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新たなる仲間

 やっぱり火属性の人外がいいなと、懲りずにページを見ていると、ルゥが強引に教科書を取り上げる。


「今カズトに必要なのは、どんな仲間にするかじゃなくて契約の数を増やすことでしょ?」


「それはそうだけど、だから何?」


「召喚用の魔法陣を教えてあげるから、それで試してみなさい」


 どういう意味だろう、という疑問と、手を貸してくれるんだな、という感想を両方飲み込み、黙ってルゥがノートに魔方陣を書いているのを見つめる。


「これで召喚すれば、今、契約をしがたってる人外がランダムで出てくるわ」


「何が出てくるかはわからないけど、契約の可能性が高いってこと?」


「そ。ちゃんとカズトの魔力に対応したのが出てくるよう調整しておくから、わたしが書いたままので召喚するのよ……えーっと、ここを変えたからコッチがこうで……」


 何やらぶつぶつ言いつつ、魔法陣を書いたり消したりしている。俺にはわからない世界での調整とか、そういうのをやっているんだろうなと勝手に思ってみたり。


「ところで、その契約したがってる人外って、何が目的なんだ?」


「目的って?」


「いや、そもそも気になってたんだけど、なんで契約したがるのかな、と」


 レレナルみたいに戦いを求めている者なら理解出来るけど、ぶっちゃけ、ヨルカやミルカもなんで俺の使い魔やってるのかなー、みたいな疑問だ。


「人外によって理由は異なるけど、戦える場所が欲しいとか、対価が欲しいっていうのが大多数の理由じゃないかしら。ヨルカやミルカみたいに種族間を超えた先での修行が大人への一歩だったりする場合もあるし、本当に色々よ」


「……そうなのか?」


 ヨルカとミルカに訊ねると、コクリと頷く。


「わたしたちケット・シーは、他世界の薬草とかを手に入れて、それを栽培とかして売ったりしてる種族ですし、使い魔として立派な功績を残すことが、一人前の証だったりします。だから、わたしはご主人様に出会えて、とっても嬉しいです」


 ふにゃっとした笑顔で、ぎゅーっと引っ付いてくるので、頭をなでなで。


「俺も、ヨルカが使い魔になってくれてすっごく嬉しかったぞ」


「んふふぅ、ご主人様ぁ~」


「ちなみに、ケット・シーは主人が死ぬ時にその魂を食べて、そこから覚醒体へと進化出来るのよ」


「マジで!? 俺、魂喰われるの!?」


「嘘に決まってるじゃない」


「……」


 どうやら、ヨルカと二人の世界を作っていたのが気に食わなかったらしい。そんなルゥの雰囲気にどうしたものかなと思っていると、そっけない態度でノートの切れ端を渡してくる。


「はい、これがあんたの新しい魔法陣よ」


 見ると、そこに書かれていた新しい魔法陣とは過去最高難易度とも言えるような複雑さで文字だらけで、とても覚えることなんて無理そうな代物だった。


 嫌がらせ……では、ないよな?


