第二話:新婚初夜の真相
それは、宮廷の最も厳かで冷たい儀式だった。
豪華絢爛な寝室の空気は、祝福ではなく、凍り付いた期待と耐え難いほどの重圧で満たされていた。
国王アークライトは、リゼッタを愛しているのではなく、賢い王として「王妃という役割」をもつ彼女を愛していた。彼の口づけは、情熱ではなく、王家の義務を承認する印だった。
彼は結婚初夜という儀礼を終えると、「古の習わし」に従い、聖水を汲むために、静かに寝室を後にした。
その扉が閉じられた瞬間、リゼッタの心は、王妃の使命を果たす前の孤独な諦念に包まれた。
そして、その静寂は、死の予感を伴うものとなる。
カインは、闇そのものから生まれた。
いつ部屋に入ってきたのか、それとも潜んでいたのか検討もつかない。闇しかないはずの場所から生まれでたようにするりと姿を現した。
白銀の髪は月の光すら拒み、闇に浮かぶ血のような赤い瞳だけが、リゼッタの視線を強引に引き留めた。どこにいようともすぐわかる異質な騎士は音もなくそこに立つ。
彼の姿は、熱を帯びるはずの寝室で、最も冷たい美しさを放っていた。
彼は、一言も発しない。感情の機微を理解しない悪魔の執行者として、ただ「役割」を果たすためだけに存在していた。
その細くしなやかな腕に握られた研ぎ澄まされた短剣は、リゼッタが王の子を宿す「可能性」という未来を、根絶やしにするための道具だった。
ああ、私の命の価値は、ただ世継ぎを生む器、だったのか。
諦念が、恐怖を凌駕した。
短剣が閃光を放った瞬間、それは王妃の夜着を切り裂き、リゼッタの胸の中心、孤独な心臓を正確に貫いた。
焼け付くような痛みとともに熱い血が噴き出し、冷たい肌をしとどなく濡らす。傷口から血液とともに体中の熱が失われていき、意識が遠のいていく。ぼやけていく視界の中、リゼッタの目に焼き付いたのは、彼女をただ見つめ続ける白い騎士の無感動な赤い瞳だけだった。
「これで、王妃の義務から……解放される」
それは、リゼッタが最期に抱いた、激しくも哀しい願いだった。そして、その願いは、カインの手によって一度は叶えられることとなった。
そして。その直後に「死に戻り」という形で、裏切られることとなるのだ。
血に染まった夜が明ける。そして、殺した者がいる場所で、二度目の人生が始まるのだった。




