ランキング戦
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2015/1/17 誤記修正しました
2014/9/1 段落ミス1箇所修正しました
登校すると、教室にはまだ誰も居なかった。俺はなんとなく寂しい気持ちになりながらも、自分の席に座り、ぼんやりと空なんて見つめてしまう。そしてそれが悪かったのだろう、俺は思い出したくもない、昨晩の、ルゥと別れた後のことを思い出していた。
「き、君がなんらかの関与をしているのはわかっているんだ!」
ヨルカとミルカを連れて部屋に戻り、作戦成功のお祝いにちょっと高いお茶を飲んでいると、そこにものすごい形相の教師が数名と鬼島先生、学園長がやってきた。もちろん用件は、校舎の隠し部屋……地下について。
「どこだ! 地下に居た少女はどこにいった!」
「少女……? なんのことを言ってるんですか?」
ただ怒鳴っている者に、蔑んだような目で見ている者、中には操られているのではと疑いの眼差しで見ている者も居た。しかし、俺にとってそんなことはどうでもよくて、予定通りただひたすらにとぼけて、首をひねりまくった。
俺が隠し部屋に侵入し、地下へ下り、あの場所にいたルゥをどうかしただなんて証拠、あるはずがないからな。そもそも俺は、ルゥの身体には何もしていないし。
「式原……」
そんな教師どもの間から、担任こと、鬼島先生が顔を出す。
先生はルゥが何者で、何故身体があそこにあったのか、知っていたのだろうか?
「お前は何も知らないし、何もしてない。そういうわけだな?」
「……」
「お前はことの重大さがわかっていないようだな……」
「えっと、重大なことが起きていること、何も知らない俺にしゃべってもいいんですか?」
「お前があの場所に居たという証拠が無いとでも思っているのか? 学園というものを甘く見すぎだ。それに、このことは場合よれば世界の崩壊へと繋がるんだぞ?」
あれ? ひょっとして、二つ目の扉ことを言ってる? もしかして、泡波もなんらかの方法で夜白ちゃんの場所を超えて、目的の場所に辿り着いて、それで無関係の俺が疑われてる? いや、地下に居た少女、って言ってるし、違うか。
「……ふぅ、だんまりか。すみません学園長、お願いします」
鬼島先生がそう言うと、一番後方でただこちらを見ていた学園長が、ゆっくりと目の前までやってくる。手には、鷹が天秤をくわえているという、不思議な彫刻を持っていた。
「では式原カズト、私の問いに嘘偽りなく答えなさい」
「えっと、今までも嘘偽りなく答えてますけど?」
「あの地下に封印されていた者が何者か、知っておるか?」
「知りませんよ? ってか、封印とか言っちゃって大丈夫なんですか?」
「では、封印を解いたのは君か?」
「違います」
「では、彼の者の行方を知っているか?」
「知りませんよ……そもそも何が起こってるのかよくわからないですし」
「…………ふむ、嘘は言っておらぬようじゃな」
学園長がそう言うと、先ほどまでうるさかった教師どもも、黙ってしまう。
どうも、俺が嘘を吐いているかどうか調べる方法でも持っていたかのようだ。
まぁ実際、俺はまったく嘘は吐いていない。
ルゥが何者かなんて知らないし、封印も解いてないし、行方も知らないのだから……
「夜分に邪魔をしましたね。それでは、良い夢を」
何か言いたげな風な人もいたけど、笑顔で学園長が去っていくと、全員、黙ったまま付いていく。俺は無言のまま、部屋のドアを閉めた。
「…………良い夢なんて、見られるわけないだろ」
「えっ? ご主人様、何か言いましたか?」
その声に、我に返る。目の前にはヨルカの顔があって、その向こうではミルカも不思議そうな顔でこちらを見ていた。
どうやら、ヨルカのお陰で思い出したくもない回想が終わったようだ。
「別に、何も言ってないよ」
「そうですか?」
「それより、今日はみんな遅いな」
「そうですね……」
時計を見れば、あと五分もすれば予鈴が鳴るというのに、まだ誰も来ていなかった。
こんな時、ルゥが居れば暇つぶしも出来るんだけどな……
「……」
いやいや、その発想はダメだな。
「ヨルカ、おいで?」
膝をポンポンとすると、言葉の意味を理解したのか、嬉しそうに座ってくる。
俺は鞄からクシを取り出しつつ、ヨルカの髪に触れた。
「んふふ~♪」
