みたいな程度で伝えてあった。嘘ではない。


「人形やぬいぐるみを兵器にしようという実験だったのでしょうか? 外部に支障が出るような実験では、問題がありすぎですね……」


「あぁ、本当に困った限りだよ」


「本当に困った限りね」


「お、おう……」


 泡波は地下に魔界への扉があると知っているので、俺が適当なことを言っているように聞こえているのだろう、微かに冷たい目でこちらを見ていた。


 逆に雛祭は実家が実家なだけに『魔力のある所には実験施設がある』というのを当然の知識として持っているようで、するりと飲み込んでくれていて助かる。


「とりあえず今後、何を見かけても壊したりしないようにね、死にたくないなら。あたしも巻き込まれたくないし」


「十二分に気をつけるよ」


 結界を壊したのは、俺じゃないけどな。


「そうでした、お怪我の方はもう大丈夫なんですか?」


「うん、たまにチクチク痛みがある程度で、もう普通に歩けるよ」


 さっきエルトに殴られた部分は、未だに痛いけども。


「そうですか、もしその痛みが続くようでしたら言って下さいね、遠慮はなしですよ」


「うん、ありがとう」


 ルゥにも花菱にも問題ないって言われてるし、多分大丈夫だとは思うけど、治療のエキスパートを目指している『らしい』雛祭の言葉だし、よく覚えておこう。


「あー、でも明日から二週間くらい実家ですし、すぐに駆けつけるのは難しいかもです」


「あれ? 雛祭の実家って近所じゃなかったっけ?」


「本宅はそうなんですけど、あそこは暮らすという言葉は似合わない場所で、幼い頃から寝泊りしている家が別の場所にあるんです。富士山の近くなんですよ」


「へぇ、確かに富士山だと距離あるかぁ」


「携帯電話はいつも持ち歩いてますので、亡くなられる前にご連絡をくださいね」


「う、うん、気をつけるよ」


「……ところで、式原は実家には帰らないの?」


「まったく帰る気はないかな。とりあえず二週間は毎日校舎清掃あるから普通に登校して掃除して、畑に行って花菱と一緒に草むしりしたり、そんな感じ?」


「ふーん、帰らないんだ……」


「そうですか……」


「……?」


 なんで雨澄と雛祭は、なるほど、みたいな顔で何度も頷いているのだろうか。


「えっと、雨澄は実家帰るのか?」


「一応、明日には帰る予定よ。まぁ月に一度は実家に帰ってるし、そんなに長居をするつもりはないけどね」


 たぶん実家は『あの世界』にあるのだと思うし、帰るのは簡単なのかもしれない。


「泡波は?」


「わたしは学園長が北極にいるらしいって情報を得たから、ちょっと行ってくる」


「……そ、そっか」


 ツッコミたい点がいくつかあるのだが、聞かないでおこうか。


「となると、みんなで遊びに行くのは八月になってからかぁ」


「「「……ん?」」」


「え? な、何?」


 雨澄、雛祭、泡波が不思議そうな顔で俺を見ていた。


「いや、みんなで遊びに行く、ってあたしたちのこと言ってるの?」


「へ? そうだけど、あれ? 夏休み、遊びに行かないの? そりゃ自己鍛錬も必要だろうけど、ちょっとくらい遊んでも……ダメ?」


「「「……」」」


 あー、もしかして、コレは怒られるパターンですか?


「……ま、いいんじゃないの?」


 正座をする準備をしていると、そっけない感じではあったけど雨澄はそう言ってくれた。


「そうですね、少しくらいは遊んでもいいと思います」


「ヨルカちゃんたちがいればどこでもパラダイスだし、問題はないかも」


 そして続くように雛祭、泡波もそう言ってくれて、ホッと胸をなでおろす。


「そ、それじゃあどこ行くか考えておかないとな」


 どこがいいかなぁ? やっぱ山か? 温泉とか? いや、海か?


