第10話「コミュニティ回路:決める脳に“配線”を」
避難所訓練のあと、町内会の掲示板に紙が増えた。
「ベンチの色」「ゴミ集積所のフタ」「夏祭りの予算」「猫の通路」「魚屋前の貼り紙フォント」……議題は増える、時間は増えない。
今日は**“コミュニティ回路”**を敷く。意思決定速度+30%、取りにいく。
【第十層:コミュニティ回路(意思決定速度+30%)】
・現状:会議が長い/声が大きい人の“正しさ”が増える/宿題が宙に舞う
・問題:道筋が床に書かれていない/役割が曖昧/反対意見の“形”が未定義
・目標:決定までの時間 -30%/発言偏り(Gini) -25%/“決めたのに動かない” -70%
・初回達成報酬:**“意思決定UIキット”**設計図、祖父メモの断片
会場は集会所。長机をU字にすると、正面が王座になって音が硬くなる。今日は**“車座+島”でいく。
真ん中に小島テーブル×3**、周囲に丸椅子。動きながら話せる距離にする。
壁に**“流れ図”**を貼った。
〈3-12-3フレーム〉
3分:目的の再確認(名詞→動詞→名詞で)
12分:選択肢を出す→削る→決める
3分:誰が・いつまでに・どの形で報告(WHO/WHEN/HOW)
**“時間の形”**を先に見せると、空気が迷子にならない。
配布物はA6カード。
青=事実/黄色=提案/赤=懸念/緑=資源(人・物・場所)。
話す前に1分で書く。口より先に手が動くと、声量の差が薄まる。
カードには**“1行だけ”**。段落は議事録の敵だ。
「では、ベンチの色から」
司会は僕。ベルの代わりに70BPMのクリックを小さく流す。
「3分、目的。——“夜の路地の安心度を+18%維持しつつ、汚れ管理のコストを下げる”」
名詞→動詞→名詞。
青カードが島の中央に置かれる。「夜間の照度3000K」「雨染みが出やすい」。
黄色カードが増える。「濃いグレー」「モスグリーン」「木地+撥水」。
赤カードが刺さる。「ペンキ塗り直し頻度」「落書き」。
緑カードが寄ってくる。「松永さんの倉庫に撥水材」「学校の美術部」。
12分ゾーンに入る。
僕は**“反対の形”テンプレ**を壁に貼る。
〈反対の形〉
A. 理由(事実か推測かマーク)
B. 代替(ゼロよりマシ案)
C. 試験(小さく確かめる)
「反対は“否”でなく“設計”」を合言葉にする。
赤カードがA-B-Cの形に整列する。
「モスグリーンは落書きが目立つ(推測)→代替:木地+撥水→試験:1脚だけ2週間」。
「濃いグレーは熱吸収(事実)→代替:グレーに白点散らし→試験:赤外計測」。
削るフェーズで、“2つ残す”を選ぶ。
“ひとつに絞らない”のが、小さく早く動く秘訣。A/Bですぐ試す。
決める瞬間は“手上げ”ではなく、“点シール投票”。
大きな手は大きく見えるけれど、点は平等。
結果、木地+撥水と斑点グレーが5:4。
A/B2週間、観察係:斉藤(小学生)+松永(魚屋)、報告:写真+歩留まり感想。
WHO/WHEN/HOWが3分で埋まる。
“宿題の宙”が床に降りて、名前が付く。
【中間ログA】
・議題1(ベンチ色)決定時間:28分 → 16分(-43%)
・発言偏りGini:0.41 → 0.29(-29%)
・“終わったのに誰も動かない”予兆:0
続いて**「ゴミ集積所のフタ」。
ここは住民の“怒り角”が立ちやすい。
先に“怒りの見取り図”を出す。
「カラス」「風」「匂い」「誰がやる問題」——名詞4象限。
怒りは動詞で静まる。
カードが動詞を連れてくる。「留める」「重ねる」「洗う」「分けて言う」**。
