Episode 14
「シーラ、目を閉じて。」
俺は声を落として、シーラに語りかける。
「剣の重さを感じてごらん。」
シーラがゆっくりと目を閉じる。
「この数ヶ月、レオと一緒に戦ってきたね。その間に傷ついたことも、負けそうになったこともあった。それでも、君はレオを手放さなかった。」
「……ええ。」
俺はゆっくりと言葉を重ねる。
「相手はステータスを半減させてくる。だけど、君のレオへの信頼までは削れない。」
「……。」
「君がレオを信じる気持ちは、誰にも、システムにだって、奪うことはできない。」
シーラの指が、剣の柄を強く握る。
「君の絶対的な想いが、強敵を打ち砕く刃になる。」
シーラの目が、ゆっくりと開かれる。
その瞳に、迷いは感じられない。
「さあ、来たぞ。」
フィールドの空気が震える。
「インヴァリードカザイだ。」
地面から巨大な影がせり上がり、討伐目標が姿を現す。
「見せてやれ、君とレオの絆を!」
シーラが地面を蹴った。
「いくわよ、レオォォォッ!!」
インヴァリードカザイの攻撃がシーラを襲う。
敵の能力はアイテム基本性能半減。
本来なら、まともに受けられるはずもない攻撃を、真正面から受ける。
クオリアポイントが急上昇した盾が、攻撃を弾き返す。
「はああああっ!」
剣が閃く。
一撃。
さらに一撃。
クオリアによる補正が、半減した基本性能を補うように攻撃力を押し上げていく。
「あと5秒……!」
残り時間は、もうほとんどない。
「いけるぞ、シーラ!」
シーラが大きく踏み込む。
「はあああああっ!!」
そして……。
渾身の一撃が、インヴァリードカザイを捉えた。
次の瞬間。
インヴァリードカザイは、光の粒子となって消滅した。
同時に、目の前にシステムウィンドウが表示される。
〓インヴァリードカザイ撃破。衆目と偏愛の展覧祭・第二部本選出場資格を獲得しました〓
「やったあああっ!」
シーラが両手を上げる。
俺も思わず笑って、彼女とハイタッチを交わした。
「やったな!」
「楽勝!」
無事に予選を突破したシーラと俺は、そのまま第一部の展示会場へ向かった。
シーラいわく、渾身の出来の盾を出展したその足で、俺たちは他の展示を見て回ることにする。
見渡す限りの展示台。
そこには、プレイヤーたちが自分の「好き」を詰め込んだアイテムが並んでいる。
「わあ、あの盾のデザインすごく良いね!」
シーラが目を輝かせる。
「このカラーリング、マネしたいかも。」
「こっちの剣も見てよ。」
俺が指差す。
「柄にリボンが付いてる。」
「可愛い!」
シーラが駆け寄っていく。
どのアイテムも、作り手のこだわりが詰まっている。
実用性を重視したもの。
見た目にこだわったもの。
中には、何のために作ったのか分からないものまである。
それでも、見ているだけで楽しい。
「みんなクオリアポイント高いね。」
シーラが嬉しそうに呟く。
「こういうの、見てるだけでワクワクする。」
これが、このゲームの面白さなのだろう。
誰かにとっての最高が、別の誰かにとっての最高とは限らない。
だからこそ、こうして並べて見ると面白い。
「おっ。」
俺はひとつの展示台の前で足を止めた。
「この装備、クオンタポイントが妙に跳ね上がってるな。」
重厚な装飾が施されたプレートメイル。
見るからに高そうな装備だ。
そして、制作者の名前には見覚えがあった。
〓狩野ライムP〓
「これ……シーラが吹っ飛ばした、あのインフルエンサーの鎧じゃない?」
「本当だ。」
シーラが苦笑する。
「イベントで遭遇したら気まずいね。」
俺たちはそんなことを話しながら、さらに会場の奥へ進んでいった。
そのときだった。
「……ん?」
ふと、足を止める。
さっきまでの賑やかな空気とは違う。
会場の片隅。
ひとつの展示台を中心に、プレイヤーたちが集まっている。
「なに、あれ……。」
シーラも気づいたらしい。
人だかりの向こうが、妙にざわついている。
「……行ってみよう。」
俺たちは人混みを抜ける。
そして、その正体を見た。
そこに展示されていたのは……。
武器でもない。
防具でもない。
アクセサリーですらない。
ただの、草だった。
フィールドの端にでも生えていそうな、何の変哲もない草。
そこには、イベント用のアイテム名が表示されている。
〓雑草【衆目と偏愛の展覧祭】〓
「……雑草?」
シーラが首を傾げる。
俺も思わず眉をひそめた。
本当にただの雑草にしか見えない。
『参加証明』を雑草とかけあわせたのだろうか。
「なんだこれ……。」
何気なくステータスを確認する。
そして……。
俺は言葉を失った。
〓HP全快/全ステータス+300%/弱体効果解除〓
「…………え?」
彼女がゆっくりと俺を見る。
「ちょっと……これ、ミルトンが作ったの?」
「いや、俺じゃない。」
俺は即答した。
俺は、自分自身に暗示をかけることができない。
だから、自分の認知を超えてクオリアを引き上げることはできない。
「じゃあ、誰が……。」
シーラが呟く。
俺はもう一度、雑草を見る。
そこで、ひとつの可能性が頭をよぎった。
「……自己暗示。」
「え?」
「もし、これを作った本人が……この雑草を、本気で最高の食べ物だと思っていたとしたら?」
シーラの表情が固まる。
「そんな……。」
「現実世界でも、雑草を心から美味いと思って食べられる。そういう奴がいるってことだ。」
俺は、展示台に表示された制作者名を見る。
〓エドモンド鬱猿〓
……これは、強敵の出現かもしれない。