「姉さんから教えて貰った力の一つなんだけど、まぁ改良版って感じね」


「え? それって俺が魔王化する道への一歩なんじゃ……?」


「……気のせいよ」


 出来れば、視線を外さずに言って欲しかったなぁ。


「わたしに頼っておきながら今更そんなこと言わないの。さ、時間もないし早く召喚しましょ。魔力の量は調節するのよ? 強さに比例するんだからね?」


「りょーかい」


「……」


 なんとなくエルトの視線を感じつつ、ルゥの書いてくれた魔方陣を、ヨルカ特製の魔力が込められたチョークで床へと書き写していく。


 その後、魔力を込めて……




◆◆◆




「ホント、あんた進歩しないわねぇ?」


 ヨルカとミルカにやけどや擦り傷の治療をして貰いつつ、苦笑いを浮かべる。


 全戦全敗どころか、相手にさえしてくれない人外が多いこと多いこと。


「いたたた……そういえばさ、火属性ばっかりじゃなかったか?」


「血の気が多いからね、あいつ等」


 思い返してみれば、火クラスのやつ等もそんな気配があったような……


「でもま、そんなのでさえでも断るだなんて、カズトはどれだけ魅力薄なのかしら?」


「人間だからって理由で断るのも居たし、俺の魅力が薄いわけじゃ……」


 と、信じたい。


「魔力、ちょっと少なめにしてみるか?」


「戦えないのが出てきてもいいなら、ね」


 それは困るよなぁ。そろそろ『普通に』戦える仲間が欲しい。


「それじゃあ残り魔力的に、次が最後の召喚だな」


「はぁ……今日が試験日じゃないことを祈るしかないわね」


 もう十五時を回ろうしているけど未だに連絡がないので、さすがに今日ではないと思うけど、もしこれから試験だと言われれば、どうやっても人数が足りない。


 なので今日はもう諦めモードで、明日はそんな状況に胃が痛くならないよう、朝から頑張らねばとプラス思考で詠唱開始だ。


「……我と契約を望みし者よ、この場に姿を現さん!」


 ポンと一際小さい白煙が舞い、その中から姿を現したのは……


「……ども、お呼び出し頂き、ありがとうございます」


 なんとも丁寧な口調ではあるのだが、やたらとヌメヌメしていてびしょ濡れで、自分の頭より大きめな壺を持った、何故か長袖のセーラー服を着た人魚だった。


「あなたがマスター候補の方ですか?」


「は、はい……」


 返事をしつつ、そのヨルカやミルカみたいな幼い外見の人魚を見て俺はある種、確信をしていた。この子はきっと、仲間になる運命だ、と。


「ねぇカズト、どうして呼び出す人外がみーんな女の子なの?」


「俺が教えて欲しいくらいだ」


 基本、男には女の人外が召喚されやすいとは聞いたけど、例外が一度もないのはあまりにも不自然なような気がする。カジェスですら、女性だったわけだし。


「えっと、わたしでは何か問題でも?」


「いえいえ、なんでも」


「そうですか?」


 涼やかで透き通るようなその声は、人魚なんだなぁと改めて思ってしまう。人魚は歌が得意だというのは有名だしな。で、その歌なりで戦闘のサポートをしてくれるというのも有名だ。


「わたしの名前はスイ、ご覧の通り人魚族です。契約条件ですが、まず、使い魔にはなれません。家族の看病がありますので、召喚契約のみということでお願い致します」


「わかった」


 サポート系ならヨルカとミルカが居るし、召喚契約の方が助かるか。


「そして対価は魔力ではなく、A級のアプリコの葉を頂戴いたします」


「あぷりこのは?」


 はて? 聞いたことのないモノだけど、どんなものだろうか?


「あのぉ、葉っぱじゃなくて粉末ではダメですか?」


 俺が首を傾げていると、ヨルカがそんなことを言い出す。どうやら『あぷりこのは』とやらを知っているようだ。


「構いませんが、A級かどうかは調べさせて頂きますよ?」


「えーっと……はい、これです」


 ポシェットの中から小さな試験管を取り出し、スイに手渡す。その瞬間、パシャッと水音が聞こえ、見ると床がびしょ濡れで、ヨルカの上履きが濡れた音のようだった。


「これは……なるほど、ケット・シー産ですか、まったく問題がありません」


「えへへぇ、よかったです」


 まさか、こんな場面でヨルカの趣味が生きようとは!


「ではマスター、この試験管の量で一度の召喚、という具合で如何でしょうか?」


「えっと、ヨルカ? それはたくさん作れるのか?」


「うちのプランターには今ありませんけど、アプリコの種はありますので、すぐに量産は出来ます」


「わかった。それじゃあ、その条件で」


「ではあとは仕事内容ですが、マスターが人間ということは、戦闘が主でしょうか?」


「そう、なんだけど……うちには今、戦闘系がいなくて……」


「問題ありません。わたし、戦闘を主な仕事にしておりますので」


 ブン! と、壺を大きく振る。


 あぁ、それって殴るためのものだったんだ……


「それじゃあ、そんな感じで」


「失礼ですが一応、マスターのお力をお見せ頂いても構いませんか?」


「えっと、戦うってこと?」


「はい」


 どうやら、結局は戦わなくてはいけないようだ。


「本気でやった方がいいんだよね?」


「もちろんです。こちらもそのつもりですので」


 ニコッと笑みを浮かべたと思うと、彼女の周りに青い魔力が立ち上り始める。身体に小さな震えが走り、この子は強い、と確信した。


「では、よろしいでしょうか?」


「いつでもいいよ」


 と言いつつ、蓄積されているダメージの確認のために、こちらから駆け出す。


 先手必勝!!


