西野さんと山田さんとそれからええと。
「アイター」
と、誰かが小さくどこかで言った。
皆は西野さんの大声と言った内容にびっくりしてたけど、私は救いの神様が現れたみたいな気分になってた。すがりつく気分って、こんな気分。
「西野さん、分かるの?」
真っ赤な顔で、下を向きがちになりながらも、西野さんはうなずいてこっちに来てくれる。
「高い鳴き声の、心配そうにしてるのも、傍にいるよね・・・?」
「う、うん。それはね、シロで、白い龍なの。動かなくなっちゃったのが、黒い龍で、こっちの・・・」
「あ、ごめん、私、『見えない』・・・あの、えっと、待ってね」
それから西野さんは両耳の上を自分の両手でこすって、ちょっと耳を澄ませるように集中した。
「えっと、『食べ過ぎ』って、精霊が言ってるよ。
待ってね・・・えっと・・・どうしたらいいの?
・・・えっと、言うね、『落ちついて、助けが来るよ』って、言ってるよ」
・・・たぶん、もし私が、自分がシロやクロが見えたり聞こえてたりしなかったら、その西野さんの様子は理解できなくて、『おかしな人』または、『すごいかもしれないけど、近寄りたくない人』って、思ったんじゃないかなと思う。
でも、今の私は、西野さんのやってることも、言ってる事も、本当なんだろうな、って、思ったんだ。
私には、『食べ過ぎ』とか、『落ちついて』とか、そんな言葉は全然聞こえなかったけど。
聞こえる範囲とか、見える範囲とか、人によって、もう全然違うんじゃないかって。
西野さんは、とっても、『耳の良い人』なのかもしれないって。
「うわ、西野、引くわー」
と、教室のどこかでまた別の誰かが言ったけど。
私は本当に、西野さんを頼りに思った。
「えっと、食べ過ぎ・・・? クロ、食べ過ぎなの?」
私は手のひらの上のクロに聞いてみたけど、返事は無かった。
「シロ、クロは食べ過ぎなの・・・?」
『ピィ・・・(わかんない・・・)』
そこに、立ち直ったかのように山田さんが声をかけてきた。
「えっと・・・西野さんも、霊とか見えるの?」
西野さんは首をふって、
「霊なんか私は見ない」
と答えた。
「信じなくても良いけど、精霊のアドバイスが聞こえる」
西野さんは、なんだかちょっと不貞腐れたように言った。
言っても信じてくれないだろうって、ずっと思って黙ってたのかもしれない。
それが、こんな風に、私を助けるために声をあげてくれたんだ。
今まで付き合いづらそうで全然仲良くしたこと無かったのに、西野さんってものすごく良い人だったんじゃ・・・!
「えっと、佳世ちゃん、じゃあ、龍が、いるの?」
山田さんがもう一度聞いていた。
私は頷いた。
「うん・・・」
「お腹が、痛いって、動かない、んだ?」
「うん・・・どうしたら、良いのか・・・わかんなくて・・・誰か分かる人、助けて欲しい・・・」
「えっとー・・・」
山田さんは両ほほを自分の両手で包んだ。困ってるけど何か一生懸命に考えてくれてるって分かった。
「西野さん、そういうので分かる人、他に誰か知ってる?」
西野さんは首を横に振った。
「えっとー・・・」
山田さんはまた困ってる。
「斎藤も、分かる人? 違うの?」
話をまた振られて、斎藤君が動揺している。
「えっ・・・ぼ、僕は・・・えっと、と、特別って言うか・・・」
「は? 何それ?」
山田さんの追及に、私も涙目のまま、斎藤くんを見る。ついでに、西野さんたちも斎藤君を見詰めてる。
「え・・・僕を頼らないで・・・あの、受け継いでる、ケンタロウって、普通は見えない犬なんだけど・・・ケンタロウなら、分かるだけで・・・」
「ケンタロウ?」
とは、山田さんではなく、別に集まってくれた米倉さん。
「それはどうでも良くてさ、佳世ちゃんのクロ、助けられんの、って話じゃん」
「えっ・・・」
「ちょっと、お前ら、みのりん(←斎藤君のあだな)いじめんな!」
「いじめてない! 佳世ちゃんの一大事だし!?」
「ちょっと待て、そもそも、何、本当に見えてんの? お前ら、すごい人?」
「今そういう話じゃないでしょ!!」
私の手に負えなくなってきて、私は周りの喧騒を放って、左手のクロを見詰め直した。
「クロ・・・クロ!」
『ピィ・・・!!』
「七海ちゃん、そういうの詳しいんじゃない?」
「え?」
「あ、呼んでくるね!!」
七海ちゃん?
お昼を一緒に食べてる七海ちゃん。
詳しいの?




