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始まり

卒業式。

卒業後の休み期間。

それから、入学式。


明日が大学の入学式って日の晩、私は、シロとクロとじっと向かい合った。


「シロ、クロ。明日、おかーさんは大学へ。シロとクロは、龍の学校に、行く日だよね」


『ピィ(うん)』

『キュッ(はーい)』


「おかーさんが、見えなくなっても、元気で、いてね」

私はそう言いながら、うるっと来ちゃった。


『ピィ!(うん)』

『キュッ!!(うん)』


二匹とも、コクコク頷いて聞いてくれてた。


『ピィ、ピィピィピィ(おかーさん、見えなくなっても、忘れないでね)』

と、シロが私の右手の人差し指をきゅっと短い手で握って、そう言った。


『キュッ!! キュッキュ!!(ちゃんとお仕事も頑張るから、信じてね!)』

なんて、クロまでしっかりした口調で言った。


「うん」

おかーさんのはずの私が、まるで子どもだなぁって、うるうるしながら思った。


『キュッ、キュッキュ♪(大学にも遊びに行く~)』

クロはほわほわ嬉しそうに言った。

全然悲しそうじゃなくて、私は不思議だった。


『ピィ、ピィピィ(おかーさん、私、頑張るからね)』

シロの方が、なんだかとっても必死だった。


「うん」

私もコクコク頷きながら、シロとクロに、おかーさんっぽい事を言ったりするんだ。

「大丈夫だよ、見えなくなっても、何か変わるわけじゃないもんね」

自分にそう言い聞かせる言葉だったんだけど。


『ピィ(うん)』

シロがちょっと涙ぐんでるのに、

『キュッ♪(はーい♪)』

クロは言葉そのまま楽しそうだった。


何も変わることなんてないんだってクロは本当にそう思ってるんだなって思った。


クロはちゃんと分かってるのかな、って思ったけど、分かり切れてないのは、私とシロの方なのかもしれないなっていう気もするんだ。


***


朝、今度こそ5時に起きて、シロとクロをお見送りした。

『ピィ(おかーさん、行ってきます)』

『キュッ(いってきまーす)』


「うん、いってらっしゃい」


二匹は窓をスルっと抜けて外に飛んで言ったから、私は窓を開けて、ちょっと身を乗り出して、二匹が空を昇って消えて行くのをずっと見送った。


これが最後の姿かもしれないって、ずっとずっと、見送ってた。


涙が出た。


***


私の方の入学式は、正直たいしたことなかった。

大学が大きいから、全員は講堂に入りきれないから、割り当てられた教室のモニターで様子を見た。


チアリーダーの人が1人、入学を盛り上げるために教室まで来てくれて掛け声をかけてくれた。それだけが生の雰囲気で、あとはずっとモニターの中の、まるでテレビの外のできごとみたいで、

我ながら感動が薄くていいのかな、なんて思ったりした。


でも一緒の教室にいた人と話してちょっと顔見知りになったよ。


自分が行く学部の施設をちょっとうろうろ探検してみながら、シロとクロは今頃どうしてるかなぁ、なんて事も考えちゃった。


場所も、友達も、全て、始まりからの始まり。


私は大学のちょっとした広場から空を見上げて、

あんまりにも分かりやすい

「人生の新しい日常の始まり」を、不思議だなぁ、なんて思った。


***


今日は入学式だけだったので、結構あっさりと家に帰ったよ。


家でもお祝いをしてくれて、いつもより豪華に、ご飯を食べに連れて行ってくれた。


薄暗くなって空を見上げてたら、

『ピィ』

『キュウ』

って声が聞こえた。


「えっ」

耳を澄まして目を凝らしたら、

空から小さな白い龍と、小さな黒い龍が降りてきたんだ。

「シロ! クロ! おかえりー!!」


もう見えないんじゃないかと思ってたから、ものすごく感動した。


その日は私とシロとクロでものすごく喜んで、パパもママも継人兄ちゃんも交えて、私の入学式の話や、シロとクロの学校の話をワイワイ楽しく聞いて過ごした。


***


『ピィ、ピィピィピィ(私は、今日は雲をちょっと作れるようになった)』

とシロは言った。


なんでもシロは、雲を作るような龍みたい(よく知らないけど…)


