表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/123

雨澄七羽

2014/08/01 21:48 一部誤字レベルの表現を修正しました。

「……えっと……」


 雨澄の頭にあるアレは、コスプレ、か? ヨルカを見て、耳が可愛いなぁなんて思って、誰もいない所で付けてみましたー……みたいな、そんな感じ?


 思わず振り向くと、背中には本物の猫耳が生えた、可愛いヨルカの寝顔が。


「うにゅ……?」


 と、ヨルカが小さく寝言を言った……次の瞬間だった。


「へっぷしゅっ!」


 俺が振り向いたせいか、髪が鼻をくすぐってしまったようで、ヨルカがくしゃみをする。


 そして続けて、ゾワッと身体中に電流が流れたような感覚が襲う。


「誰っ!?」


 声に雨澄の方を見ると、彼女はこちらを睨みつけていて……えっ?


「しっ……式原、なんで、ここに?」


「えっ……も、もしかして、見えてるのか、ルゥ?」


 視界の端で、ルゥが頷いているのが見えた。


 そうか、雨澄のコスプレが気になって、認識妨害魔法への集中が薄らいでいたのか。


 ヤバイ……コレは、ヤバイぞ? 盗み見してるのがバレ、た?


「なんでここに居るかって、聞いてるのよっ!」


「うっ……え、えっと……そのぉ」


 雨澄は誰がどう見ても怒っている。俺は視線を泳がしつつ、もう隠れていても意味はないと思い、謝罪をしながら森の中から出ていく。


「そ、その……ごめん」


「あたしは、なんでここに居るのかって聞いてるの、答えなさいっ」


「えっと……裏山に行く雨澄の姿が見えたから、後をつけました。ごめんなさい」


「……なんで?」


「えっ?」


「なんであたしをつけたわけ? 理由を言いなさい」


「その……な、仲良くなれるきっかけが、みつかるかなと、思って」


「……そう。つけてる時点で嫌われるって、どうして思わなかったわけ?」


「ご、ごめんなさい」


「……もういいわ。さっさと消えて頂戴」


「あ、その……消えるけど、その前にひとついいか?」


「……何よ?」


 ものすごく嫌そうな顔をしたけど、一応、これだけは聞いておかねばと思ったので、俺はその質問を投げかけてみた。


「あの……その耳、何?」


「は……? 耳?」


 雨澄は普通の、人間の方の耳を触っている。


「そっちじゃなくて、頭の方の」


「はあ? 頭の方って……え?」


 頭にある猫耳のことを思い出したのか、顔が真っ青になっていく。


 ま、まぁ、コスプレしてるのを見られたら、恥ずかしい……か?


 でも、俺が聞きたいのはコスプレをしている理由で、別にコスプレ自体は可愛いし、気にすることでもないとは思う。趣味はそれぞれだしな。


「み、見たわねっ!?」


「っ!?」


 再び、ゾワッと身体中に電流が流れたような感覚に襲われる!


 雨澄は今までに見たこともないほどの鋭い目つきでこちらを睨み、左手首の袖からスッと、細い手のひらサイズの……ナイフを取り出した。


「ちょっ!? ま、待てって、落ち着けっ!?」


「うるさいっ! これを見られた以上……あんたを生かしておくわけにはいかないわ!」


 叫ぶような声で言い放ち、ナイフを振りかざして姿勢を低くした。


 これはヤバイ……アレを投げる気なのか、それともそのまま突進してくる気なのか、どちらだったとしても、一歩間違えたらマジで死ぬっ!


「待てって! 猫耳つけてるの見られたからって、殺すって選択肢はおかしいだろ!?」


「はぁあ!? 苦し紛れに変なこと言ってるんじゃないわよ! それとも何? あたしが『狐の妖怪』だってことわかってて猫耳とか言ってるわけ? いい度胸じゃないっ!」


「いや違っ…………はっ? 狐の、妖怪?」


 今、なんて言った? あたしが、狐の、妖怪?


