第八話:騎士の秘密
リゼッタとの秘密の暗躍の中、カインは、王宮の最奥にある封印された古文書館で、自らの血の呪いと魂の孤独の真実と対峙した。
冷たい燭台の光が、カインの白い髪を青白く照らす。リゼッタが広げた古い血統図の端に、「光の血族――白き異端、星辰の力を持つ古代王家の残滓」という、簡潔で恐ろしい記述があった。
彼の血は、不純な呪いではない。それは、結社が最も恐れ、歴史から抹消しようとした「真の純血」の証だった。
(俺は、彼らの使命のために、王家の血を断つ道具として生きてきた。そして、その使命は、俺自身の血統を滅ぼすための、周到な欺瞞だった……!)
彼の心臓は、久しく忘れていた激しい痛みを訴えた。それは、殺意でも憎悪でもなく、生まれてこの方、世界全体に裏切られてきた孤独が、一気に噴き出した魂の慟哭だった。彼は、自分の人生全体が、冷酷な陰謀のための精巧な人形であったことを知った。
カインは、無意識のうちに拳を握りしめた。彼の瞳は、もはや冷静な監視者の色ではない。煮えたぎる血の色、絶望的な裏切りの赤に染まっていた。
「……ッ、笑止だ」
その声は、掠れ、怒りに震えていた。長年押し殺してきた感情が、一瞬、その冷徹な仮面を打ち破る。彼は、古文書に手を伸ばし、それを破り捨てようとした。
その瞬間、リゼッタが彼の横に静かに立ち、カインの手首に、命を失った者だけが持つ冷たさを帯びた指を重ねた。
「あなただけではないわ、カイン。私も、王家の血を繋ぐ道具として殺された。私たちが異物であることは、この宮廷の嘘を暴く、唯一の真実よ」
リゼッタの冷静な声は、彼の感情の爆発を、奇跡的な静けさで包み込んだ。彼女は、彼の「裏切られた孤独」を理解し、否定しなかった。
リゼッタの存在は、カインにとって、自らを否定する世界との唯一の接点だった。
彼は、リゼッタの手首を握りしめ、その命の熱を確かめる。彼を殺されても再生する異質な力と、彼を道具として利用された異端の血。二つの呪いが、この瞬間、互いに「運命の共鳴」を見出した。
「リゼッタ……お前は、俺の血の呪いを知った。そして、俺がこの国で最も危険な真実であることを知った」
カインは、リゼッタの顔を深く見つめた。その眼差しには、孤独の痛みに満ちた切実な情熱が溢れていた。
「いいだろう。この血の呪いも、俺がお前を殺した罪も、全てお前と分かち合おう。俺は、もう誰の道具でもない。俺は、お前をこの世の義務から完全に解放するためだけに生きる。そして、お前は、孤独な俺を真実へと繋ぎ止める、唯一の鎖となれ」
カインの瞳には、孤独の淵から見つけ出した、歪んで切実な「愛」の誓いが焼き付いていた。
二人は、宮廷の光が届かぬ闇の中で、「罪と血」に結ばれた、永遠に逃れられない共依存の誓いを交わしたのだった。




