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日差しの良い場所で

 昼食後、制服に着替えた俺たちは雨澄に連れられて、学園へと向かった。何故か職員室に立ち寄り、その後廊下を歩いている。


「で、式原は何やってるの?」


「いや、えっと……あははは、主の務め、みたいな?」


 室内でもエルトの日傘持ちをしているので、珍妙なモノを見るような目で見られてしまう。そういえば、クラスメイトにこの姿を見られるのは初めてだった。


「そんなことよりさ、休日なのに結構生徒がいるんだな」


「そりゃそうよ、あんたと違ってみんな必死に立派な魔法戦士になろうとしてるんだから、休日だって訓練室を借りたりして魔法の練習をしてるのよ」


「俺は休む時には休む、っていう教えを守ってるだけだよ」


 ルゥの教え、だけど。


「休みすぎって感じてるのは、あたしだけ?」


「どうして雨澄がそう感じるのか、教えて貰ってもいいか?」


「休日、学園で式原と一度も出会ったことがないから」


「……え? 雨澄、休日に学園にきてるの?」


「だーかーら、あんたと違ってみんな必死に立派な魔法戦士になろうとしてるの」


 嘘を言っている風でもないので、振り向いて泡波に視線を送ってしまう。


「いや、わたしを見られても困る」


「ひょっとして、泡波も休日に学園にきてるのか?」


「わたしは実家の用事がない限り、休日は学園で訓練をしてる。機材も揃ってるし」


「……マジで?」


 と、言うことは……


「当然、雨澄さんだけじゃなく、雛祭さんにもよく出会う」


「……」


 ちょっとだけ、めまいがしたような気がした。


「あー、なるほど、おバカな式原くんにはそういう発想がなかったのね」


 まったくもってその通りで、言い返す言葉もみつからない。


 そっか、みんな俺の知らないところで頑張ってて、だから強いのか……まったく追いつけないわけだ。みんな俺よりはるかに強いのに、俺より、努力をしてるんだ。


「ま、カズトはこれからじゃないの?」


 頭が真っ白になりかけてると、ルゥがぽんと背中を叩いてくれる。


「ここ最近まで魔力がなかったんだし仕方がないじゃない。それに、体力や筋力の強化はかなり出来てきたし、召喚士とも戦って知恵も付きだしたし、やっと下地が出来てきたって感じよ……んふふ、ここからどうしていくか、悩みどころだわ」


 途中までは励ましてくれているのだろうと思ったのだが、邪悪な笑みを浮かべているところを見るに、ただ本音を言っているだけのようだ。


「式原、あんたあいつにスケジュールとか任せてるの?」


 ちなみに、雨澄はルゥが『あの』妖精だったということは知っている。もちろん経緯などはまったく話してはいないけど。


「まぁちょっと、ルゥだけは特別なんだよ」


「なるほど、このクズ人間をまともにすることが私の使命ですの……?」


「エルト? 今、俺のことクズ人間って言わなかった?」


「文句があるような表情をしていますけど、否定材料がありますの?」


「ぐっ……」


「へこんでる時を見抜かれてフォローされて、スケジュールも組まれてて、日傘持ちでクズ人間とまで言われて、大した御主人様よねぇー、式原って」


 雨澄って、返す言葉がないコト言うの、得意だよなぁ。


「まぁいいけど。さ、着いたわよ」


 俺たちの教室も訓練室も通り過ぎ、階段を上ったかと思うと鍵を取り出す。


 ひょっとして、雨澄が案内したかった場所って……


「ま、とりあえずココを好きに使っていいから」


 鍵がかけられていたドアを出ると、そこは屋上の一角だった。位置関係でいうと、入学式の日、カジェスを呼び出してぶっ壊した屋根の部分で、つまりは俺たちの教室と訓練室の真上に当たる場所だ。


「このフェンスに囲まれてる部分が、あたしが所属してる園芸部の敷地なの」


「はあ……敷地、ねぇ」


 目算で、教室が三つくらい分の面積、だろうか?