「何そのバカにしたような顔はっ!? そんなに耳だけじゃ狐には見えない? いいわよ、あたしの本当の姿、拝ませてやろうじゃないっ!」


 雨澄がそう言った瞬間だった。彼女の身体から青い湯気のようなモノが立ち上り始め、ゆっくりと髪の色が金色へと変化し、スカートの中から、尻尾らしきモノも登場した。


 よく見れば、頭にある耳も、ふさふさの尻尾も、キツネ色をしていて……


「どうっ、これで狐ってわかった!? 何が猫よっ、バカにしないでよねっ!」


「いや……えっと、マジで妖怪なの?」


「はぁあっ!? 何言って……えっ? ま、まさか、本当に、気づいてなかった?」


 怒りで真っ赤だった顔が、ゆっくりと青ざめていく雨澄に、こくりと頷く。


「も、もしかして……あたしの、自爆?」


 再度、こくりと頷く。


「そ、そ、んな……」


 すべてを理解したのか、すとん、とその場に座り込む。盛大に自爆してしまったのが、とてもショックらしい。まぁ、確かに伏線もない急なネタバレで俺も驚いてはいるが。


「あ、あのさ、猫耳じゃないのはわかったけど……それで?」


「……はあ? 言ってる意味が、わかんないんだけど?」


 半泣きの表情で、でもキレ気味にそう言われたので、もう少しわかりやすく返す。


「いや、だから狐の、妖怪? ってのがバレたら、そんなにマズイのか?」


「……はあ?」


「いや、よく漫画とかであるじゃん? 人間に正体がバレたら死ななくちゃいけない掟があるー、とか、見た人間を殺さないといけないー、とか」


「……無いけど?」


「無いのかよ」


 なんだよ、いきなり殺そうとしたり、盛大に落ち込んでるからなんかあるのかって心配したじゃないか。あー、心配して損した。


「何よ、無かったら、何?」


「いや、ってか雨澄はなんでそんなに落ち込んでるわけ?」


「はあ!? そりゃ隠してた正体がバレたら……しかも自分のせいでバレたら落ち込むに決まってるじゃない! し……しかも、あんたにバレるなんて……!」


「はぁ、そうですか。じゃあ勝手に落ち込んでてくれ、俺、帰るよ」


 なんか疲れた……帰って、ヨルカに癒して貰おう。


「ちょっ、ちょっと、待ちなさいよっ!?」


「ん……? 何?」


「……何も、言わないの?」


「何が?」


「あ、あたしが妖怪って知って、何か言うことはないのかって意味よっ!」


「……は?」


「に、人間じゃないのかよ気持ち悪い、とか、ち、近寄るな……化け物、とか……」


「……あぁ、そうだな、言い忘れてた」


 怒った風にと言うか、真剣にと言うか、そんな眼差しでそう言った雨澄に、俺はしっかりと目を見ながら、少し大きめの声で、答えた。


「その狐耳、可愛いな」


「…………は?」


「あと、雨澄はそうやって感情を出しながらしゃべった方がいいと思う。いつもの不機嫌面も……まぁ、あれはあれでいいけど、俺は、そっちの方が好き……かな」


 途中で言ってて恥ずかしくなり、視線を外してしまった。


 くそ、何を言ってるんだ、俺は。やっぱり疲れてるな、帰ろ帰ろ。


「なっ……な、ななっ……!?」


「じゃ、また明日な」


「待ちなさいよっ!!」


「なんだよ、そろそろ帰らしてくれよ」


「ふっ、ふざるけんじゃないわよ! こっちは真剣に聞いてるのに……な、何が『俺はそっちの方が好き……かな』よ!」


「うあー、やめろ! 自分でも恥ずかしいこと言ったって思ってるんだからっ」


「こ、このっ、いい加減に――、」


「俺はお前を気持ち悪いだなんて思わない」


「……え?」


「近寄るなとか、化け物とか思わない。むしろ可愛いとすら思う……これでいいか?」


 言う必要はないと思っていたけど、それを求められているようなので、答えた。


 すると雨澄は困ったような顔になり、また不機嫌そうな顔に戻り、言う。


「な、なんでよ」


「なんでって……そう思うんだから仕方がないだろ?」


「だからなんでっ!? 普通なら気持ち悪いとか思うでしょ!?」


「思わない」


「だからなんでっ!?」


「俺は外見とか特徴とか、そんなくだらないことでクラスメイトに偏見持ったりしない」


「……くだらないこと、ですって?」


 声、怒気が含まれていた。


 雨澄にとって、ソレはよほどのことらしい。


「あぁ、くだらないね」


「……」


「そもそも獣耳とか尻尾があるとか、人間じゃなから気持ち悪いってなんだよ、ヨルカのこと言ってるのか? こんなに可愛いヨルカが気持ち悪い? どれだけ感性腐ってるんだ」


「……」


「ただちょっと普通と違うだけじゃないか、それだけで……って、ひょっとして雨澄、それでイジメられたりしてたわけ?」


「っ……!?」


 正解だったのか、驚いた表情を見せる。


 なんだ、そうか、『そういうこと』だったのか。


「ははっ……じゃあ、俺と一緒だな」


「……えっ? 一緒?」


「なんだ、仲間か。あー、全部わかった、なるほど、そういうことか」


 俺、察しが悪いなぁ。そうか、今まで『ソレ』でイジメられてきたから必死に隠して、でもそれがバレたから、また同じ目に遭うかと思った……けど、俺の反応が違ったから変に思って、噛みついてたってことか、すげぇ納得だ。


「よし、なら仲間だって証明してみせよう」


「はあ?」


「コレを自らの意思で見せるのは、雨澄が初めてかな……」


 ちらりと、ルゥを見る。


「ちょっ!? ま、まさかわたしを見せる気!?」


 俺の視線と発言に、今まで見て見ぬふりをしていたルゥが、慌ててそう言った。


「あぁ、いいだろ? 『仲間』ならさ」


「いいわけないでしょ!? そ、それでまた、前みたいに……」


「ならない。雨澄は……雨澄なら、きっと大丈夫だ」


 俺の言葉に、表情に、しばらく考えたルゥは……がっくりとうな垂れる。


 了承、ということみたいだ。


「ちょっと、誰と会話してんの?」


「あのさ、俺、妖精が見えるんだ」


「……は?」


「そう、それ! いい反応だなそれ。そうやって馬鹿にした視線で、俺も見られてたんだ。だから雨澄と仲間だな。普通と違うから、イジメられてた、仲間だ」


「……」


 言葉に、雨澄はまっすぐ俺を見つめる。


 これで、やっとわかって貰えたか? あとはルゥを見せれば解決、かな?


