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一章エピローグ

 幼い頃の夢を見ていた。


 それはルゥと一緒に本を読んでいる時の夢で、見ていた本は……世界の歴史。


 見開かれたページには、一人の幼い、少女の魔王が描かれており、こう記してあった。


 すべてを灰と化す程の力を持った、魔界でもっとも幼き魔王。


 『灰塵の魔王』とも呼ばれる者、その名を『ルゥイールト・レイド』と……




◆◆◆




「……あ、起きた?」


 目を覚ますと、見知らぬ幼女が俺を見下ろしていた。


 どうやら俺は保健室に運ばれたようで、薬品の香りがするベッドで寝ていて……


「……誰だ?」


 身体を起こし、よく観察してみるが……誰だかわからない。大きさはヨルカやミルカに似ているが、外見はまったく違う。でも、どこかで見たような?


「カズト……まさか、わたしがわからないの?」


「……もしかして、ルゥか?」


「ぴんぽーん、せいかーい」


 その容姿は、妖精の時とも本体の時とも違う……けど似ているような、そんな姿だ。


「それで、なんでそんな姿に?」


「ちょっとした手違いで、魔力を使いすぎちゃってさ……てへ」


 でもそのお陰で、ルゥはこうしてこの世界にとどまれているらしい。


 『ミニ』サイズになったから、魔力も三十二分の一なんだとか。


「このまま魔力が回復しないようにしてれば、問題なしって感じ? まぁそうなると身体もこのまんまなんだけど」


「そんな無茶苦茶なコトがやってのけてるところがすごいんだが……って、あれ?」


 使い魔って、主人の魔力がないと存在を維持出来ないはずなんだけど?


「俺の魔力、感じられないな」


「そりゃそうよ、『前借』をしたんだからこうることはわかってたでしょ?」


「……まぁ、な」


「寝てる間にちょっと身体を調べさせてもらったけど、魔力は回復するっぽいわよ。まぁわたしの魔力を考えれば、夏休みくらいまではこのままだけど」


「……そっか、でもよかったよ、魔法戦士への道が閉ざされるわけじゃなくてさ」


「まったく試験程度で無茶しすぎよ……って言いたいところだけど、よくやったわ。理由は雛祭ひなから聞いたし、さすがはカズトってところね」


 うん、ルゥならそう言ってくれるって信じてたよ。


「でも、またルゥとはお別れなわけか……」


「なんで?」


「いや、だって使い魔は主人の魔力がないと存在の維持が出来ないだろ?」


「大丈夫よ、わたしは別のモノでも代用出来るような契約内容だから」


「……はい?」


「使い魔システムっていうのは、あなたたち召喚士が作ったモノと、わたしたち魔王が作ったモノの二つあるの。で、カズトと契約する時に使ったスクロールは、わたしが作った魔王側のモノだから、ちょっとルールが違うのよ」


「……ま、まぁ、それはそういうモノだっていうのは飲み込めるとして、代用ってのは?」


「魔力の代わりになるモノなんて、そうないでしょ?」


 ニコッとルゥが笑みを浮かべるので、心臓がドキリと高鳴る。


「毎日、いーっぱいもらわなくっちゃ♪」


「い、いっぱい?」


「そ♪ たっぷり、溢れるくらいに、ね♪」


「た、たっぷり……」


「あっつーくて、とろとろのぉ……♪」


「……ごくり」


「あなたの血液をね♪」


「ですよねー」


 昔から、血を使った魔法とかあるもんねー、うん、知ってたよ。


「ちなみに、ヨルカとミルカはわたしの使い魔として呼び出せるから安心していいわよ」


「そっか、そりゃよかった……」


 あとは俺が貧血にならないように、鉄分とかいっぱい取らないとな。


 あぁー、お腹空いたなぁ。


「……あれ? そういえば、今はいつだ? あの後って、どうなったんだ?」


「えっと、あれから二時間くらいかな。フィールドはその……全部灰になっちゃっ、た?」


「……はい?」


「そう、灰」


「その『はい』じゃない」


 つまりはまぁ、やりすぎたということらしい。死人は出てないということなので、まぁいいかとも思えるけどさ。


「さすがは、灰塵の魔王だな」


「かいじん? 貝の、人?」


 どうやら本人は二つ名を知らないみたいだ。


 なんて思っていると、シャッとカーテンが開かれ、そこには雛祭の姿が。


「式原くんっ!?」


「よ、よう雛祭……おはよ」


「よかった……本当に、よかった……」


「えっ、ちょっ!?」


 嬉しそうに雛祭が抱きついてくるのだが、俺はもちろんパニック状態だ。


 なんだかいいにおいはするし、柔らかいし、ヨルカやミルカとは違った感じで……


「何やってるのよ! はーなーれーてっ!!」


 そんな雛祭をルゥが必死に引っぺがそうとしていると、不機嫌そうな顔の雨澄と、いつもの無表情な泡波もやってくる。


「あぁ、起きたんだ? 三年くらい寝れてばよかったのに」


 それは、自分たちが卒業するまで、って意味か?