 友達たちと過ごす、初めての夏休み……本当に、楽しみだ。


「カズトぉ、遊ぶのもいいけど、やるべきことはちゃんとやらないとねー」


 アニメを見終わったのか、ルゥはテレビの前から四つん這いでやってきて、俺の太ももに頭をのせる。


「わかってるよ、情報収集をしっかりしないとな」


「本当にやるべきこと、わかってるの?」


「わかってるって、武器の入手、だろ?」


「……はぁ」


 何故か、ため息を吐かれてしまう。


「カズトの良い面でもあるのでしょうけれど、周囲の言葉をあまり鵜呑みにするものじゃありませんわよ」


 言葉から察するに、エルトもルゥ同様、何やら文句があるらしい。


「いや、でもいるだろ? 属性武器だっけ?」


「いらない」


「は、はあ? ルゥだって必要だって言ってたろ?」


「わたしが言ってたのは、そういう武器じゃないの」


「んん? え、えっと……?」


「……はぁ」


 また、ため息を吐かれてしまう。


「いつかは気づくだろうって思って言わなかったけど、言われなくっちゃ気づけないこともあるのね、勉強になったわ」


「……?」


「でも言わない」


「……おい」


「とりあえず、護身用の属性武器が欲しいならついでに探さないこともないけど、まず必要なのは『策士』ね。あとスイやレレナルみたいな単体で強いタイプじゃなくて、複数で強い人外たちとの契約。今必要なのは、この二つよ」


「……」


 言いたいことはあるけど今は飲み込もうか、雨澄たちもいることだし。


「策士って、ルゥとエルトがいるから十分なんじゃないのか?」


「わたしもコイツもそういうのじゃないのよ、知ってるでしょ? これからは必要なの、本物の『策士』ってやつがね」


「……そ、そっか」


 ルゥやエルトは『王』という部類なわけで、違うってことなのかな?


