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STAGE5:契約

「神田!」

「き、来てくれたか!」


 疾走した末に神田がいる西側へ辿り着いた明雄と『白いの』。そこで見たものは、傷だらけになりながらも必死で戦っている神田と――全身が赤く染まった巨大なサソリ。流石の神田でも彼ひとりでかなう相手ではなく――圧倒的なパワーの前に神田は押され、やがてハサミで突き飛ばされ岩へ叩きつけられてしまう。


「お、おい、大丈夫か!?」

「こ、これくらい何ともない。それよりお前……気をつけろ! あいつは……とてつもなく強いッ」


 「気をつけろ」と言い残して神田は目を閉じた。「待て、死ぬな! まだ死ぬには早すぎる!」と必死で彼を揺り起こそうとする明雄。そんな彼を見て、『白いの』が同情するような儚げな表情を浮かべた。この男は仲間思いなのだな――と。しかしすぐ険しい表情になり、


「落ち着け明雄! その神田とやらは死んでおらん。気を失っただけだ」

「え?」

「それより今は――」


 仲間が死んだと勘違いして焦燥する明雄を落ち着かせた『白いの』は前方を振り向く。ゆっくりと着実に赤い巨大なサソリ――アンタレスがこちらへと迫ってきていた。この巨大サソリを指差し、『白いの』は


「こやつを倒さねばならん!」


 そう叫んだ。ならば何とかしてこの場を切り抜け生還するしかない――周りの人々や家に残してきた家族の為にも。意を決して明雄は立ち上がり、アンタレスへと立ち向かう。相手の巨体を殴り蹴るが――その硬い甲殻の前にことごとく弾かれてしまう。


「か、硬い……!」

「グオオオオオオ!!」


 先端がとがった尻尾に突き刺され、明雄は吹き飛ばされた。地面に叩きつけられるも起き上がり、明雄は飛び上がって両手をアンタレスの背中へと叩きつけた。だが、やはり――効かない。


「ぬあっ」


 背中へ飛び乗った明雄を振り落とし地面へと叩きつける。そしてアンタレスは明雄に接近し、その口をあけて明雄を捕食しようと試みるが――そうはさせまいと『白いの』が強い力でアンタレスを突き飛ばし遠ざけた。その両腕は巨大なツメを生やした龍の腕に変わっていた。


「白いの……!」

「まったく、お主というヤツは……自分の命くらい守れんでどうする」

「だが今は戦わないと神田を……!」

「無茶をするな!」


 傷を負い血を流しながらも明雄は立ち上がる。みたびアンタレスへ立ち向かおうとするが――『白いの』はそれを片腕を広げて止めた。「行かせてくれ!」と明雄が叫ぶ。


「お主は下がれ。ここは私がやる!」

「だが、君もダメだったらどうするんだ」

「私もダメだったら? ……そのときはそのときだ」


 明雄からの問いに戸惑いながらも答えた『白いの』は疾走し、アンタレスの攻撃を巧みにかわし時に防ぎながら果敢に立ち向かっていく。そのパワーとスピードは圧倒的だ。見上げるほどの巨体を持つアンタレスさえも、彼女は容易くいなし追い詰めていった。その戦闘能力とセンスは明雄と肩を並べるほどか、いや――それ以上だ。


「ふんッ」


 激しい攻防の末に『白いの』はアンタレスの背中に巨大なツメを突き立て、そこから振り上げて背中の甲殻をえぐった。更に切り裂いて紫の血を噴出させると――巨大な赤いサソリはその動きを止めた。『白いの』は宙返りして明雄のもとへと戻った。


「……すげぇ。ひとりであのデカブツを倒すなんて」

「驚いておる場合か? それにまだ奴は生きておる。一時的に動きを止めただけに過ぎん。明雄! 奴を倒したいのなら、力を得たいのなら……私と契約(ディール)しろ」


 冷静さを保ちながらも必死に『白いの』は明雄へと呼びかける。より険しくなった顔で「どういうことだ」と明雄は返す。


「気付いてないようで私は気付いておった。お主がエスパーで、しかもまだシェイドと契約を交わしていないことにな」

「うっ。そうだったか……君、鋭いな。だが『白いの』……契約するって事はまさか!」


「ああ、そうだ。私はお主に着いていく。言ったはずだぞ? 私はお主を信じてみたいと」


 ニッ、と『白いの』が口元を綻ばせた。両腕を一時的に元に戻すと『白いの』は右手を明雄へと差し出した。うしろでは唸り声を上げながらアンタレスが起き上がっていた。時間は無い。ここで彼女の手をとらなければ神田だけではなく――自分たちも危ない!