「ふふふっ……♪」


 魔力を乗せた左ジャブを、微笑みながらスイは壺で払うようにかわす。


「マスターは攻撃的なタイプのようですね」


 壺が当たった小指に痛みを感じた一瞬、そんな囁きが身体を貫く。


「でもダメですよ、武器を持った相手に素手で殴りかかっては」


 視界が揺れているような気がした。そして『その理由』になんとなく気づいた時、後頭部の辺りにザワッとした言葉には出来ない感覚が走る。


「くっ……!?」


 尻餅をつくくらいの勢いで思い切り後方へとジャンプしようとすると、少し遅れはあったもののなんと身体が動き、よろめきながらもその攻撃をかわすことに成功した。


 思い切り振りおろされた、壺での攻撃を。


「おぉ、今のを避けるだなんて……」


 最近、そういう訓練ばっかルゥとやってたお陰だな。


「三半規管が御丈夫なのですね」


「……やっぱりか」


 スイの声を聞いていると、視界が揺れて仕方がない。そしてその理由はやはり、噂に聞く歌の力に関係するみたいだ。


 まさか、言葉だけで三半規管を揺らすだなんて力があるとは驚きだが。


「では次に、こういう攻撃なら如何でしょう?」


「……?」


 壺を肩に乗せて、口をこちらの向けて……


「やばっ!?」


 嫌な想像が脳裏を過った瞬間、壺から『火』が吹き出し、俺の肩をかすめるように通りすぎる。なんとかギリギリ、今回もかわすことが出来ていた……だがしかし。


「ぐぅっ……な、なんで人魚が、火属性の魔法を使うんだよっ」


「なんでと問われると困るのですが、生まれつき、でしょうか?」


 人魚なのに火属性の魔法使うとか、予想外すぎるだろ!!


「まぁ、そんなことは些末な事柄です。わたしは火属性魔法が使える、それだけですから」


 その通りだけども! くぅ……またやけどしたよぉ、痛いよぉ。


「ふふふっ、では次はこのようなモノは如何でしょう?」


「……へ?」


 楽しそうな表情を浮かべたスイは、続いて壺の中からツバメのような鳥の形をした火をいくつも繰り出す。


「これをすべて避けきれるのでしたら、全力で前衛を務められるのですが……」


「……いやいや」


 火の鳥の数は、十を超えた辺りで数えるのをやめた。


「あのー、スイさん? これは実験する必要はないのではな――、」


「GO」


 その火の鳥の飛行速度は、俺の想像を絶する速さだった。




◆◆◆




「かずとぉ、だいじょーぶ?」


 ふにゃっとした声が届くと同時に、意識が覚醒し始めた。


「ルゥ……? あれ、なんだかヌメヌメする」


「あのスイって子が、自分の身体についてたヌメヌメをカズトに塗って帰ったわ。やけどを治す効果があるんだってさ」


「へぇ……本当だ、痛くない」


 でも、体中がヌメヌメだ。


「えっと、契約はどうなったんだ? スイは?」


「コレ渡しておいてくれって」


 ルゥが見せてくれたのは、召喚契約をするためのスクロールだった。


「ココにカズトがサインすれば契約成立、だって」


「そっか……よかったぁ」


 手のヌメヌメが取れたら受け取ってサインすることしよう。


「手渡し出来なくてすみません、って言ってたわよ。あとやりすぎたって」


「……忙しかったのかなぁ」


「何言ってるのよ、あんたが気絶したからこっちの世界に留まれなかっただけよ」


「……あ、そっか」


 そういえば召喚した人外は、契約者が気絶したり魔力がゼロになると元の世界に戻っちゃうんだっけ。だから、やりすぎた、か。


「それにしても、カズトが呼び出す人外って、みーんな変なのばっかりね」


「人魚が火属性の魔法を使うなんて、意外すぎるよなぁ」


「でも良かったじゃない、念願の火属性よ」


「……そうだな」


 ルゥの言葉に、ただ喜べばいいんだと思えた。


 ひさしぶりの契約……それも、火属性の人外。本当に、嬉しい。


「これで使い魔だったら、もっと良かったのになぁ」


「あんなのがいつも一緒だったら、家も教室も廊下までも全部ヌメヌメなんだけど?」


「ヨルちゃん、御主人様、起きたみたいだよ?」


「本当? じゃあ早く終わらさないとっ」


 よく見れば、ヨルカとミルカが一生懸命雑巾で床を吹いて、バケツにヌメヌメした液体を入れている。俺がどれくらい気絶してたのかはわからないけど、もし長時間なのだとすれば……


「やっぱ、使い魔じゃなくてよかったよ」


「でしょ?」


 こうして、火を扱う人魚、スイ・マルチアーナと契約を結ぶのだった。


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