プロローグ
「おーい、カズト? 聞いてる?」
人間は自分が見たものしか信じられないものだ。
だから俺は『妖精』の存在を信じ、俺以外の人は誰も信じなかった。
「聞いてるよ……それで?」
「やっぱり、ココよ……うん、間違いない」
俺の、唯一の友達、ルゥ。
物語に登場する『妖精』と容姿は似ていて、大きさは手のひらサイズ。長くも短くもない髪はキレイな赤色をしていて、透明な羽根で空を自由に飛びまわる。その上、多種多様の魔法も使えて……俺以外の誰にも見えない、声も届かない、不思議な存在だ。
「……マジで、ココなのか?」
「うん……きっとココに、わたしの身体がある」
幼い頃に家の庭で出会って、友達になって、それからずっと彼女の『本当の身体』を探し続けていたけど……まさかココにあるだなんてな、見つからないわけだ。
「それなら、尚更合格しないとな」
そう言って見上げたそこは、日本にはたった一箇所しかない特別な学園。
二百年前、突如現れた扉より出てきた侵略者『魔族』と戦うために用意された『魔法戦士』を育成するための場所だ。
厳重なセキュリティの下、教員と雇われ魔法戦士と生徒しか基本的に出入りが出来ない上、生徒を含めた関係者全員が学園内で暮らしている。
日本一とも言われている結界魔法や罠で隔離もされており、都会の真ん中にありつつも陸の孤島とも言われていて、もはや一つの街だった。
「わたしの身体が無かったとしても、あんたは絶対に合格しなきゃダメでしょ?」
「でもさ、俺の夢のはじまりも、結局のところはルゥの身体探しだしさ」
進入禁止区域に入って魔物に襲われた時、偶然居合わせた火を操る魔法戦士に助けられたりしなければ、あこがれなんて抱かなかっただろうし。
「わたしのせいにしない」
「……そうだな、俺の、夢だもんな」
「この日のためにいろんな訓練してきたんだから、ちゃんと結果残しなさいよね」
「おう……じゃあ行くか」
大勢の人が飲み込まれていく校門を目指し、歩き出す。
「魔法戦士育成学園オリオネス……面白そうな場所じゃない」
その日は、俺の人生を大きく左右する、受験の日だった。
「……そうだな」
俺は、大いなる夢への第一歩目を、踏み出していた。