「私の手を取れ! 迷っている時間はない! 生きるか死ぬか……すべてはお主の手に委ねられている! さあ、どうする!」

「……わかった。俺は……君の手をとるッ! そしてともに戦うッ!!」


 明雄が叫び『白いの』の手をとった。薄緑色に光る魔方陣が現れ、白い光を放つと周囲には身も凍るような吹雪が吹き荒れ、更に赤と青の炎が爆発しながら激しく燃え上がっていた。これには巨大なサソリも圧倒され吹き飛ばされ転倒した。

 やがて激しい炎と凍てつく吹雪が収まり、光の中から現れたのは――右手に青い刻印が刻まれたシルバーグレイの長剣と、左手に龍頭を模した盾を携えた明雄の姿。その隣には本来の姿である白龍の姿となった『白いの』。この一人と一匹が立ち並ぶ姿は――まさしく圧巻。


「おおっ……力が、力が沸いてくるようだ。あたたかい……!」


 腕から力がモコモコと力が溢れ出る。そしてそれは剣へと伝わっていく。彼の強さと優しさ、そして正義の心があわさりひとつとなったのだ。誰にも止められはしない。止めることは出来ない――



「行くぞッ!」



 疾走し明雄は真正面から剣による斬撃を叩き込む。うめき声を上げるアンタレスに『白いの』が口から青い炎を吐き出し、燃やし尽くす。

 今度は灼熱の炎に包まれ悶えるアンタレスに『白いの』は容赦なく、輝くほど冷たい冷気を吐いて急激に冷やした。熱され冷まされたアンタレスの外殻にはヒビが入り――鉄壁の守りは今まさに崩れ落ちた。


「相手の守りは崩れた。今だ明雄! トドメを刺そうぞ!」

「ああ!」


 空高く跳躍し明雄は両手で剣を握り――それを豪快に振り下ろす。


「これで終わりだあああああああッ!!」


 明雄の必殺の一撃を前にアンタレスは一刀両断。そのまま大爆発を起こし灰燼に帰した。着地した明雄と『白いの』の背後では残り火が寂しく燃えていた。



「初戦にしては上々だったの、明雄」

「いいや、全部君のお陰だ。ありがとう」

「よしてくれ。照れるではないか……」


 戦いが終わったあと、明雄は微笑みながら『白いの』へ礼を告げた。『白いの』は照れ臭そうに頬を赤らめる。透き通るような白い肌とほのかに赤く染まる頬の組み合わせは――とても美しい。そのまま神田を寝かせていた場所へ歩いていき、明雄は「おーい、起きろ!」と神田へ声をかけた。すると神田はうめきながら目を覚まし上半身を起こした。


「あ、あれ? 明雄とそれから……知らないお嬢さんがいるな。どうなってんだ?」

「私か? 私は『白いの』と……そう呼ばれておる。このたび明雄のパートナーとなったものだ」

「『白いの』? つまりシロちゃんか……って、ぱっパートナー!? あの明雄のパートナーだって!?」


 『白いの』の口からそう聞いた瞬間神田は起き上がり、明雄と『白いの』の前で「やったなぁお前! いやぁ本当にオメデトウ! 念願かなったなーっ!! しかもこんなべっぴんさんだなんてうらやましいぜこのヤロウ!!」とハイテンションで騒ぎ立てた。「うるさいのぅ……」と少し、『白いの』は不満げに呟く。


 何はともあれ明雄はパートナーと契約を結び、正式にエスパーとなれた。とても名誉なことだ。だがそれは同時に――今後の彼の運命を決定付けることにもなった。容易には抜け出せない戦渦へと――彼は誘われたのだ。

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