優しい人
マリード国…ヒガン国…フリージア国…てっきりわたしは、ガーベラ国への嫌がらせはこの3つの国のうちの住民の誰かがやったものだと思い込んでた、でも今、それが違うことが分かった
自分達は被害者だといっている国…つまりこの国、ガーベラ国だ。
「(わたしは今気付いた…ということは、ソルももう気付いてるのかな…?)」
そもそも、仮に他国の仕業だったとして、わたしはこの国から出れない…ソルはあの時にはもう犯人が誰か知ってた…?
でもそれだとわたし…何のためにこんなことしてるの?わざわざ昼から日が暮れるまで情報集めをして……それなのに、ソルが解決しちゃったら意味ないんじゃ…
「(いや…もしかしたら……)」
試されてる…ってのもあるとは思うけど、これはソルとの競い合いなのでは?
どちらが先に犯人を捕まえられるか…そういうことなの?
もしわたしが犯人を捕まえれたら国には返さない…でも逆に、ソルが先に犯人を捕まえたら…
「うぅ〜…わかんない…本人に直接聞いても教えてくれないだろうし…」
もしも、ソルがもう犯人を捕まえてたとして…わたしは何のためにこの4日間動いてたのか……その場合は、王子さまの暇つぶしで遊ばれた…って思うことにしよう
「(とりあえず今日はもう寝よ…明日からはこの国のこと調べなきゃ!)」
わたしは頭の中で色々と考えてたせいか、布団の中に潜ってもすぐに寝ることは出来なかった。
✱ ✱ ✱
ガーベラ国に来て今日で5日目…わたしは自分の直感を信じて、今日からはソレイユさんと一緒にガーベラ国のことを調べることにした。
わたしの推測だけど、多分ソルは犯人がこの国にいることしか知らない… "誰が" やったかはまだハッキリしてないから、わたしにも手伝ってもらおうって考えてこんなこと…
「(あーいう人なら有り得そう…)」
まあ外見的に考えて、なんだけどね…
とにかく、ソレイユさんには昨日わたしが考えた推測のことも話してるし、早く犯人を見つけないと…!早く見つけないと、わたしが……
「エルノア様?」
突然ソレイユさんがそう言ってわたしの視界にぴょこっと入ってきて、わたしは驚いてだらしない声が出た。ソレイユさんはそんなわたしを見て少し目を細めた
「大丈夫ですか?凄く焦っているように見えますけど…」
あれ、そんなに顔に出てたのかな?
「大丈夫です、心配かけてごめんなさい。でも今はそれより、ガーベラ国に嫌がらせをしている犯人を見つけましょう」
「…分かりました」
それからとはいうもの、わたし達は住民の人達に不審に思われないように聞き込みをしてみた。だけど、誰も嫌がらせに関するガーベラ国の秘密の場所や怪しい噂の話は全くなかった。悪い噂なら聞いたけどそれはまた別のことだし…
「すみません、少々お時間頂いてもよろしいでしょうか?」
ソレイユさんはそう言うと、3人の男性が「ア"ァ?」と低い声を出し、こちらを睨んできた。この3人組の目つきを見てわたしは思わずビクッと体が震えた
「(怖い人達だな…)」
「ガーベラ国について、怪しい噂など一通りの少ない場所はご存知ですか?」
ソレイユさんがそう言うと、銀髪の髪をした男性が「何でそんなこと聞くだよ」と少し大きな声で言った。ソレイユさんはそれに全く動じず「この方はそういった話を聞くのが趣味なのです」と誤魔化した…正直すぐに嘘をついてる所はある意味凄いと思う。
ソレイユさんの話を聞いて、目付きの悪い男性が舌打ちをしてこう言った
「アンタら金はあんのか?」
「お、お金…?」
わたしは男性の突然の言葉に驚き、思わず声を出してしまった
「そうだよ金。金をくれるなら教えてやってもいいぜ?」
目付きの悪い男性がそう言うと、2人の男性がクスクスと笑った。なにやら良からぬことを考えていそうだ
「…何か知っていることがあるんですね?」
ソレイユさんが乗り気にそう言うと、3人組の男性はニヤニヤと笑いながら頷いた。
……この人達、怪しすぎる…
「ソレイユさん…この人達絶対お金目的ですよ…!渡す必要なんかありません!他の人に聞きましょう!」