「ヨルちゃん、いいなぁ」
「次はミルカな」
「……はい♪」
「……式原、何やってるの?」
そんなことをやっていると、やっと、雨澄が登校してくるのだった。
◆◆◆
「では以上、魔法薬学の授業はこれまでとする」
鬼島先生がそう言い終え、教室から出て行くと、漂っていたピリッとした空気が緩和されていく。いつもならその空気もすぐになくなっていくのだが、どうも今日だけは違うようで、特に俺が……その空気を生み出しているようだった。
「御主人様、な、何かあったんですか?」
頭を抱え、机に突っ伏している俺に、ミルカは心配そうな声をかけてくれる。
「いやぁ……人の話はちゃんと聞かないとなぁ、と思ってな」
「そ、そうですね、ちゃんと話は聞かないといけないですよね」
「わたし昔、お砂糖入ってないよって言われたの聞いてなくて、絵本を読みながらそのままコーヒーを飲んじゃって、大変なことになったことがあります」
「そっか……え? それって、何か問題か?」
「ご主人様、知らないんですか? コーヒーってお砂糖を入れないとすっごく苦いんですよ? すっごくです」
「……そうだな、人生みたいに苦いかもしれないよなぁ」
「えっと、御主人様どうして落ち込んでらっしゃるんですか?」
「……ランキング戦のこと、すっかり忘れてたんだ」
そう、先ほど鬼島先生の話の中で、ランキング戦についてがあったのだ。
園内学年別順位付け試験、通称ランキング戦。
それは年に三回ある学期末に行われる、学年内での個人の実力順位を決める大きな試験のことである。筆記と実戦の試験があり、その両方の総合得点により順位は決められ、結果は全生徒に公開される。
結果によっては長期休暇の日数が減ったり、卒業後の進路が決まってしまうとまで言われるほど重要なもので、戦士としてのモチベーションを保つためのものでもあるらしい。
「ランキング戦が……まさか、明々後日だなんてな」
ルゥのことで頭がいっぱいだったため、すっかり忘れていた。ぶっちゃけ、鬼島先生が話をしてくれなかったら、当日まで忘れたままだったはずだ。
ルゥの身体が見つかってなければ、あいつにガミガミ言われながら対策を取っていたののだろうし、もともと忘れていた原因はルゥの事案でだし、すべてルゥのせいだな。
「今度ルゥに会ったら、チョコレートフォンフデュの刑にしてやる」
「え? なんですか?」
「いや、チョコレート食べたいなぁって……」
しかしどうする? もう残っている期日は今日と明日、明後日だけだ。しかも明日と明後日は学園が休みのため、訓練室は予約制となり、少しの時間しか使用出来ないはずだ。
ってか、ランキング戦前の休みとなると、すでに予約でいっぱいな気もするような?
「ヤバイよヤバイよ……本気で、ヤバイ」
オリオネスで重要だと言われているランキング戦のうち、唯一年度初め、入学直後に行われるものと、二年生最後となるものは特に重要だと聞いたことがある。それでランキングが下位の方になると……俺の夢が、また潰えてしまう可能性が大となってしまう……!
「ねぇ、ちょっといい?」
背中をとんとんと叩かれ振り向いてみると、不機嫌そうな顔なのに、何故か機嫌が良さそうに見える不思議な表情の雨澄が立っていた。
「訓練室、行きましょ」
「えっ……う、うん」
三時間目が始まったらすぐに行こうとは思っていたんだ。今は時間もないし、休み時間の間に行くのもいいだろうと思い、ヨルカたちを連れ、雨澄に続いて教室を出る。
「……あっ」
そこで思い出す、ルゥの言葉。
もし困ったことがあれば、雨澄を頼れって言ってたよな? ランキング戦のこと、聞いてみようか……? 無茶苦茶嫌味を言われる未来が容易に想像出来るけど。
「っと?」
ドン、という衝撃と同時に視界が揺れる。どうやら考え事をしていたせいで誰かにぶつかってしまったらしく、その相手と思われる人物が目の前で驚きの表情を浮かべていた。
「ご、ごめん」
「いやいや、こちらこそすまない…………ひぃっ!?」
いかにも真面目そうな眼鏡の男子は、俺の顔を見た途端、悲鳴を上げた。
そんな反応に驚きつつ、心に傷を負う。
「あっ……え、えっと?」
「……たね……」
「……たね?」
「し、失礼っ」
キッとした表情を作り、立ち去っていく同学年だろう眼鏡の男子。
な、なんだったんだろう……『たね』って、なんだ? 種?
