情報集め
あれからというと、わたしはソルの望み…と見せかけているような試験のようなものに合格する為、ソルの部屋を出て、すぐに客間に戻った。客間に戻れば、わたしはすぐさま椅子に座り、机にノートと羽根のペンと黒いインクを用意した
「(日記でも書こうかな……あ、じゃなくて、1度整理しなきゃ)」
まず、この国…ガーベラ国は他国から嫌がらせを受けている、それも…後から聞いた話だと、3つの国から嫌がらせを受けているそうだ。
1つは、こうも病が有名な国… "マリード国" と言う。医者や僧侶が少なく…病も発生しやすい土地、どの季節でも死者が必ず出て、かなり貧しい国と有名。
2つは、戦で最も有名な国… "ヒガン国" と言う。何でも噂だと勝敗に厳しく、ヒガン国では騙された者が悪、騙した者が正義という…わたしにはよく分からないルールのようなものがある。
3つは、穏やかな国で、他国とも仲良くしようと努力をしている国… "フリージア国" と言う。ここはあまり悪い噂がない、あるとしても…どれも程度の低いものだし…その国はどの国よりも信頼できるそう……
「(うーん…ヒガン国は置いといて、マリード国とフリージア国が…他国にこんなことをするとはとてもだけど思えない…)」
所詮噂は噂…もしかしたら、この2つの国にも何か他にあるのかもしれない、けど今は関係ないし…後回しにしよう
「(王族がやってるとは思えないし…ただの平民が他国に嫌がらせをするなんて以ての外、だとしたら…何か影で動いている族か…この国に恨みを持っている貴族とか…?)」
いや、それ以前に…まず何が目的なのか、どうしてこの国に下らない嫌がらせをするのか…
「この2週間で調べないと…」
わたしが「うーん」と言いながら考えていると、いつの間にか後ろから声がした
「大変そうですね」
「わぁ!?」
わたしはびっくりしすぎて椅子から落ちてしまった。
「いたた……え?ソレイユ…さん?い、いつから…」
「ずっといましたが」
わたしはソレイユさんの言葉を聞いて思わずギョッとする
「(え、嘘!?ま、まさかわたし…集中しすぎてソレイユさんが見えてなかったの…?何だか恥ずかしい…)」
わたしは申し訳なさそうに「すみません」と小さく呟き、ぺこりと頭を下げたが、ソレイユさんは表情1つ変えずに許してくれた
この人もこの人で、色々変わってる人なのかな…
「…あの、ソレイユさん、少しお聞きしたいんですけど…マリード国とヒガン国とフリージア国について教えてくれませんか?」
「構いませんが、私よりも他の方のほうが詳しい方も多いと思います。私はあくまでメイドなので」
「いえ、情報は少ないよりも多い方がいいです。だからソレイユさんの話も聞きたいんです!」
わたしが押しかけるようにグイグイと攻めると、ソレイユさんはため息をついて「わかりました」と言ってくれた。わたしは目を輝かせながら、机に置いてあったノートと羽根のペンを手に持った
「…私の知っている限りでは、マリード国は他国と違って…あまり強い権力は持っていません。それどころか…今では王族や貴族すらも、色んな医者の方や旅人に助けて欲しいと縋っているそうです。」
なるほど…マリード国は戦に行くにも凄く弱い国といわれてるし、臆病者や貧弱者が多いんだろうな…特に病弱な人…
「次にヒガン国は、噂通りの国です。私も1度お邪魔したことがあります」
「え、そ、そうなんですか!?」
わたしが声を上げてそう言うと、ソレイユさんはこくりと頷いた
「民も貴族も王族も…みんな権力にのまれてましたね。暗い場所や一通りの少ない場ではよく人が倒れてました。簡単にまとめて言うならば、色んなものに執着しすぎてる人がたくさんいる国です」
聞くだけで伝わってくるヒガン国の恐ろしさ…本当にヒガン国の王族は何をしてるんだろう…何だか呆れてしまう、
「そして最後に、フリージア国は私もあまり深くは知りませんが……個人的な考えで言いますと、あの国は何か闇を隠している気がします。裏で動く者と表で動く者で分かれているような……まあこれはあくまで私の個人的な考えなので、あまり深く考えなくても大丈夫です」
フリージア国は1番信頼されてる国だって有名だけど、そう言われると確かに…そんな都合のいい国があるなんてちょっと信じ難い…
「(一応ソレイユさんの話してくれたことはある程度メモしたけど…やっぱり情報集めに行かないとだなぁ…)」
「ありがとうございました、ソレイユさんの情報凄く助かります!では、他の方にも聞いてきます!」
「お待ちくださいエルノア様、今日はもうお休みになってください、私にとってはあなたの体調の方が大事なのです。そういうことですので、明日は私も同行します。あなた一人で行かせる訳には行きません」