「ここに土でも盛って、畑にでもして、野菜でも育てたら?」


「それを収穫して、食べろと?」


「そういうこと。魔法薬生成のための薬草とか作らせて貰えると思ってたんだけど、土を用意したりとか一からだったから、困ってたのよね。部員はあたしだけだし、あんたが何か育ててれば活動記録も残せるし、お互いにメリットあるでしょ?」


「えっと……理解はしたけど、ここに、土を盛るのか?」


 ここは学園の屋上であり、もちろん土などない。


「そうよ、そこに土なんていらないほどあるじゃない」


 そこ、とは裏山のことらしい。つまり雨澄さんは階段を下って学園を出て裏山に行って、土を掘って何かに乗せてまたここまで運べと仰っているみたいだ。


「あのさ雨澄、いいアイディアがないならそうと言ってくれればいいんだぞ?」


 かなり強めに頭を殴られた。


「土運びでもしてついでに今よりもっと身体を鍛えろって言ってんの。あんた、ただでさえでも役立たずなんだし」


「うっ……」


「それはとてもいいアイディアですね」


「……?」


 隣を見ると、笑顔の雛祭の姿が。


「私も式原くんはもう少し鍛えた方がいいと思います」


「えっと……雛祭、いつからここに?」


「え? 学園に入った辺りから、ずっと一緒に居ましたよ?」


「……そ、そう」


 言われてみると、ヨルカやミルカと一緒に並んで歩いていたような……?


「で、場所とアイディアを提供したわけだけど、やるの? やらないの?」


「……」


 身体も鍛えられるし、食べ物も手に入るし……一石二鳥、か。


「わかった、それじゃあ作ろうか、畑」


「そっ。じゃあこの鍵はあなたに貸しておくわ、帰り道には職員室に返すのよ」


「おう」


 鍵を受け取り、これからココに畑を作っていくという実感がわいてくる。


「……よしっ!」


 気合を入れて、頑張りましょうか!




◆◆◆




「はぁ、はぁ……これ、いつになったら畑っぽくなるんだ?」


 裏山と屋上を十往復したくらいで、ふと、それに気づいてしまう。実家から寮へ引っ越す際に使い、それ以降一度も使ってなかったボロボロのリュックサック二つに土を入れ、身体の前後に持って運んでいたのだが、まったく畑らしくなってこない。


「いつになったらって、千往復くらいじゃない?」


「千往復!? 雨澄、それマジで言ってんの!?」


 それ、畑が出来上がるまでに何年かかる計算なんだ?


「式原くん、頑張ってくださいねー」


「カズト、ふぁいとー」


「頑張ってください、ご主人様!」


 状況に絶望しかけていると、ふんわりとした応援が飛んでくる。俺以外の皆は全員日陰に座り、誰かが用意したお菓子を食べつつお茶を飲みながら談笑をしていた。言うまでもないけど、ヨルカとミルカの主は、今、ルゥである。