わたしが小声でソレイユさんに囁くと、わたしの話が聞こえてたのか小さなかばんを背負っている男性が立ち上がり、わたしを見下してきた
「酷いなぁ嬢ちゃん…俺たち嘘はついてないんだ、聞いて損はないと思うが?」
「っ…わ、わたし達…お金…持ってないんです…だから…」
わたしがそう言うと、目付きの悪い男性がため息を着き、わたしを蹴り飛ばした
「エルノア様!!」
わたしが蹴り飛ばされ地面に尻をつくと、ソレイユさんは慌ててしゃがみ込み、わたしが怪我をしてないか確認された。けどわたしはそんなことにすら気がいかないくらい衝撃を受けていた
「(嘘…わたし、蹴り飛ばされた…?)」
市民に初めて暴力を振るわれたわたしにとって信じられないことだったせいか、初めて人に蹴り飛ばされる痛みを知って脳が一時停止する
「金がねぇから無条件で教えろとでも言いてぇのか!?ふざけんな!」
「メイドっぽい女が一緒にいるからどっかのお嬢様かと思ったが…ハズレだったな」
「俺たちそんなに優しくないんだわ〜、ごめんねぇ?」
わたしを蹴り飛ばした目付きの悪い男性がそう言うと、2人の男性も続いてわたしを見下してそう言った。どうしよう、なんて言えばいいんだろう?どう動けばいいんだろう?なんて言葉が何度も頭をよぎる
わたしがビクビクと体を震わせている…王族とは思えないみっともない姿を見て、3人組の男性はゲラゲラと嘲笑っている。初めてだ、こんなにも屈辱的な気持ちになったのは…
「(わたし…何してるんだろ…)」
わたしが下を向き続けていると、ずっと黙り込んでいたソレイユさんが立ち上がり、ソレイユさんの周りに強い風が生まれた、その光景を見て3人組の男性は先程のような見下してくるような表情は消え、目を丸くしてギョッとしたような表情に一転した。
「私の目の前でエルノア様への暴力…随分とまぁ勇気のあるお方達ですね。」
ソレイユさんの声はいつものどこかふわっと浮いているような優しい声はなくなっていて、怒っているような…低い声だった。ソレイユさんは1歩1歩3人組の男性に近づいて行き、最終的に壁まで追い込んだ。
「…皆さん随分と汗をかいてますね、暑いのでしょうか?なら…」
ソレイユさんがひょいっと指を回すと、3人組の男性の服が風魔法によって切り落とされてしまった。3人組の男性は「キャー」と女性のような悲鳴をあげ、服を手に持って去っていった。それをポカンとした顔で見てたわたしは「あの人達の方が薄着だと思うんだけど…」と思った
3人組の男性の姿が消えると、ソレイユさんはすぐにわたしに駆け寄ってきた。
「ご無事ですか?お怪我は…」
「だ、大丈夫です!助けてくれてありがとうございます」
わたしがそう言うと、ソレイユさんは珍しくポカンとした表情になった
「あれは、助けたと言うのでしょうか」
ソレイユさんの言葉に、今度はわたしがポカンとした表情になる
「だってソレイユさん、わたしのこと心配してくれたし…あの人達を追っ払ってくれたし……正直に言うと、ちょっとスッキリしました!」
わたしが少しぎこちなくニコッと笑うところを見て、ソレイユは口を半開きにしていた。
…え?わたし何か驚かせるようなこと言っちゃった…?
「…無意識でした、自分でも自分が何を考えてたのか分かりません。」
「そうなんですか?でも、ソレイユさんかっこよかったです!風を器用に扱えて…」
「あんなの常識のようなものです」
ソレイユさんがそう言うと、ソレイユさんはわたしから視線を逸らし、少し暗い顔になった…いや、いつもと同じく無表情のままではあるけど……さっきもそう、いつもと変わらない感じだったのに、何故か怒っているように思えて…今は拗ねているような…?
「…常識でも、わたしはあんな風にはできません。だからわたしからすれば凄いことなんです!」
わたしの言葉を聞いて、ソレイユさんは目を丸くしてゆっくりとわたしの顔を見た
「…そんなこと、初めて言われました…」
え、嘘!?か、風魔法って魔術の中でも結構難しいって聞いたんだけど…わたし失礼なこと言っちゃったのかな…?