「式原、何やってんの?」
「あ、あぁ……ううん、なんでも」
雨澄の言葉に、そそくさと訓練室に入る。
眼鏡の男子の言葉は気になるけど、今はランキング戦のことを考えるべきだろう。
さてと、どう切り出したものか。
「あ、あの、さ……」
訓練室に入り、ドアを閉めたところで、何故か少し頬を染めた雨澄が口を開く。
「えっと、そのぉ……」
何やらもじもじしていて、可愛いな、なんて思ったのだが、俺はすぐに気がつく。
雨澄は、何か言いたいことがあるけど、それが素直に言えないでいる。
それはもちろん言いづらいことで、ちょっと恥ずかしいことで、つまり……
「明日もしよかったらデ――、」
「雨澄もランキング戦のこと困ってるのか!? ……って、あれ?」
タイミング悪く、言葉をさえぎる形にはなってしまったが、彼女に言いづらいことを言わせずに済んだと考えれば、それはそれでアリだろうと思う。
が、しばらくポカンとしていた雨澄は、急激に不機嫌そうな顔になっていく。
「はあ? ランキング戦?」
「あ、あれ……違う、のか?」
「もしかしてあんたまさか、ランキング戦の準備、出来てないの?」
「……」
「それなのに、あの妖精の身体探しなんてやってたの?」
「いや、えっと……」
「ふぅー……あのさ、前々から思ってたんだけど、あんたバカでしょ?」
「うぐっ」
今の状況では何を言っても無駄だろうと思い、言葉を飲み込む。
でもバカじゃないんだよ……ただ、忘れてただけで……
「はぁー……それでおバカな式原くん? あなたはどうする気なの?」
「い、いや、その、今からなんとか間に合わせようかと……」
「あの妖精がいなくて、一人でなんとかなるわけ?」
「う、うーん……」
ちなみにだが、朝の時点で雨澄にはルゥの身体探しのことを聞かれており、ルゥはもう自分の世界に帰った……ということは伝えてあった。
「明日と明後日、訓練室の予約は取ってあるの?」
「いや、実はさっきの鬼島先生の話し聞くまでランキング戦のこと、すっかり忘れててさ」
「はぁー……」
ものすごく大きなため息だ。俺もそれくらいのため息を吐きたい。
なぁ、ルゥ……俺、どうすればいいんだろう?
「って、そっか」
ルゥを思い出したと同時に、先ほどまで考えていたことも思い出す。
「何? 何かいいアイディアでも思いついたわけ?」
「おう! とびっきりのを思い出したぜ!」
嫌味は言われるだろうけどな。
「雨澄、頼む! 力を貸してくれっ!」
「……何をすればいいの?」
嫌そうな顔だけど、そう言ってくれる雨澄はやっぱりいいヤツなのだろう。
「だから、俺がなんとかなるよう、知恵と力を貸して欲しいなぁって」
「あたしに丸投げっ!?」
「いや、ルゥがさ、困ったら雨澄に相談しろって言ってたの、思い出してさ」
「あの妖精、勝手なことを……」
こめかみに手を当て、雨澄は頭が痛そうな表情をしている。
ルゥはあぁ言ってたけど、やっぱりダメなのだろうか?
「はぁ……わかったわ、『あたしなら』なんとか出来るかもしれないし」
「本当かっ!?」
「ただし!」
ビシッと俺を指差し、いつもの不機嫌そうな顔で雨澄は続ける。
「あんたはしばらく、あたしの言うことをなんでも聞くこと……いいわね?」
嫌味ではなく、とんでもない命令が飛び出した。
「な、なんでも?」
「そ、なんでも。嫌なら他を当たってくれてもいいわよ」
「いや、でも……ん?」
他を、当たってくれても?
