カミングアウト
突然の私の駆け込みに、明らかに斎藤君は引いていたんだけど、正直私はそんな事気にしちゃいられなかった。
うわぁ、っと泣きながら、私は斎藤君に左手のひらの上のクロを見せた。
クロは相変わらず、私の手のひらの上でじっとしていて、全然動かない。
どうしよう、生まれた時みたいに、急に、死んでしまったら?
すごく怖い。
斎藤君は、慌てたように近づいて来て、私の差し出している手のひらをじっと見詰めてから、私の目を見て、困ったようにいった。
「えーと・・・どうしたの?」
見れば分かってくれると思ったのに、全然分かってないみたいで私はショックを受けた。なんですぐ分かってくれないんだろう。
「クロが、お腹いたいっていって、動かないんだ、どうしたらいいの、動かないよ、どうしよう、どうしよう」
「え、佳世ちゃん、どうしたの、めっちゃ泣いてるー・・・」
心配した、クラスの女子・山田さんが来てくれたけど、たぶん、彼女は見えない人だ。だって、手のひらの上のクロを、全然みないもの。
私は泣きながら斎藤君に助けを求めて見つめてた。
でも、斎藤君は本当に困った顔でうろたえてた。
「え・・・と、ごめん、僕、ケンタロウは分かるんだけど・・・分からないんだ」
「え・・・?」
何言ってるんだろう、斎藤君。
斎藤君は、やっぱり困り顔のままで、こう言った。
「ごめん、僕、他の、あの、見えない・・・」
「え・・・」
右手からシロがするっとすりぬけて、左手に漂って、クロに呼び掛けてた。
『ピィ・・・ピィピピイィ・・・(クロ・・・クロ、しっかりして・・・・)』
クロは全然、ピクリとも動かない。体を伸ばして、全然動かない。
「うわああん」
私は小さな子どもみたいに泣きだした。
だって、助けてくれると思ったのに、ダメだった。
シロとクロの様子に、私は何もできない、助けてもらう方法も分からない、どうしよう、どうしようって、焦る気持ちで切羽詰まってくる。
「佳世ちゃん、どうしたの!?」
「あのね、」
私は、周りに集まってきてくれた山田さんたちに向かって、助けを求めてた。
山田さんたちには見えてないって、目線や態度で気付いてたけど、でも言わずにいられなかった。
誰でも良いから助けて欲しかった。
「あのね、龍の、クロがね、お腹痛いって、動かないの、どうしよう、クロがね」
見えない人には言わない方が良いのかなとか、そんな事、もう気にしちゃいられない。
「え・・・? 龍? クロ? えっと、」
「えー・・・もしかして、昼にやってた、劇の続き?」
「あー、さっきの、あぁ・・・でもなんで泣いてるの? え、芝居?」
「ちが、ちがう、」
「え、龍・・・?」
私はお昼の事を後悔した。あんな風に目立って、でも『お芝居』って誤魔化したから、そのせいでみんな余計に分かってくれなくなってる気がした。
「ちがう、あのね、龍、見えるの、今、ここにね、いるの。本当なの」
私は必死で訴えた。
泣きながら訴えてるから、みんな、真剣に聞いてくれてるけど、でも、信じられないみたいで戸惑ってる。
「劇じゃないの?」
「うん、違う」
「本当に? ここに、え、今ここに、龍がいるの?」
「うん、そうだよ、で、お腹痛いって、動かなくなっちゃって・・・」
「え・・・」
『ピィ・・・ピィピィイ!!(クロ、クロしっかり!!(泣))』
「ホントなの、どうしよう、誰か助けて!!」
どっと泣いた。
でも皆困ってる。私の取扱いに困ってるみたい。
でも、私はとにかく必死で。
「三村さん、なんだろ、どうしたんだろ」
「龍がいるってさ」
「え、妄想?」
「知っらなーい。受験勉強で変になったんじゃない~」
少し遠くでそんな会話が始められてる。
なんだか足元がぐらぐらしてきた。
どうしよう、座り込みたい。でも、今しっかりしないと! クロ、クロを助けなきゃ・・・!
「うえぇええん。クロー! 大丈夫? しっかりしてよぅ」
私は左手の上の、伸びきった状態のまま動かないクロを見詰めて泣いてた。
「え、ちょっと、マジで三村ヤバクない?」
「え、劇でしょ、だって昼も斎藤実と練習してたし」
「あれ演技? 泣きまね?」
「つーか、龍って。クロって(笑)」
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・!!
突然、少し離れたところから、調子が狂ったように大きな声が飛んできた。
「っみ、みむらさんの、言ってる事は、本当だから!!」
それは、暗くてつきあいにくい印象のある女子、西野さんの。初めて聞く大声だった。