わたしはソレイユさんの発言に少し驚いた、本来この人はわたしの世話をする必要なんてないのに、突然子供の世話を押し付けられて…わたしのこと嫌ってないのかな…?邪魔とか思ってたらわざわざこんなこと言わないだろうし…
「…分かりました、じゃあ…明日の昼から、情報を集めに行きましょう」
一緒に来てもらえれば少し安心できる、明日はソレイユさんにも手伝ってもらおう。
✱ ✱ ✱
その後、わたし達は街に出て、色んな人にマリード国やヒガン国やフリージア国のことを聞いてみた。
まずは商売人の男性にマリード国のことを教えてもらった。
「マリード国は俺の実家さ、あそこは本当に酷くてな…俺も危うく死ぬところだった、でもあそこは俺の故郷がある国だし、たまに恋しく感じることはある……けどやっぱり、何年経ってもあの国の状況は変わらないみたいで、きっと将来、戦争が起きなくてもあの国は滅ぶだろうな…」
商売人の人の話からするに、きっとマリード国は今かなり危険な状態で、自分達のことに精一杯…
「(…他の人にも聞いてみよう)」
✱ ✱ ✱
次は、一般人の女性にヒガン国のことを教えてもらった。
「ヒガン国ねぇ……私の弟がいる場所なんですけど、あの国に行ってから少し…いや大分、人が変わっちゃって…パッと見あんまり雰囲気は変わってないんですけど、欲望にまみれてるというか…とにかくあの国は危険だと思ってます、もしあの国に行くなら気をつけてくださいね」
「優しいおねえさんだなぁ」と思いながら、女性に情報集めに協力してもらったことにお礼をした。
多分ヒガン国は噂通りの国なんだろうな、戦でも強いらしいし…あんまり敵に回したくないなぁ〜…
「(他の人にも聞いてみよう…)」
✱ ✱ ✱
次は、王宮の門番の人にフリージア国のことを教えてもらった。
「フリージア国かぁ……あそこは国としても立派だと思うし、観光地が沢山あって有名だよなぁ…俺も休暇の日はたまに行ったりするんだが、別にそこまで危ない国じゃないと思うな、あぁでも…フリージア国の怪しい噂なら知ってるぞ!」
「その噂とは、どんなものなんですか?」
突然そう言って、ソレイユさんが横入りしてくるように会話に入ってきた
「あぁ、聞いた話だと…フリージア国の夜になると、謎の仮面族達が現れて、みんな同じ方向に向かってどこかに行くらしい…けどソイツら、1度目を離せばすぐにいなくなったりするらしいんだよ…だからその仮面族の正体はハッキリ分かってない……ってまぁ、こんなの所詮噂だけどな!」
あははと笑う門番さんの話に、わたしは少し怖くなってきた。こういう話はあまり得意ではない…
「…エルノア様、体調が優れないのですか?」
「い、いえ…そういう訳では……と、とにかくご協力ありがとうございました!」
わたしはそう言ってソレイユさんを連れてその場を離れた、一先ず一通りの少ない場所に来て、一度ソレイユさんと今わたし達の持っている情報を整理することにした
「…ソレイユさん、わたし思うんですけど…本当にガーベラ国への嫌がらせは、この3つの国の人達がやったことなのでしょうか?」
「それは私にも分かりません。1つの国をはめようと2つの国の一部の連中が協力してる可能性はとても低いですが……1つの国が他の国をはめようとしている可能性は大いにあると思います。」
「でも、ソル様はマリード国とヒガン国とフリージア国の誰かがやったという証拠を見つけてて…この中の誰かが、他の国をはめようとしてるなら、何故自分達がやっているなどと証拠を残すのでしょうか?それに、もし嫌がらせをしている人達がもう既に他国へ逃げ込んでいたら…わたしにはどうにもできないのでは…?」
「…私はそれらの質問には答えることはできません。それに、質問を質問で返してしまうようで申し訳ないのですが、もう日が暮れてしまいます、今日は1度お休みになられては?」
もうそんな時間帯だったの…?街の人に話しかけてるだけでまさかこんなに時間が経つなんて…でも確かに、自分でも今日だけで何人に話しかけたか覚えてない…何だかソレイユさんには悪い気がする…
「……そう、ですね…ごめんなさい、心配かけて……今日はもう休みます」
わたしが少し表情を暗くすると、ソレイユさんはわたしと視線を合わせることが出来る程度まてしゃがみ込んだ
「謝らないでください、あなたは悪いことをしたわけではありませんよ」
その時のソレイユさんの表情は、いつもの硬い表情が、少し緩んでいるように見えてわたしは少し驚いた。それに…
「(謝らないでって…言われたのいつぶりだろうな…)」
✱ ✱ ✱
その後も、わたしはソレイユさんと共に街中の人に話を聞いたが、結局…どこの誰が今回の嫌がらせをしているのかは分からなかった。
「それでは、今日もお疲れ様でした。また明日」