**“誰がやる問題”**には、役割UI(R=決める/A=責任/C=相談/I=知らせる)を簡略化した「誰のR」「誰のA」を貼る。
R:自治会清掃班/A:班長(持ち回り)、C:環境課/I:全戸LINE。
RとAが同一人物にならないようにするのがコツ。倒れない配線だ。
【中間ログB】
・議題2 決定時間:35分 → 21分
・“R/A混線”指摘回数:3 → 0
・「結局誰が?」質問:0
“声が大きい問題”には、“くじの順番”を混ぜる。
紙コップに番号、引いた順に“1分発言”×2周。
発言は立って、相槌は座って。体の高さは空気の圧になる。
祖父のメモが内ポケットから出た。
〈会議は音楽。 同音連打は飽きる。弱音と休符で前が進む。〉
休符を意識して、5分に一度“無音30秒”。
沈黙は“考える権利”。
沈黙のあと、静かな発言が道を作る。
“決めないリスト”も作る。
今日触らないものに“触らない”と書く。
未決は敵じゃない、メンテナンス中だ。
「猫の通路」は観察が足りないので次週へ。
観察担当:斉藤(猫ウォッチャー)。
彼は胸を張る。「役がある」
議事録は書かない……と見せかけて**“カード写真+配線図”**で残す。
文章は最低限、図が主。
Slackもメーリングもないうちの町のために、掲示板に貼る“見える議事”。
“誰が・いつ・どう”だけ赤枠。
電話の人にも届くUIを、紙でやる。
松永さんが腕時計を見て目を丸くした。
「終わった。早い。いつも**“結局また来週”だったのに」
「『決めた瞬間に手が動く見た目』を作ったからです」
「見た目?」
「A6カードの“赤枠”が会場から出ていくのを見ると、脳が『動いた』と認識します。あとは70BPM**に体が乗る」
斉藤が結果ボードにシールを貼る。
“今日動く項目:5/保留:1/観察:2”。
数字は拍。みんなの肩が、1ミリ軽くなる。
【クリアログ】
・決定までの平均時間:-36%(3議題平均 31→20分)
・発言偏り(Gini):-27%
・“決めたのに動かない”案件:-80%(初週)
・満足度(5段階):3.1 → 4.0
・掲示板前の滞留:+40%(読まれている)
会の終わり、祖父のメモをカード箱の底から見つける。
〈“合意”は一枚板ではない。 竹の束にせよ。一本ずつしなると、全体で折れない。〉
竹の束。
A/Bで小さく動かし、反対の形で折れず、役割配線で流す。
コミュニティの脳に、配線が通った音がした。
帰路、路地の足元灯が今日も星座を刻み、避難所のS字はテープの残像でまだ床に見える。
家に戻れば、**押入れの“燕返し”**は静かに可動し、**玄関の“二段踏み”**は儀式のテンポを守る。
剣は切らない。角を丸め、道を通し、決めた手が動くように軽くする。
――今回の成果――
会議レイアウト:車座+島/3-12-3フレーム(目的→選択→実施)
A6色カード(青=事実/黄=提案/赤=懸念/緑=資源)
“反対の形”A-B-C(理由/代替/試験)/点シール投票
役割UI(R/A/C/I 簡略)/“決めないリスト”で未決の可視化
議事=カード写真+配線図(掲示板公開)/70BPMクリック
達成:意思決定時間 -36%/発言偏り -27%/未着手案件 -80%
ドロップ:“意思決定UIキット”設計図、祖父メモ〈竹の束〉
次のクエスト候補:①学校の朝ボトルネック(遅刻-60%) ②商店街マップ再編(来街者+25%) ③祖父の“見えない設計図”レイヤー2(裏庭アーカイブ)
次回は**「学校の朝ボトルネック」**に突入して、横断歩道前の渋滞と昇降口の混線をUIで分解しよう。遅刻-60%、現実にドロップ取りに行く。