「あ、そうか、雛祭に相談すれば何かいいアイディアが貰えるかも?」
「ちょっ!? この期に及んであんた何言ってんのっ!?」
「いや、だって雛祭なら雨澄みたいに条件は出してこないと思うし……」
「ぐっ、ぐぐっ……!」
ものすごい形相で睨みつけられる。今にも殺されそうな勢いだ。
「あんた、もしあたしの誘いを断ってみなさい、二度と会話しないわよ」
「ひどいっ! それって『これからもあたしと会話したいならしばらくなんでも言うこと聞きなさい』って言ってるようなもんじゃないかっ!」
「そう言ってるのよっ」
「おまっ、鬼だろっ!?」
「失礼ね、あたしは狐よっ!」
「そういう意味で言ってんじゃねーよっ!」
「で、どうするの? 友達をやめるの? 式原『くん』」
「ぐっ……!」
こいつ、性格が捻くれてやがる……! まるで機嫌が悪い時のルゥみたいだ。
でもなぁ、なんでも言うことを聞くってのは、つらいなぁ。
「あ、あの、御主人様っ」
「ん……なんだ、ミルカ?」
俺の陰に隠れて会話を聞いていたミルカが、ズボンを引っ張るのでしゃがむと、こっそりと耳打ちをしてくる。ちなみにヨルカは壁に寄りかかって、寝ている。
「言うことを聞く期限と、範囲を決めるというのはどうでしょうか?」
「……なるほど」
「何よ? 言いたいことがあるならハッキリ言えばいいでしょ?」
雨澄の威圧に、またササッと俺の後ろに隠れるミルカ。
おいおい、こんなちっちゃくて可愛い子をいじめるなよ……
「雨澄、条件がある」
「あんた、自分の立場がわかってるの?」
「まぁ聞けって。俺はお前に助けを求めた。するとお前は俺に対価を求めた。それは別になんら問題じゃない普通のことだ」
「このあたしのこと、お前って呼んでることは大問題だけどね」
「ただ、対価が曖昧すぎる。いつまで、どれ程度の言うことを聞けばいいのか、それを決めようじゃないか。対価というのは貰いすぎても払いすぎてもいけないって、漫画に書いてあったとルゥが言ってたぞ?」
「漫画に書いてあったことを、さも偉人が言ってた風に言わないでくれる?」
「こういうのはどうだ? 期間と言うことを聞く範囲は、ランキング戦の後に決める」
「……なんでよ?」
「信用してないわけじゃないけど、雨澄のしてくれる助けが役に立ったかどうかは、ランキング戦の後にわかるわけだろ? なら、対価もそれから決める方が妥当じゃないか?」
「はあ? だから言ってるでしょ? 別にあたしの話を断りたいなら、断ればいいじゃない。それで、あのいつも笑顔で優しい巨乳の雛祭ひなに頼めばいいじゃない」
な、なんだこのトゲのある言い方は? 雨澄ってひょっとして、雛祭のことが苦手だったりするのか?
「いやだから……あー、わかった、ならこうしよう。三つだ。三つまでなら雨澄の言うお願いを聞き入れようじゃないか。ただし、第三者を巻き込んだり、死んでくれとか、どう考えても不可能なことは無理ってことで」
「……なんで三つなわけ?」
「俺の雨澄へのお願いが、今日から三日間、ランキング戦に心置きなく立ち向かえる準備の手伝いをして欲しい、だからだ。三日分ということで、三つ」
「じゃあ、五つで手を打ちましょ」
「なんで増えるんだよっ!?」
「あたしがやろうとしてることは、あたしにしか不可能に近いことだから。雛祭ひなでも泡波深湖でも、多分あの妖精でも出来ないことをやろうとしてるわけ。だから追加二つ」
「……わかった。でも、その分期待していいんだよな?」
「さぁ? あんたの頑張り次第ってことじゃないの?」
「……そっか」
雨澄は、決して嫌なヤツなわけじゃない。性格は悪いかもしれないけど。
その雨澄が言うお願いなんて、そんなに悪いことなわけはないと思う。
だから、これはこれでいいことにするのが、一番いいのかもしれない。
「それで、何をするんだ?」
「とりあえず、本格的なことをするのは放課後ね。今からやることは、まずあんたの実力を見ることから始めましょうか。一応、それを知っておかないと話にならないし」
「えっ……何を、するんだ?」
俺がそう問うと、雨澄は腰にある狐のお面を被る。
「とりあえず、一対一で組み手でもしてみましょうか」
手をぷらぷらさせつつ、ピョンピョンと飛び跳ねている。
すると次の瞬間、ミルカが慌てて俺から離れる。
「えっ、ちょっ――、」
「いくわよっ!」




