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修行の成果

「はぁ、はぁ……ま、こんなもんか」


 雨澄のその言葉に、膝をつく。今日で修行ももう終わりで、最後の対人戦チェックを終え、ちょっとした手ごたえのようなものを感じていた。


「今の、結構っ、よくなかったか?」


「まぁまぁじゃない? 相手が魔法を使わなかったら、多少はいい勝負が出来るかもね」


 雨澄にお墨付きを貰い、少しだけ嬉しくなる。ここ二日間、ほぼ対人戦のみの訓練を重ねていて、その結果がこうして出ると、達成感みたいなものもあった。


「これにヨルカとミルカが加われば……いける!」


「確かに、あたしも魔法を使わなかったら、あんたたち三人の連係の前じゃ、もう簡単には勝てないかもね……まぁ、魔法を使わなかったら、だけど」


「二回も言わなくてもわかってるよ……」


 そう、やはり問題になるのは、相手が魔法を使わなければ、だ。


 そしてそんなこと、ランキング戦の中では、まずありえないことだった。


「ヨルカちゃんもミルカちゃんも、結構面白い技とか魔法を身に付けたけど、まだ個人で戦ってどうにかなるレベルじゃないし、それはこの合宿前からわかってたことだしね」


「やっぱり問題は……契約、か」


「あと三時間もすれば寮の門限の時間だし、移動とか考えるとあと一時間ちょっとくらいしかあんたが人外と契約するチャンスはないわよ」


「うん、わかってる」


「そ、ならいいわ。少し休んでから、誰に挑むのかを決めることね」


「決めながら休むとするよ」


「そう……それじゃあ、あたしはあの二人との最後の組み手ねっ」


 雨澄の視線の先には、準備万端といった風に立つ、ヨルカとミルカ。


 目つきがとても鋭く、相当気合が入っている様子だ。


「二人とも、本気でかかってきなさい。そうじゃないと、後悔するわよ」


 スッと狐モードになった雨澄は、肩を回しながら二人へと近づいていく。


「ご主人様、見ていて下さいっ! わたしたちの全力全開をお見せしますっ!」


「わ、ワタシもっ……頑張りますっ!」


 俺は二人の言葉に、持っていた教科書を地面に置く。


 ここまで言われちゃ、見ないわけにはいかないよな。


「行くわよ……」


 微かに笑っているような口調で雨澄は呟き、ものすごいスピードで駆け出す! 次の瞬間、瞬く間に二人との距離を縮まり、先制の左フックがヨルカへと襲い掛かる。


 が、それを読んでいたかのように二人は同時に後方へと小さくジャンプしており、攻撃をかわし、先に着地したヨルカが地面を蹴り飛ばして、雨澄の頭部へ向けて跳び蹴りを放つ!


「猫キィィック!」


 気合の入った技名の発声と共に、オレンジ色のオーラが足を包み込む。それは二回に一回くらい成功するヨルカの得意技で、蹴りの威力が三倍近くになる。


 そんな攻撃を雨澄があっさりとガードしたのだが、それも計算済みのようで、ヨルカの陰から素早くミルカが現れ、両手を合わせながら何か呟きつつ雨澄の背後へ。その呟きが何かの魔法の詠唱だと気づいた時には、ミルカの手が小さく輝いていた。


 雨澄の死角をうまくついたようで、彼女は状況を把握出来ておらず、ヨルカの攻撃をガード後、何の警戒もなく右ストレートを放とうとする。


 そんな雨澄の背後めがけ、ミルカは思い切り両手を突き出した!


雷掌(らいしょう)ぉ!」


「ぐっ!?」


 自分の拳が敵を目指している途中の不意の衝撃。しかもどうやら電撃付きの攻撃のようで、雨澄は身体を硬直させつつ小さくうめき声を上げた。


 そんな雨澄に対し、追撃の猫パンチをヨルカが繰り出すのだが、それを振り向きつつギリギリで避けながらヨルカの身体を軽い掌底でポンと押し、そのままミルカという照準を見つけると、左拳を的確に撃ちこむ!


「んんっ……!?」


 バキッと岩が割れたような音と同時に、ミルカが数メートルほど吹き飛ばされるが、なんとかガードは間に合ったようで、そのまま尻餅をつく程度で済む。


 その状況を確認した雨澄はすぐに振り向き、今度はヨルカを視認するが、その時、ヨルカがパチンと指を鳴らすと、その指から閃光が生まれ、視界を奪う。


 そしてそのタイミングでヨルカは雨澄の横を駆け抜け、ミルカの隣へと移動した。


「大丈夫、ミルカ?」


「う、うん……ヨルちゃんは?」


「軽い掌底を受けちゃったけど、全然問題ないよ」


 ミルカに視線を送ることなく、ヨルカは雨澄を見つめたまま会話をしている。


 ミルカもヨルカを見ることなく立ち上がると、続くように雨澄も振り向いた。


「っ……!」


 来るっ! と、ヨルカも思ったのだろう、身体に少しだけ力が入った瞬間、雨澄の狐耳と尻尾が消え、髪も元の色へと戻っていった……


「……へ?」


「二人とも、合格かな」


 呆けていた二人に対し、雨澄はそう言いながら笑顔を見せた。


 いいなぁ……俺も、あの笑顔で合格とか言って欲しかったなぁ。


「ご、合格……ですか?」


「うん、今の連係、バッチリだった」


「ほ……本当、ですか?」


「うん。よく考えられた流れだったし、二人ともよく頑張ったわね」


 そう言われると、やっと本当に合格なんだと信じられたようで、二人は互いに顔を見合わせ、大喜びで抱き合った。そしてしばらく『やった! やった!』とはしゃいだ後、俺の方へと駆けてくる。