「式原……」


「ん……?」


「……きもっ」


「…………えっ?」


 先ほどまで真顔だった雨澄が、急に蔑むような表情に変わり、一歩引いていた。


「よ、妖精が見える? うわ、きもっ……頭、大丈夫?」


「いやいやいやっ!? えぇっ!? その反応はおかしいだろ!?」


「ちょっ、近寄らないでよっ!? 電波がうつるでしょ!」


 あれぇぇえ!? おかしいな、なんでこんな展開になるんだ? んんっ?


「というのは冗談で」


「冗談かよっ!?」


「そんなカッカしないでよ、ウザいから」


「お前がさせてるんだろうがっ!」


「で、本当に見えるわけ?」


「……あぁ、証明してやるよ」


「できるの?」


 こくりと頷き、俺はおぶっていたヨルカを下ろし、右手に魔力を集中させる。


 身体中に流れる魔力を、すべて、右手に……!


「雨澄、ちょっと手、触るぞ?」


「えっ、嫌だ」


「……今、すげぇ傷ついた」


「なんで妖精が見えるってことの証明のために、手、触る必要があるの?」


「対象者の目を俺の魔力で覆う、ってのが見えるようになる条件なんだよ。で、直接目に触れるわけにもいかないから、一番触れやすい手に触れて、そこから魔力を流すんだよ」


「なら……そうね、この、制服の袖ならギリギリ触ることを許すわ」


 そう言って、右手をそーっと嫌そうに差し出す。


 俺、もう帰っていいかな?


「ほら、早くしてよ。誰かに見られたら、付き合ってるとか思われて最悪じゃない?」


 俺が今、最悪な気分なんですけど。


 と思いつつ、そっと袖に触れる。そして、魔力を……


「……ルゥ?」


 名前を呼ぶと、仕方がないわね、といった感じでルゥは俺の肩に下りてくる。


「これで、見えるか?」


「……え?」


 ルゥの姿が見えたのか、じーっと、雨澄は俺の肩を凝視する。


 そりゃまぁ、妖精なんて初めて見るだろうから、驚くのも無理ないか。


「……メイド服?」


「そっちか」


「え? 妖精って、メイド服着てるの?」


「いや、それはコイツの趣味」


「ルゥよ。よろしくね、狐耳ちゃん」


 悪そうな笑みを浮かべてそう言ったルゥに、雨澄はこめかみをピクリと動かす。


 ったく、コイツは本当にっ……!


「このわたしを見たからにはぁ、一応、言っておくけどぉ」


 と雨澄の反応を見つつ、にやにや前置きを言ったルゥは、突然声色を変える。


「もしわたしのことや、カズトがわたしが見えることについて誰かに話してみなさい……手段を選ばず、どんなことをしてでもあんたを殺すわよ」


「お、おい……ルゥ」


「……わかった?」


「…………ふん、最初から誰にも言うつもりはないわ」


 見ると、ルゥに脅されたからとかそういうのではなく、ただ本当に『言わない』とそう思っている……雨澄は、そんな表情をしていた。


「雨澄、俺もお前のこと、絶対に誰にも言わないから安心してくれ」


「……ま、ここまで見せられたし、一応その言葉、信用しておくわ」


 一応、ね。ま、今はそれでいいか。


「じゃあ、今後ともルゥ共々、よろしくなっ」


 そう言って俺は持っていた袖を手放し、雨澄へ手を差し出す。


「何よ?」


「友情の印に握手でもと思って」


「はあ? 友情って、なんであんたと友達になっちゃってるわけ?」


「いいだろ? お互いに秘密知っちゃったわけだし、仲良くしようぜ?」


「うわー、下心見えみえよカズト?」


「うるさいな」


「……今、その妖精なんて言ったの?」


 袖から手を放したから魔力が途切れたみたいで、雨澄はルゥを見失っているようだ。


「いや、別に」


「……ま、いいけどね」


「それじゃあ――、」


「握手はまたの機会に。……友達の件は、考えておくから」


 くるりと背を向け、真顔のつもりなんだろうけど、少しにやけた感じで、先ほどまで座っていた木へと歩いていく。そして再び木へと座り、置いていた本を手にした。


「それじゃあね」


 帰れ、とのことらしい。


「あぁ、うん、それじゃあ」


 苦笑しつつ俺はルゥの力を借りてヨルカをおんぶし直し、来た道を戻ることにする。


 途中、雨澄の様子が気になってちらりと振り向いてみると、彼女もこちらを見ていたようで、目が合った瞬間に慌てて本に視線を戻しているのが、面白かった。


「また、友達が出来るかも……」


「また……女の子の友達が、ね」


 嫌そうに言っているルゥを見て、また嫉妬か? なんて思うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