即席演劇部なの、エヘ☆
ものすごく目立ってしまって、私は慌てた。
ど・・・どうしよう!?
固まってたら、斉藤君がこう言ったのだ。
「え、えっと、次、三村さんの、セリフだよ」
・・・へ?
・・・セリフ?
キョトーン、と思わずなってしまったのに、シロがフワフワって私の顔の近くまで泳いできて、
『ピィ…ピィピィピピィ?(えっと・・・私は至って冷静よ!)』
・・・・へ?
・・・セリフ?
皆が注目する中、とにかく何を言って良いのか頭が真っ白になった私は、シロの言った言葉を復唱した。
「え・・・・と、私は至って、冷静よ!」
超棒読みです。
***
なんと、急に斉藤君は、この場を『演劇の練習してましたー! エヘ☆』てな風に持って行こうと思いついたらしい。
そして、なぜか、シロがそれっぽいセリフを耳元で言ってくれるから、私はそれを超棒読みで口にした。
後で分かったんだけど、クロをパクっと食べちゃった(いや、実際食べてないけど)大きな犬みたいなケンタロウさんが、斉藤君がどうこの場をごまかそうとしてるのかを察して、シロに私のサポートを頼んだんだって。
それにしても超棒読み。
そして、超超、無理すぎない?
私はワケがわからないまま、一生懸命演劇してる風に装う斉藤君と、空気を読んだみたいな唯意ちゃんと一緒に、ものすごく苦しくて辛い『只今演劇練習中です』って状況を演じてみてた。
「あー、有志の劇か、頑張れよ~。斉藤たちだったんだ~」
なんて、クラスの男子の一人が演劇練習を肯定する発言をする。
「あ、そっかー。大変ね~、あ、でも強制じゃないんだっけ? 無理なら出ないんでしょ?」
なんて、クラスの女子の一人が全く初耳な情報を出してくる。
え、えへ、えへ、えへへ・・・。
私はもうとにかく愛想笑いで逃げ切る事にした。
もう三人とも限界だし、もう切り上げて良いだろうと皆思った頃に、唯意ちゃんが
「あーやっぱり、上手くいかないねー、私たち辞退した方が良いよね~」
なんてこの場を収めるように言った。
必死で
「そうだよねー!! 無理だねー!!」
って唯意ちゃんの発言に乗っかっている私と斉藤君がいました。
うぅ、唯意ちゃん、斉藤くん、なんかごめんね。
***
この場をしのぐために斉藤君が打ち出した『俺たち、卒業式前日のイベントで、劇やるんです』みたいなシチュエーション。
クラスの雰囲気ははっきり二つに分かれてた。
まるで私達の状況を助けるみたいに『演劇がある』って肯定する人たちと、『え、なにそれ初耳なんですけど? 何それ!?』ってびっくりしている人たちと。
私も正直びっくりです。
えぇ、肯定する人がいることにびっくりです。
それとも何、本当にそんな設定があったんでしょうか。イヤイヤ、あるはず無いよ。
***
「え? 何? 劇なんてやんの? お前ら、無いわー。受験前に余裕じゃね?」
と、口と態度は悪いけど成績優秀なぽっちゃり男子が言いました。
「劇? ふーん、なんか良く分からないけど、頑張ってね」
と、社会科の問題集を見ながら首を傾げつつ、興味なさそうに近くの席の女子が言いました。
「わぁ・・・よっぽど演劇が好きなんだね、知らなかった・・・ごめん、ちょっと今勉強で僕あまり手伝えないけど、見に行くから時間また教えてね」
と、ほわほわした、美術系の学校を目指している男子がわざわざ近寄ってきて言いました。
「ねぇ! ねぇねぇ! 劇やるの!? すごーい! えっ、私も出たーい! 何やるの? 創作よね、私も出してー!!!」
演劇部所属の女子に迫られて、一番返答に困りました。
あぁ、ごめん、みんな。私たちをそっとしておいてクダサイ。
劇なんてするわけないよー、今この場しのぎの設定なんだよー、ごめん皆ゆるしてー。
***
なぜか、私達のフォローを、誰かがしてくれた。本当に不思議。
「上級生が有志でやるんだけど、無理なら止めて良いらしいよ。って聞いたような・・・」
なんてとても疑わしい話(間違いなく、そんな事実ない、と思う)を、皆にそれとなく聞こえるように言う男子がいたり。
「私もやりたい!」と瞳を輝かせて迫ってくる女子への対応に困っちゃった私たちに代わるように、
「谷口さん演劇部だし、うますぎてレベル合わないんじゃない? 止めとけば~?」
なんて女子がさっぱり断る方向にもっていってくれてる。
分からない中で、私は確信したんだ。
きっと、年末前の私みたいに、『見えてない』人たちが居る一方で、今の私みたいに、『見えてる人』が、予想よりたくさん、ここには居るんだって。
私たちをフォローしてくる人たちは、多分、『見えてる人』なんだって。
皆が気を使って、浮いちゃった私たちを、『見えてない人』が混乱しないように、口裏を合わせてかばってくれてるんだ。
そして、きっと、クラスの半分ぐらいは、『見えてる人たち』なんだって。
なんだか、本当に呆然とした。