「ご主人様、やりました! 合格しました!」


「ワタシ……ワタシ、初めて合格って言って貰えました!」


 大喜びで抱きついてくるヨルカと、半分泣いているミルカ。


「あぁ、よくやったな! ヨルカもミルカもすごかったぞ!」


 二人の頭を撫でつつ、心の底からよくやったと、ただ褒める。もう、それ以外に言葉が見つからなかったし、俺も、自分のことのように嬉しかった。


「二人の連係にあんたが加われば、相手が三、四人居ても勝てるかもね」


 相手の攻撃を恐れず突撃する勇気のあるヨルカと、相手の目をよく見て状況を確認し、隙と死角を狙って、恐るべきスピードで駆け抜け攻撃を繰り出すミルカ。


 そして、とりあえず一対一で相手が魔法を使わない前提なら善戦できる俺が居れば、確かに頑張れるのかもしれないと、本気でそう思えた。


 ……なんとなく、俺がいらない気もしたけど、気のせいだな、うん。


「今のまま続けてたら本気になっちゃいそうだったし、このあたしに勝てるとは言わないけど、それなりの強さを持った人外とも三人でなら契約出来るんじゃない?」


「……え? 三人で戦えば、人外とも契約出来る?」


 そうか、召喚は魔法の一つだ。


 となれば、使い魔と一緒に戦うのは、ルール違反ではない?


「まぁ、戦う相手がそれを認めれば、の話だけどね」


「……よし、これならマジで契約出来るかも!」


 俺は地面に置いていた教科書を手に取り、勢いよく開く。


「どんなのがいいかなぁ~っと」


 一度は諦めたけど、やっぱり火属性の人外がいいかな?


「ご主人様、強いと言えば、やっぱり大きな剣を持った戦士風の人外じゃないですか?」


 なるほど、俺は剣(ランキング戦では木刀)を使う予定けど、ヨルカたちは武器を使わないから、本格的に武器を扱う戦士の追加、というのはアリだな。


「あぁ、でも同級生を斬り殺しちゃ、まずいよな……」


 あれ? となると武器を使う系の人外は、縛りが出来ることになるのか?


 ってか、そもそも強すぎる人外だと対戦相手を殺しかねないし、危ないの、か?


「あの、接近戦はワタシたちが出来ますし、今必要なのは魔法使いじゃないでしょうか?」


「魔法使いが大きな魔法を使うまで俺たちが守って、トドメを指して貰うパターンか」


 俺たち三人は接近戦以外の選択肢がないのだから、後方より魔法攻撃をしてくれる魔法使いタイプが居た方が決定打に成り得るし、勝ちパターンが生まれるわけだ。


 大きな魔法を使う時はそれなりの準備をする必要があり、その間は無防備になる場合が多いが、別の人が守ればいい……と、よくある戦術の一つだ。


「あたしはまず、相手の戦意をそぐような外見の人外を押すわ」


「確かに、そういう方向性もありか」


 見たことも無いような禍々しい人外が召喚されれば戦意喪失も狙えるし、生まれた隙を狙い、俺たちが攻撃をするという選択肢だってある。


 思い返してもみれば、カジェスの件で俺に対して恐怖を抱いている人も多かったし、かなり現実的なものと言えるだろう。一過性のものにはなるかもしれないけど。


「うーん……」


 さて、どんなタイプの人外を選ぶか?


 みんなの意見も踏まえつつ、俺でも契約出来そうな人外……


「外見的にも強さ的にも、やっぱり竜がいいんじゃないの?」


「呼び出したくても、この教科書に竜は載ってないんだよ……」


「でも呼び出してたじゃない?」


「あれは一生に一度だけの特別な召喚なんだってさ」


「ふーん……でも、契約したんでしょ? 呼び出して、式原でも契約出来るような竜を紹介して貰えばいいじゃない」


「その選択肢はありなんだけども、特殊なお酒と膨大な魔力が必要で、今の俺には無理」


「……とりあえず、お酒探してみる?」


 どこからともなく、小型のパソコンが出てくる。


「いや、お酒が手に入っても魔力が足りないんだって」


「魔力なんて『前借』すればいいじゃない」


「簡単に言うなよ!? 一生魔法が使えなくなる可能性だってあるんだぞ!?」


 『前借』とは、体内にある魔力の根源にある扉を無理やりこじ開ける行為で、人によるが数ヶ月分から一年分くらいの『使えるはずだった魔力』を使用可能になるのだが、成功失敗にかかわらず、それなりの確率で魔力ゼロの普通の人間になってしまうリスクがある。


 そして成功しても、使ってしまった魔力に応じた期間、魔力がまったく回復しなくなってしまうという、まさに諸刃の剣的な外法だ。


 『前借』に失敗した上、さらに魔力ゼロになってしまう可能性も十分にあり、使う場面がある程度限られてしまう、そんな知らなくても困らないモノだったりする。


「でも成功したら出世街道まっしぐらって感じじゃない?」


「なんで今そんなリスク背負う必要があるんだよ! 俺、そんな博打するほど現状に絶望してないから!」


「いや、でも面白そうだし?」


「俺は面白くないから却下で」


「……そう?」


 なんとなく不服そうな表情を見るに、どうやら雨澄は本気で言っていたようだ。


 まったく、なんてヤツだ。


「あーぁ、ルゥならなんて言うかな……」


 残り少ない時間の中、契約のため、俺たちは頭を悩ませるのだった。


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