『たくさん先輩がいてね、私も大きくなったら空にたくさん絵を描くんだ』

って言った。


『キュゥ~、キュゥキュゥ(クロね、明日から食べて良いって、お山の上に連れて行かれたよ)』


「んん??」


『キュツ、キュッキュ(たくさん、いっぱい、黒いのあったの。たくさん食べてねって、先生が言ってた。今日はダメなんだって)』


「へぇ~」

クロは、先生も喜ぶ、『何か良くないものを食べる』珍しい龍みたい。

「どうして今日はダメなのかな? でも明日から食べられるから、楽しみだね」


『キュッ(うん!)』


今日も晃兄ちゃんと朱音さんはいないけど、皆でワイワイ盛り上がって、私はちょっとだけ、お正月みたいだなぁ、って、思ってたんだよ。


みんなで、ワイワイ楽しく過ごしたんだよ。


***


次の日。

やっぱりシロとクロは5時に学校へ。

私もやっぱり頑張って起きて、お見送りした。

今日も、これからも、ずっと、見え続けたらいいな、って思ったんだよ。


私の方の大学は、今日から説明とかいろいろ始まる。

新しい友達もちゃんとできますように、って思ったよ。


***


新しい学校で、同じ教室になった子とおしゃべりして親しくなって、授業のとり方とか、校舎の説明とか受けて。


なんだか昨日より、「あぁ、新しい生活が始まるんだ」って実感が湧いたよ。


同じような事に興味を持った人たちと、たくさん遊んで学んで楽しみたいな。


***


わくわく過ごして帰ってきて、

私はいつまでも部屋の窓の外を開けて空を眺めてた。


昨日シロとクロが帰ってきた時刻はとうに過ぎて、空に星が輝いてて、私はため息をついた。


あぁ、2日目で、見えなくなっちゃったんだ。



分かってたよ、分かってたけど、やっぱり落ち込んで悲しくなるんだよ。



でも、きっと、この部屋にはもうシロとクロが帰って、私の様子を心配そうに見てるんじゃないかって思ったんだ。


不安でゆらゆら揺れる気持ちが声に出てしまわないよう気をつけながら、

「シロ、クロ」って部屋の中に小さく呼びかけた。

「帰ってるのかな、今日の学校どうだった? おかえり、シロ、クロ」


何かがちょっと光った気がした。


それでも、私の部屋は静かだった。


私は静かに、窓も開けっぱなしにしながら、部屋の中を眺めてた。





堪らなくなって、深夜近くに、高校の卒業の時に作ってくれた米倉さんのメーリングリストに『シロとクロが見えなくなっちゃった』っていうのを送った。




私のメッセージにたいして、皆が泣き顔の顔文字とかで返事をくれてるのを見て、本当に、伝える場所と聞いてくれる(読んでくれる)皆がいてよかった、って、思った。


見える高橋(元)学級委員長が、シロとクロを見つけたら教えてくれるってメッセージをくれたから、それがとても嬉しかった。


見えなくなっても聞こえなくなっても変わらないって、思うし、シロとクロにもそう言ったけど。


でも、やっぱり、見えて聞こえたら良いなって、願っちゃうのも私の素直な気持ちなんだよ。



***



5月になって、クロの目撃情報が出てきたよ。


高橋(元)学級委員長が、クロを東京の空で見たって話。


東京かぁ。随分大きくなってたって話だけど、随分大きいってどれぐらいなのかな。

でも無事に大きくなってて良かったなぁ。

元気かなぁ、クロ、元気だろうけど、元気かなぁ・・・。


北海道の大学に進学した久本君からも、クロを見たって情報があった。


北海道と東京? 広い範囲を動いてるんだなぁ、クロ。

とても小さい黒い龍なのに、そんな距離を移動するんだ・・・。

それとも、もうあっというまにものすごく大きくなってるのかな。


そして、シロはまだ誰も見ていない。


シロ、大丈夫だよね。元気にしてるよね。


どうしているのか、知りたいなぁ・・・。


***


シロ情報がメーリングリストに入ってきたよ!


イケメン長谷川君が琵琶湖の上で会ったとの事。


シロ、お友達と着実に育ってるのかな、元気にしてそうだよね、元気かな、とにかく情報があって嬉しい。


"シロとクロは、今も毎日三村さんとこ帰ってるよ"


長谷川君のそのメッセージに驚いたよ!


帰ってきてるんだ! ちゃんと!

私はキョロキョロと教室を見回した。


「シロ、クロ!」

久しぶりに声を出して呼んでみる。


答える声はやっぱり聞こえない。


それでも声を出してみる。

「シロ、クロ、元気?」


やっぱり何も聞こえない。


あぁ。

見えたら良いな。聞こえたら良いな。


でも、止めよう。


見えなくても聞こえなくても・・・ちゃんといるよって、シロとクロも言ってたじゃない。


忘れないでってシロが一生懸命言ってたよね。


うん、忘れてないよ。忘れないよ。


ちゃんと、今も、いるんだよね。



「あぁっ、でも、やっぱり見えたり声を聞いたりしたいよ~」

私は部屋に誰に向かって言うでもなく、正直なところをしゃべってた。


諦め悪いかなぁ、私。

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