「ご、ごめんなさい!ペラペラと話してしまって…」
わたしはそう言ってソレイユさんに向かってお辞儀をした。わたしが誤っている姿を見て、ソレイユさんはまた目を丸くした、けど今度はすぐに深呼吸して、いつもの表情に戻った
「何故エルノア様が頭を下げるのですか、わたしは怒ってませんよ」
わたしはソレイユさんの言葉にホッとして、ゆっくりと頭を上げた
「…こういう時、なんて言いましょうか……… "嬉しい" …そう言えばいいのでしょうか…」
少し迷ってるような、分かっていないような…そんな雰囲気をただ寄らせながらも、ソレイユさんは必死に言葉を口に出し、わたしはソレイユさんのこんな姿初めて見たのが嬉しかったのか、パァっと表情を明るくした
「わたしも、ソレイユさんの言葉を聞けて嬉しいです」
わたしがそう言うと、一瞬ソレイユさんの瞳に光が見えたような気がした…けど光はすぐに消えてしまい、少し明るくなっていたソレイユさんの表情もいつもの無表情に戻ってしまった
するとソレイユさんは少しの間をあけて再び話だし…「そろそろ帰りましょうか」と、話を逸らすかのように言った。わたしが「そうですね」と言って、ソレイユさんの横を通り過ぎると…ソレイユさんはいつもより少し大きな声でこう言った
「…エルノア様、何か欲しいものはありますか?」
わたしはソレイユさんの突然の質問に驚いて足を止め、何故?とソレイユさんに聞き返した
「最近、ずっと街中を歩いていたのに…何も買い物はしてなかったので。エルノア様は街中にある店を見て時々目を輝かせていました…だから、エルノア様の行きたい場所は行けませんが……せめて欲しいものでも買いませんか…という、私の勝手な提案です。エルノア様がお気に召さないのであれば…このまま王宮に帰ることも可能です。私のような者がこんなことを言ってしまい申し訳ありません」
ソレイユさんの話を聞いて、わたしは自分のことをそんなに見てくれてたのかと思ってちょっとだけ嬉しく感じたり…ソレイユさんに申し訳ないという気持ちが、同時に湧き上がってきた
「…ソレイユさんの提案は素晴らしいと思います、それにわたしよりも……ソレイユさんの方がずっと頑張ってたと思います。わざわざ毎日付き添ってくれて…本当に感謝しかないです、本当はわたしの方がソレイユさんに何か買ってあげたいんですけど……生憎今のわたしは一文無しなので…」
「お気になさらず、私はあなたよりも大人で…その上今はあなたの侍女であります。あなたのお世話をするのは私の役目です」
ソレイユさんの言葉を聞いて、何となくだけどソレイユさんの言いたいことはわかった。きっとソレイユさんはわたしに "もっと甘えていい" と言いたいんだろう、かなり遠回しに伝えようとしてきてるところは…なんだかソレイユさんらしいとも思える。
この後も、わたしは何度かさりげなく断ろうとしたが…ソレイユさんは引き下がることなく、それどころか…どんどん攻めてくるばかりだった。わたしはとうとう諦めて、素直にソレイユさんに甘えることにした
「じゃあ…この辺りでお菓子屋さんとか…ありますか…?」
「近くにはありますが…高級なものはあまり揃っていません」
「い、いえ!普通の!安いお菓子で大丈夫です!!」
ソレイユさんは少し戸惑っていたが、少しの間をあけて許可してくれた。
…わたしは昔から年上の人におねだりすることはあまりなかったから、少し照れくさいような…申し訳ないような…
その後、わたし達は近くの駄菓子屋に行き、ソレイユさんの奢りで1つのお菓子を買った。そのお菓子は少し変わった形のキャンディで…普通のキャンディより生地が丸かった。やはり国の文化が違うのだろうか…?
味も少し不安だったが、そのキャンディは予想以上に柔らかくて…それにしては歯ごたえもあった。絶妙な硬さに…口の中に広がる甘い味が、ほっぺを落とすように感じた
「ソレイユさん…!これ、凄くおいしいです!」
「エルノア様が満足して頂けたのなら良かったです。」
ソレイユさんは落ち着いた声でそう言ってるが、さっきからずっとこちらを見ている
「(ソレイユさんさんもこのお菓子が欲しいのかな?)」
わたしはそう思い、ちょっとしたことを閃いた。
そしてわたしは、残りが半分ほど残ったキャンディを、ソレイユさんの前に差し出した。
「ソレイユさんも食べませんか?」
わたしがそう言うと、ソレイユさんは目を丸くして驚いているようだった。ソレイユさんは申し訳なさそうに断ろうとしてたが、わたしはソレイユさんが我慢してると思って、半ば無理やりにキャンディを渡した。最初は戸惑っていたソレイユさんだが、そのうちキャンディを食べ始めた
「…美味しい、」
小声でそう呟き、ソレイユさんは次々とキャンディを口の中に運んで行った。ソレイユさんの表情は相変わらず…あまり変化はないが、凄く美味しそうに食べていることは伝わった。わたしはそんなソレイユさんを見て思わず笑みが零れる
わたしがソレイユさんの美味しそうにキャンディを食べる姿を見ていると、無意識のうちに口が勝手に動いてしまった
「…ソレイユさん、良ければお互い…敬語を外して話しませんか?」
わたしがそう言うと、ソレイユさんはまた目を丸くして驚いていた。よほど驚いたのか…キャンディを持っている手が少し緩くなっていて…今にもキャンディを落としそうだった
「いえ、しかし……私とあなたの立場上…そのようなことは…」
「それなら、こうして2人きりの時だけでも…そうしませんか?もし他の人にバレても…わたしの我儘だって言えば、きっと大丈夫です!」
わたしがニコッと笑顔を浮かべてそう言うと、ソレイユさんの瞳の中に光が見えた。次は一瞬ではなく…もっとハッキリと見えた。
「…私で…良ければ…」
ソレイユさんの声は少し震えていた。わたしは何故ソレイユさんがそんな声をしてるのか分からなかったけど……その時のソレイユさんはどこか嬉しそうに見えた気がする。
ここ数日間…ソレイユさんと過ごしてきて分かったことは、彼女は凄く優しい人で…静かで…口下手で…自分の感情を表に出さない人で…自分より相手を優先する…本当に、本当に優しい人だってこと
ソレイユさんといると…わたしも落ち着いて、なんだか楽しく感じる。ここ数日間わたしが頑張れたのは…きっとこの人もいたからだろう。