「式原君が目覚めないとヨルカちゃんとミルカちゃんに会えないから心配した」


 相変わらず単体では必要ない的なポジションだなぁ、俺。


「それで、ランキング戦はどうなったんだ?」


 三人とも、怪我とかはなさそうだけど……


「あ、はい、式原くんのお陰で、六組の勝ちということになりました」


 ちなみに俺は、結果が出る前に気絶をしてしまったため、そういう扱いになるらしい。


 ただ、一応フィールドへのダメージや、それ以外の皆さんへの被害はすべて俺がやったことになっているので、加点が減点を上回れば……わからないそうだ。


「みんなを助けた名誉の負傷、みたいな結果になるといいなぁ」


「その場合、こっちにはあんたに助けてもらっただなんて不名誉な結果が残るけどねー」


 ランキング戦の結果は遅くとも週末には発表らしい。さてはて、どうなることやらだ。


「ん……起きていたか」


「鬼島先生……と、学園長」


 そして学園長の後ろには、夜白ちゃんも立っていた。


 ほんわかとしていた空気に、ピリッとした異物が混ざる。


「目が覚めておるなら話が早い。試験中に現れたという魔王について聞いてもよいか?」


「えーっと、俺が呼び出した存在が魔王というのは、召喚後、始めて知りました」


「ほう? つまり、魔王とは知らずに契約をしていた、と言いたいわけじゃな?」


「契約したというか……ある友達に譲り受けた力です」


「……そうか。それで、その子は?」


 学園長が見ていたのは、ルゥだった。


 俺はまったく表情を変えることなく、ハッキリと答える。


「俺の『大切な』使い魔ですけど、何か?」


「…………そうか」


 それだけ言うと、学園長は微笑みながら去っていく。そして少し不満そうな顔をして、その後を夜白ちゃんが追いかける。


 残った鬼島先生は、俺たちを全員見回した後、言った。


「今日はよくやった……とは言いがたいな、明日は大反省会だ」


『……はいっ』


 全員同時の返事を聞き、頷いてから鬼島先生も立ち去る。


「……ふぅ」


 まったく、本当に鬼島先生の言う通りだ。よくやったなんて、とても言いがたい。特に俺は誰がどう見ても、助けられてばかりの一日だったからな。


 俺が頑張れたのは、本当にみんなのお陰だ。


「みんな……ありがとう。今日は助けられてばっかりだったけどさ、俺、これからもっと強くなれるよう努力して、今度はみんなを守れるよう、頑張るよ」


 俺の思い描く夢……目指すべき姿は、みんなを守れる人間だ。


 でもまだそんな人物にはほど遠くて……だから、これからも頑張っていかなくちゃいけない。誰よりも努力して、大切な人を守れる人になるんだ!