 本物の策士、か……ルゥがそういうのなら、必要なのだろう。


「ねぇカズト、今、ルゥがそういうならそうなんだろうな、とか思ったでしょ?」


「えっ……」


「図星って顔ね、だから必要なのよ、策士が」


「な、なるほど」


 今の流れで必要性はよく理解はしたけど、そう思ったのはルゥだから、って部分もあるんだけど……さっきエルトも言葉を鵜呑みにし過ぎるなって言ってたか。うーん。


「なーんかさ、式原ってずるいわよね」


「え? いきなり、どうしたんだよ?」


「だって、色々と考えてくれる優秀な使い魔がたくさん居て、これから策士だなんて仲間も増やそうとしてるんでしょ? 何かずるいなぁって思って」


「そ、そんなこと言われても、これが俺の戦い方なわけだし……」


 召喚士には召喚士の辛さがあるのだが、わかって貰えてないんだろうなぁ。


「確かにずるい」


「泡波まで……そんな目で見られても困るんだけど」


「特に今、ヨルカちゃんとイチャイチャしているのがずるい」


「……」


 誰も触れなかったソレについて、ついにツッコミが入る。


 ちなみに状況を説明しておくと、竜の国から帰ってきてから、俺はずーっとヨルカを抱っこしている。そしてずーっと抱きしめられていた。


「普段ルゥちゃんとそうしてる時もイライラしてたけど、ヨルカちゃんとそうしてるとイライラが倍増する」


 と言いつつも、ミルカを抱っこしてて満足そうな顔をしている気がする。


「ねぇヨルカ? そういえばなんでカズトに抱きついてるの?」


 アニメに集中していてあまり気にしていなかったみたいで、ルゥがヨルカの頬をつんつん突きながら問いかける。


「ご主人様と、こうしていたい気分だからです♪」


「そ、そうなの? なんか顔、赤くない?」


「んふふ~、ご主人様ぁ♪」


 周囲の目を気にすることなく、ヨルカが頬ずりをしてくる。甘いお菓子のような香りと頬の柔らかさが伝わってきて、ちょっとだけ顔がにやけてしまう。


「「「ロリコン」」」」


 そう呟いたのは、ルゥ、エルト、雨澄だ。


「あ、あのぉ……」


 非難の視線に背筋が冷たくなりかけていると、ミルカが控えめに手を上げる。


「ん? どうした?」


「えっと、ヨルちゃんのそれ、たぶん、二週間くらい続きますよ?」


「……へ? 何が?」


「ですから、その、ずーっと、抱きついてきたり、キス、してきたり……」


「……え? 何が?」


 状況がよくわからなくて再度問い返していると……


「ご主人様ぁ……ちゅっ」


「っ!?」


「ちょっ!? ヨルカぁ!?」


 頬に柔らかい何かを感じて驚いていると、ルゥが慌てた様子で起き上がる。


 いや、よく見たら、雨澄に雛祭、エルトも立ち上がっていた。


「よ、ヨルカ! あんた何してるのよ! カズトから離れなさい!」


「うーっ! 嫌ですっ!」


 引き離そうとルゥを引っ張るが、ヨルカは力いっぱい抱きついてきて離れない。


「く、苦しぃ……ルゥ、手を離して、くれっ……!」


「チッ……ミルカ、何が起こってるの?」


「ひぃ!?」


 ルゥの鋭い視線にミルカは怖がり、泡波に抱きつく。


「あぁ、別に怒ってるわけじゃないから、ちょっと説明してもらえる? なんか知ってるんでしょ、このヨルカのこと?」


「えと……は、発情期、というものなのです」


「……は?」


 目が点になったのは、ルゥだけじゃない。


「発情期って、あの、猫とかがなる、あれ?」


「はい……一年に一回か二回くらいあって、ヨルちゃんはずーっとそんな感じになっちゃいます。諦めるしか、ないんです……」


 何やら遠い目をしているし、ミルカも過去の被害者ってわけか。


「そっか、普通ケット・シーは猫の姿してるからあまり気にならないけど、ヨルカの場合は人の姿をしてるから、これだけ犯罪臭がするのね……」


「よかった、これが夏休みじゃなかったら、俺、マジで通報されてた可能性が……」


 でも、普段からヨルカはこんな感じだし、ルゥもかなりベタベタしてくる方だし、そこまで大変な気はしない、か?


「ねぇカズト、二週間ある校舎清掃、明日からじゃなくて来週からにして貰いなさい」


「えっ……そりゃいいけど、なんで?」


「すぐにヨルカの実家に行くわよ」


「えぇっ!? なんで!?」


「たぶん、強制的に猫の姿になれる薬とかあるはずだからそれを貰いにいくの。手持ちがなかったら生成に時間かかるかもだから清掃は来週から。あとついでに策士についての心当たりもあるからいくの、わかった?」


「は、はい……」


 目が怖すぎて、頷くしか選択肢がなかった。


「では、善は急げですわね、アニメの録画予約をすぐに済ませますわ」


「ミルカ、着替えとか用意するわよ、手伝いなさい」


「は、はい!」


 俺の優秀な使い魔たちは、てきぱきと外泊準備を進めていく。どうやら本当にヨルカの実家に行くことになりそうで、でも、どうやってケット・シーの国に行くのだろうか。


「あ、もしもしお母様ですか? すみません、お仕事中に……」


 ふと見ると、雛祭……だけじゃなくて、雨澄も泡波も電話を始めていた。


 どうしたのだろうか、一斉に。


「これでよしと。それじゃあ式原、すぐに荷物まとめてくるから」


「へ? 何? なんの荷物?」


「はあ? ヨルカちゃんの家に行くんでしょ? お泊り用の荷物よ」


「……ん? え、雨澄も一緒に行くの?」


「はあ? 当たり前でしょ?」


「そうですね、当たり前です」


「うん、当たり前」


 電話を終えたのか、雛祭と泡波も賛同する。


「こうなってるのをいいことに、あんたがいつヨルカちゃんに手を出すかわからないし、見張る人間が多い方がいいでしょ?」


「そうですね、その通りです」


「うん、その通り」


「え? 俺って、そんなに信用ないの?」


 誰もその問いには答えてくれず、そそくさと出ていく。


 ということは……みんなでケット・シーの国に行くわけ、か?


「んふふふふ、ご主人様ぁ♪」


 抱きつきながら、なんともご機嫌そうなヨルカ。もし可能ならば、いつかはご両親に挨拶とかしたいなぁとは思ってたけど、こんなに早くその機会が訪れようとは。


「みんなで、ケット・シーの国、かぁ」


 なんだか、夏休みになったんだなぁ、と感じてしまう。


「そっか、旅行か」


「ちょっと、にやにやしてないてカズトも手伝いなさいよ」


「……おう」


 ヨルカを抱えるようにして立ち上がり、俺も外泊の準備を始める。


 いつもとは違う、非現実の世界へと、みんなと出かけるために……



二章・了

ここまでご覧下さった皆様、真にありがとうございました。

これにて二章完結となります。

もしよろしければ、感想など頂けたらと思うばかりです。


さて今回は、人外との触れ合いと、

召喚士とは、みたいな内容を中心に書きましたが、如何でしたでしょうか。

個人的には少しラブコメが少なかった気がしておりまして、

三章では意識して増やしていけたらなと思っております。


次回の更新につきましてですが、

現在、本業の方が年末進行ということもありまして忙しく、

すぐすぐには書き出せない状態にあります。

ですが、年内にはプロローグを、

そして出来れば連載を再開出来たらなと動いておりますので、

是非また、カズトやルゥの物語をご覧頂けたらなと願うばかりです。


三章は夏休み! ヨルカだけじゃなく、みんな色々と頑張ります!

引き続き、優秀な使い魔たちの活躍をご期待下さい!


それではまた。


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2014/12/28 次章についてお知らせがあります。

活動報告をご参照下さい。

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