「人間界のお茶もお菓子も、それなりに美味しいものなのですね」


「お口に合って何よりです」


 会話からして、お茶やお菓子を用意したのは雛祭のようだ。


 いいなぁ、俺もあのお茶を飲んだり、お菓子を食べたいなぁ。


「……何見てるのよ? 今日のノルマはあと四十往復なんだし、さっさと裏山に行けば?」


「あと四十往復って、深夜になりそうな勢いなんだけど!?」


「知らわないわよそんなこと、やるって言ったのはあんただし、一日で百往復くらいしないと今月中に畑なんて出来ないし、仕方がないでしょ」


「やってられるかこんなことっ」


 リュックサックを、ポイッと投げ捨てる。


「ちょっと、あたしのせっかくのナイスアイディアを無駄にするつもり?」


「違う、こういう時こそ新しい召喚の契約をするんだよっ」


 走って自室に一度戻り、教科書と新しい魔法陣のメモを持ち、また屋上へ。


「雛祭、俺もお茶貰っていい?」


「はい、どうぞ」


 すでに用意してあったようで、紙コップを受け取り、冷たい紅茶でのどを潤す。そして教科書を開き、都合の良さそうな人外を探し始めた。


「うーん、植物の精霊とかかな……」


「土を出せるような人外がいいってことよね?」


 座っていると、食事の時間のようにルゥが膝の中に入ってくる。暑苦しい。


「ついでに作物の成長も促してくれるとありがたいかな」


「あははは、いるわけないじゃんそんなの。教科書見るだけ無駄だし、土運びに戻れば?」


「……本当に、いないのか?」


「魔法は万能じゃないのよ」


 それは、そうだけども。


「ルゥでも無理なのか?」


「この校舎を灰にしていいなら出来なくもないし、人間を何百人か生贄にしていいなら可能だけど?」


 無事に無理なく、ちゃんとした畑をここに作ろうと思うと、どうあっても土をどうにかしなきゃいけないようだ。


「はぁ……でも、あと四十往復は死ねるなぁ、すでに膝が痛いし」


「ご安心下さい式原くん、私の光魔法ですぐに痛みなんて消せますよ」


「雛祭さん、ダメよ。魔法で回復させちゃったら、筋力強化とかに繋がらないし」


「あっ……そうでした。では鎮痛作用がある魔法でしょうか?」


「そうね、そっちね」


「膝が無茶しすぎって悲鳴を上げてるのに、その痛みだけ取り除いても意味ないんだけど」


 雛祭も雨澄も、平然とした顔で俺の膝を壊そうとしているのだから怖い。


「あのぉ、御主人様?」


 服の裾を引っ張ったのは、ミルカだった。


「ワタシも一緒に土を運べば、すぐに終わると思います」


「あ、ミルカが運ぶならわたしも運びます! 一緒に身体、鍛えます!」


「それはダメ」


 ギュッと泡波に背後から抱きしめられる、ヨルカとミルカ。


「これ以上筋肉質になると可愛さが軽減されるからダメ」


「いや、今回はちょっと、二人も手伝ってくれ」


「「……はい!」」


 了承が貰え嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべながら立ち上がる。


「ちょっと、式原君?」


「コレは下半身を主に強化するタイプだからそこまで外見には影響しないし、ご飯が食べられないと痩せるばっかりだし、そもそもその程度でこの二人に可愛さは損なわれないよ」


「それでは今日から、ご主人様と一緒に筋トレもやっていいですか!?」


「それとこれとは別の話だ」


「むぅ……」


「……ま、足がスレンダーになるくらいはいっか」


 ヨルカとミルカのぷにっとした足を触りつつ、泡波が了承の言葉をつぶやいた。


「よく考えてみればすぐにでも種か苗を植えて野菜でも育てないといけない危機だし、今日中にある程度土を運んでしまおう」


「「はいっ!」」


 二人に俺のようにリュックサック二つ持てっていうのは無理があるし、一つずつってことにして、これで土を運ぶ量は二倍か……まだ、ちょっときついか?


「皆の食事をしっかり管理するのも主の役目ですのよ、カズト」


「まったくもってその通りだから、頑張るよ」


 俺に出来ることなんて『頑張る』くらいなもんだしな。


「それじゃ、ヨルカとミルカが土運ぶためのモノを探さないとな。ルゥ、もう使わないようなリュックサック、あと二つあったっけ?」


「んー……」


「……? あのぉ、ご主人様? どうして二つなんですか?」


「ヨルカとミルカには、まずは一つずつ運んで貰おうと思ってさ」


「……?」


 俺の言っていることが理解出来ないのか、ヨルカが可愛く首を傾げている。


「えっと、俺みたいに一度に二つも運べるかどうかわからないから、まずは、だから。大丈夫そうなら二つ運んでいいし」


「それはわかるんですけど……二つじゃなくて、四つですよね?」


「ん……?」


 ヨルカの言いたいコトを理解するのに、十数秒ほど時間がかかるのだった。


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