「何それ? 今日、結果的にはあんたのお陰で勝ちになったあたしたちに対する嫌味?」


 雨澄は俺の言葉に、ちょっとだけ笑いながらそう言ってくれた。


「私もこれから、式原くんと一緒にもっともっと頑張りますね」


 雛祭は、いつもの笑顔でそう答えてくれた。


「頑張るのはいいとして……それよりヨルカちゃんとミルカちゃんは?」


 泡波は、いつもより少し柔らかい表情でそう返してくれた。


 みんな、それぞれ言葉は違ったけど……全員、笑っていた。この三人となら、これからも一緒に頑張っていけそうな気がする。


 同じ特別クラスの仲間で……友達の、この三人となら……


「よしと、それじゃあヨルカとミルカを呼び戻さないとな」


 理由も聞かされず元の世界に戻されたんだ。きっと心配していることだろう。


 ちらりとルゥを見ると、仕方がないわねと言いたげな表情を浮かべた。


「あれ? でもあんた『前借』したせいで魔力ゼロなんでしょ?」


「ちょっとした別枠の呼び戻し方があるんだよ」


「へぇ、聞いたことがないけど、どんなの?」


「秘密」


「……式原、殴られる前に白状した方がいいと思うけど?」


「ここで暴力で解決しようとするだなんて、さすが雨澄だな!?」


「だってそんなの聞いたことがないし、気になるじゃない」


「あれ? 雨澄さんって召喚のこととかって詳しいんですか?」


「えっ……ま、まぁ、そのぉ……」


 雨澄がしどろもどろになったところで、俺の膝の付近でポンと白煙が上がる。もちろんその中から現れたのは、愛しき使い魔たちだ。


「えっ……あっ、ご主人様っ!?」


「御主人様っ! よかったです……また、会えましたっ!」


 さっそく飛びついてきた二人を、思い切り抱きしめてやる。


「ごめんな二人とも、心配したよな、本当ごめん」


「うぅ……すん、いいです、また、御主人様に会えましたから……」


「でももう、急にお別れは、嫌ですよ?」


「うん……約束する」


 涙目の二人に笑顔で頷き、もう一度強く、抱きしめた。


 もう二度とこんな顔をさせないように、頑張らないとな!


「……ま、ヨルカとミルカなら仕方がない、か」


 そんな呟きを漏らしたのは、俺たちの様子を見ていたルゥ。


 そして加え、場の空気を壊す、余計なことまで言い始める。


「それにしてもさぁ、あんた達、三人も居てあんな連中倒せないだなんて弱すぎなんだけど、その辺りのことどう思ってるの?」


「お、おいっ」


 慌ててルゥの口を塞ごうとするが、ヨルカとミルカが抱きついているせいで、手が届かない。


「し、式原? ずっと気になってたんだけど、この子、誰?」


「え、えっとぉ……」


 どう、説明したらいいものか。


「ま、いっかー。わたしがついてるから、もうこんな弱っちー三人いらないし」


「おいっ」


 とりあえず、ルゥの口をなんとか塞がなければ! ヨルカとミルカをベッドから降ろして、っと。


「こ、こんな、弱っちー? い、今、このあたしに言ったの?」


「い、いや、違うんだよ雨澄……」


「わ……わたしがついてるから、いらない?」


「雛祭、目が、怖いんだけど……」


「この子、巻き角があるし……羊の妖精?」


 唯一気にしていない風に泡波だけはそう言ってくれたのだが、そんな三者三様的な言葉に対し、ルゥはトゲたっぷりで『牽制』を放つ。


「言っとくけど、あんたたちに『わたしの』カズトはあげないからねっ!」


『……どういうこと(ですか)?』


 三人同時の台詞。睨み付けられる、俺。


「あ、いや……え、えーっと」


「わたしはカズトのモノ♪ カズトはわたしのモノ……ねーっ☆」


 そして、ぎゅーっと俺に抱きつき、思いっきり甘えた声でそう言ってくるルゥ。


「あ、ははは、はは……あ、そうだ……忘れてた」


 もうどうにでもなれ、と空笑いを浮かべていた俺だったのだが、抱きついているルゥを見て、ふと、あることを思い出した。


「……ん? 何、カズト?」


 きょとん、とコチラを見上げている瞳は、いつも見ていた燃えるような紅。


 その見慣れた瞳にホッとしつつ、俺はルゥの髪を軽く撫で、彼女がそこにいるという感触を確かめた後、忘れていた言葉を伝えた。


「おかえり、ルゥ」


「……ただいま」


 その言葉に、俺の最高の使い魔は、とびっきりの笑顔を見せてくれるのだった。




一章・了

ここまでご覧下さった皆様、真にありがとうございました。

これにて一章完結となります。

もしよろしければ、感想など頂けたらと思うばかりです。


さて本作は、分量としてライトノベル一冊分を目指しておりまして、

結果としましては、予定通りに進めることが出来ました。

三日に一度の更新も守れましたし、

次もこの流れでいけたらなぁ、と思っている次第です。


次、と申しますのも、二章の準備は着々と進んでおります。

プロットはもう出来ておりますので、あとは書き終えるだけで、

二章では一章で語られなかった部分の掘り下げや、

当然使い魔も増えますし、バトルも少しだけ増えちゃったりです。

今度は竜が一つのポイントになったり?


エピローグの更新日より、

1週間から10日の充電期間(笑)を置きまして、

またすぐ再開しますので、

その時には是非、カズトやルゥの物語をご覧頂けたらなと思います。

引き続き、優秀な使い魔たちの活躍をご期待下さい!


それではまた。

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