第11話「学校の朝ボトルネック:昇降口の“渋滞角”を丸めろ」
朝七時四十五分。横断歩道の白線がまだ眠たげで、昇降口前に**“人と自転車とクルマと傘”が混ぜご飯みたいに集まりはじめる。
斉藤に手を振ると、ランドセルが“ためらい戻り”**を二度やってから前へ出た。ここがボトルネックだ。
【第十一層:学校の朝ボトルネック(遅刻-60%)】
・現状:横断歩道前の滞留/昇降口で靴の“渋滞角”/自転車の列が歩行列に刺さる
・問題:人流・車流・自転車流の分離なし/“靴入れ→手洗い→教室”で逆流多/雨天プロファイル未定義
・目標:遅刻 -60%/横断歩道の待ち“二波”以内化/昇降口の滞在 -40%/自転車接触ヒヤリ -80%
・初回達成報酬:**「朝UIパック」**設計図、祖父メモの断片
まずは二河川方式+合流コーン。
河川A:歩行(子ども・保護者)、河川B:自転車。
横断歩道の手前10mから**“色の床”を敷く。歩行=緑の楕円、自転車=青の矢印。
矢印は点線にして速度を上げない抑制**。
保護者の車は**“キス&ゴー(30秒)”エリアを校門の“前ではなく後ろ”に設定。降車→即前進で車の“戻り刺し”**を封じる。
【初期観察】
・横断歩道の“ためらい戻り”:高
・自転車の“追い抜き斜行”:多
・昇降口前の“横広がり”:広
横断歩道は待ちの波形を整える。
旗振り役の立つ位置を歩道の“斜め前”へ50cm移す。
旗の角度は道路に対して45°。まっすぐ振ると車の脳が“直進OK”と誤解する。
押しボタンの手元に**“二波ルール”**を貼る。
〈二波で渡します/三波目になったら横断優先〉。
**ルールが“壁に書いてある”**と、**運転手の“イラつき角”が少し丸くなる。
停止線を白→黄色の“太いリム”**に暫定塗装(養生テープ+反射材)。遠くから“ここで止まる”が目に入る。
【中間ログA(20分)】
・横断歩道待ちの波:最大4波 → 2波
・“ためらい戻り”:-68%
・クラクション発生:2 → 0
自転車は**“のぼりの川/くだりの川”を分ける。
校門脇に“自転車ゲート”を2本**。入=左回り、出=右回り(時計の向き)。
曲がり角に半径ガイドを置く(パイロンの足元に白い半円)。急角は接触を呼ぶ。
自転車置き場は**“島”に分割し、島ごとに学年ピクト**。
出し入れ動作は島の外周で完結するよう、中央の“立入禁止楕円”を描く。
中に人が入る設計だと列が刺さる。
【中間ログB(30分)】
・自転車接触ヒヤリ:6 → 1
・駐輪→昇降口 到達時間:2分20秒 → 1分35秒(-32%)
昇降口は**“渋滞角”の温床。
靴箱の角に人が溜まる**。並列レーンで入って直角で止まるからだ。
“靴の川”に回転を与える。
床に**“回転ドーナツ”の矢印を描き、靴を替える→ドーナツを一周→手洗いの一方向を作る。
靴箱の列の最下段に“引き込み棚”(出し入れで前に出る10cm板**)を追加。前傾姿勢の肩がぶつからない。
靴袋は**“高い→低い”の斜めレール**に吊るす。上から取る人が下へ流れる。
時間のBPMを合わせる。
手洗い場の蛇口には**“20秒の泡の歌(70BPM×24拍)”を貼る。
掲示は歌詞でなく拍**。
泡のポスターは**“今並んでいる人数×拍”で待ち時間が算数になる**。
【中間ログC(45分)】
・昇降口滞在:平均2分40秒 → 1分35秒(-40%)
・肩ぶつかり:多 → 小
・手洗い“サボり率”:目視 高→中低(拍の可視化)
雨天プロファイルを定義する。
傘の墓場は入口横の大箱ではなく、“差し水路”(細長トレー)×列を外に。
差して戻るだけ。箱に突っ込む“手間の渋滞”を消す。
傘マークは学年ごとに色。帰りの混線が減る。