ソレイユさんはそう言ってお辞儀をしてから部屋を出ていった。わたしは部屋に1人っきりになると、ベッドから起き上がり、椅子を引いて、机にノートと羽根のペンを置いた
「(もうここに来てから4日か…早いなぁ)」
ソルに言われた期限の1週間まで、残り3日…今のところガーベラ国への嫌がらせについては何も分からない…けど、容疑者である3つの国のことは大分わかってきた
まずマリード国…あそこは生活環境が酷いせいで食べ物や水が充分に補充できてない、そのせいで他国に助けを何度も求めたけど…助ける側としてのメリットは少ないし、そもそもマリード国はあってもなくてもいいと思われてる…
「(マリード国の環境の乱れは、間違いなくマリード国の人が問題。それを他国にぶつけるのは少し違う気もする…)」
マリード国とガーベラ国の距離は近い、けど病弱な人や体力のない人や勇気のない人はとてもだけど来れるとは思えない
「(一先ずマリード国は置いとこう…)」
次にヒガン国、あの国は勝敗が全て。生活費も…食べ物も…とにかく、その国では何でも賭け事にされる、一歩間違えたら命取りにもなる……貴族や王族はすぐに勝負をしようとする人達じゃないらしいけど…民はそうでもないみたい、ヒガン国の王様が言ってたことらしいけど、王様は「みんな生きるために戦っている、戦わずして何が得られる」って…たくさんの人に圧をかけてきては、このルールのようなものを守っているらしい…
「(ここの王様なんだかいかつそう…)」
それに噂だと、ヒガン国の住民は勝敗に厳しいけど、ずるい勝負は嫌いな人が多いらしい。正々堂々と勝負したいと思う人がヒガン国には多いって聞いたけど……中にはそれと真逆の意見を持っている人もいるとか…
「(運悪くそんな人達がやってる…って可能性もあるけど、ずるい勝負を好んでる人なら頭いい人そう…そんな人が簡単にボロを出すのかな?)」
ヒガンも一先ず置いておこう……次にフリージア国、この3日間ずっと聞き込みをしてたおかげか、ちょっと怪しい情報を聞いた。確かこれを話してくれたのは…おばあさんだったかな…
「あんた…この国を出るつもりかい?」
突然、おばあさんの雰囲気が変わり、わたしは何故か冷や汗をかいた
「いえ…そういう訳では…」
出たらソルに何をされるやら…
「そうかい…ならいいのよ、でも…フリージア国に行くのだけはやめときな、あんたみたいな可愛い子…すぐに誘拐されちゃうよ」
「誘拐…?誘拐ってどういう事ですかおばあさん!!」
わたしは "誘拐" という言葉を聞いて、一気におばあさんに距離を詰めた
「…あの国は闇が深いのよ、これはあくまで噂だけど念の為覚えておいてね。フリージア国では…夜になると謎の集まりが出来るらしいの、そこにフリージア国の貴族や他国の貴族…ましてや王族まで行くことがあるらしいわ、平民の人はとてもだけど入れない…そんな場所があるって噂があるのよ」
わたしはこの話と似たものを聞いたことがあった、確か王宮の門番の人が話してくれて、フリージア国の怪しい仮面族達の噂を教えてくれた。
わたしはおばあさんと門番の人が話してた話が凄く気になる、フリージア国の裏側を見てみたい…けど、今は多分あんまり関係ない気がする、ソルさんが話してくれた嫌がらせの主な特徴は…物を盗まれたり住民への無差別な暴力、最後にソルの良くない噂を広めてること……フリージア国の噂とは、あんまり関係なさそうに感じる、この前確認したけど、誘拐されそうになった被害届けもなかったし…
「(分からない…本当にこの嫌がらせは他国の人のやってることなの…?)」
もう残り時間は短いってのに…どうして…!
「(落ち着けわたし、国に返されるのだけは絶対に避けないといけない。絶対に何とかして犯人を見つけないと…!)」
マリード国、ヒガン国、フリージア国…容疑者はこの3つの国の住民…だけどどの噂も、ガーベラ国への嫌がらせとはあんまり関係ない気が…そういえばもう1つ分からないことがあったっけ、なんでみんないつも騒ぎを起こす度にわざわざ自分達がやったって分かるような物を落としていくんだろう…?
「(…あれ……)」
もしかしてわたし、とんでもないところを見落としてたんじゃ…?
わたしはこの4日間の出来事を思い出せるだけ思い出して頭の中で整理した
「やっぱり…はぁ、自分でもこんなことに気付かなかったなんて…まだまだ勉強不足なのかな…」
容疑者はまだ他にいた。マリード国の住民でもヒガン国の住民でもフリージア国の住民でもない…
「(この国の住民だ。)」
最後まで読んでいただきありがとうございます、今回はいつもより長く書いたので色々おかしい所があるかもしれません。なので誤字や「ここおかしい」という意見があれば教えてください、感想も是非教えて下さると嬉しいです