レインコートはギザギザのフックから**“広い横棒”へ。袖口が引っかからない。
床に“濡れOKレーン”(青)/“乾きレーン”(緑)**。
濡れた子は青の楕円で回転→タオル→緑へ合流。
【雨天テスト(小雨20分)】
・昇降口水溜まり:3か所 → 0
・傘の取り違え:4件 → 1件
・床スリップヒヤリ:3 → 0
教室前にも**“二段踏み”を輸出。
廊下の“足元灯”を床から25cmに配置、楕円光斑1.6mピッチ。
掲示物は目の高さではなく胸の高さ**。走る子の視界に入れない。
朝のプリント置き場は**“流す→ためる→渡す”の枠をテープで描く**。
山積みは渋滞角。角は丸める。
斉藤が目を輝かせる。「朝UIパック、つよい」
「強い。“遅刻の魔物”は角に住むから」
「先生たち、怒る時間減って笑ってた」
「怒りは“未定義”に発生するからね。定義=UI」
教員室側の導入もやる。
“朝の問い合わせ”をA6色カードに。
青=連絡(欠席・遅刻)/黄=申請(配布・貸出)/赤=注意/緑=提案(改善)。
窓口は2島。青黄/赤緑に分け、各島で“待ち1分超でベル”。
ベルがなったら“隣の島の予備手”が1件だけ救う。
救う人数を1にするのがコツ。“総動員”は島を壊す。
【教員室フロー(観察)】
・朝の窓口滞留:7分 → 2分台
・“連絡の聞き漏れ”:2件 → 0
・教員の“走り”:3回 → 1回
終点=始点の調整。
遅刻の統計を教室で“見えるUI”に。
「今週の“二波で渡れた回数”」を黒板右上にチョークで書く。
「昇降口の滞在ベスト(クラス平均)」をA4で掲示。
競争ではなく協調の拍を作る。
数字は拍。拍は行動を平らにする。
校長先生が腕組みしてから、ふっと腕を下ろした。
「朝が静かに速い。怒鳴り声の必要が、今日はなかった」
「速度=怒声じゃないですから」
「言葉の税金、また取りたくなる名言だ」
「ここは非課税で」
ベルが鳴る。教室のドアが閉まる。
横断歩道の白線は目を覚まして、道路の上に**“拍子”**を置いている。
祖父のメモをポケットで探すと、いつのまにかランドセルのサイドポケットに入っていた。斉藤の仕業だ。
〈“遅刻”は人の罪ではない。 町の“手順漏れ”だ。まず“手順”に謝らせろ。〉
昼、職員会議の端で**“朝UIパック”を紙に落とした。
色床テンプレ/回転ドーナツ/二波ルール/差し水路/自転車半径。
実装手順は“誰が・いつ・どこ(教室or昇降口or門)・何分で”。
週明けにA/Bをやって数字を取る。
家に持ち帰る剣は、今日も切らない**。角を丸め、道を通し、拍をそろえる。
【クリアログ】
・遅刻率:基準週 7.8% → 3.0%(-61%/試験日)
・横断歩道待ち:最大4波 → 2波/“ためらい戻り” -68%
・昇降口滞在:2分40秒 → 1分35秒(-40%)
・自転車接触ヒヤリ:-83%
・雨天:傘取り違え -75%/床スリップ 0
・先生の怒声:体感 激減
――今回の成果――
二河川方式(歩行=緑楕円/自転車=青点矢)/キス&ゴー(校門後)
横断歩道“二波ルール”/停止線リム/旗45°/待ちの可視化
昇降口“回転ドーナツ”/引き込み棚/靴袋斜レール/手洗い拍
雨天プロファイル(差し水路×列/濡れOK→乾き合流)
教員室A6色カード(青黄/赤緑 2島)/救済1件ルール
ドロップ:「朝UIパック」設計図、祖父メモ〈遅刻は手順の罪〉
次のクエスト候補:①商店街マップ再編(来街者+25%) ②裏庭アーカイブ(見えない設計図レイヤー2) ③路地の夜・拡張(自転車灯同期)
次回は**「商店街マップ再編」**へ。**来街者+25%を取りにいく。“歩きたくなる地図”**を、角を丸めた線で描こう。