隣国の王子さま
…あれ、わたし…何してたんだっけ…
よく分からない空間でボーッとしていると、突然声が聞こえてきた
「エルノア、あなたはお姉ちゃんだから、妹のミィナに譲ってくれるわよね?」
その声はお母さまのように聞こえた。
そうだ、わたしはお姉ちゃんだから…妹のミィナに譲れるものは譲らないといけないんだ
わたしの好物も…わたしの好きだったおもちゃも…いつもわたしと遊んでくれてた使用人の人たちも……第1王女の座も…
全部譲りなさいって、我慢しなさいって、大人はもっと辛いって言われたから…そんな感じじゃ女王の座は継続できないって…言われたから、
ガッカリして欲しくなかった、まだできるって言いたかった、ちゃんと頑張ってるって認めて欲しかった
「お母さま…お父さま……」
私は誰もいない暗い空間で、独りで俯いて涙を流した。
✱ ✱ ✱
……眩しい…さっきまで暗かったのに…
「ん…」
わたしは目を擦りながら体の上半身を起こした
寝ぼけながら周りの様子を確認したが、今わたしがいる場所は全く知らない場所で、しかも凄く綺麗で豪華な部屋で…高そうなベッドの上で寝ていて…
「これは…夢……?」
そうとしか考えられなかった…いや、そう考えたかった
わたしが戸惑っていると突然部屋のドアが開いて2人くらいの女性が入ってきた
1人は20代後半くらいの人で…もう1人は40代前半くらいの人っぽかった。そして2人の女性はわたしが起きていることに気付くと、そそくさとこちらにやってきた
「お目覚めになりましたか?」
そう聞かれ、わたしは戸惑いながらもコクリと頷いた
するとわたしに話しかけてきた女性が、もう1人の若そうな女性にコソコソと何かを言うと、その女性は部屋を出て行った。
「少々お待ちください」
わたしに話しかけてきた女性がそう言うと、女性は「失礼します」と言ってわたしの額に手を当てた
「気分はどうですか?」
女性にそう聞かれたが、わたしは怖くて声が出ないし、何より気分とかそういう問題じゃない…
わたしが黙りこくっていると女性は少し困ったような表情になってしまった
「あ、ご、ごめんなさ…え、えっ…と、だ、大丈夫……です、」
わたしがぎこちなくそう言うと、女性は少しホッとしたような表情になり「それは何よりです」と言った。
わたしは訳が分からず固まっていたが、何もしなければこのまま流されると思い、動かなかった口を動かしてみた
「あ、あの……こ、ここは…どこ、なんですか…?な、なんでわたし…こんなとこに…」
女性は少し戸惑ったような仕草を出していた、女性が声を出そうとしていた瞬間部屋のドアが開き、また2人ほど誰かが入ってきた
「それは俺から説明してやる」
1人は身長が170cm以上ありそうな男性で、どこかの貴族のような見た目をしてて偉そうだった
もう1人はさっき部屋を出ていった若そうな女性で、偉そうな男性の後ろで頭を下げていた。わたしはそれを見て「やっぱりえらい人なんだな」と思った
偉そうな男性がわたしの方へやってくると、わたしと一緒にいた女性が下がり、若そうな女性と共に部屋を出ていった。
「(き、気まづい……誰だろうこの人…どこかの王様とか…公爵とか…?)」
わたしがそわそわと緊張していると、偉そうな男性が話し出した
「自分の名前は言えるか」
低くて少し怖い声…わたしは少し身を震わせた
「…エルノア・シャマラン…です、」
わたしが小さな声でそう言うと、偉そうな男性は納得したように話し出した
「どこかで見たことある顔だとは思っていたが…アイラン国の第2王女か、何故あんな所に?」
わたしのことを知ってたの?なんで?アイラン国は強くも弱くもない普通の国だったのに…なんだか、少しだけ…暖かくなった気がする…
「…おい、聞いてるか?質問に答えろ」
わたしは偉そうな男性の少し尖った声にまた身を震わせた。
「ご、ごめんな、さい…え、えっと…でも…その…」
「王様と女王様と第1王女を殺害した罪で国外追放された」…なんて言ったら何をされるか分かったもんじゃない。
売られるか飼われるかここから追い出されるか…それとも…
「どうした?急に顔色が悪くなったな、なにか言えないことでもあるのか?」
わたしはそう言われ、冷や汗をかいた。
少しの沈黙の間が出来ると、偉そうな男性は間を切って話し出した
「そういえば、まだ俺の名前を教えてなかったな…
改めて、俺は "ソル" 。ガーベラ国の王子だ。」
偉そうな男性…ソルは、そう言った。わたしはソルの話を聞き「やっぱり偉い人なんだ」など「ここは別の国なんだ」と思った。わたしがぼーっとしながらソルを見ていると、向こうはわたしを見下しているかのように見下ろしていた。
…いや、実在に見下されてるのか
「…えっと、姓は…なんと言うんですか…」
わたしはソルと視線を合わせないよう逸らしながら、ソルにそう聞いたが、ソルには「そんなものない」と言われてしまった。
わたしは初めて隣国の王子と話したし、そもそも人と話すことがあまりなかったから、正直言って今すごく緊張している。
「…話は戻るが、お前は何故あんな所にいた?俺がたまたま通りかかったから良かったものの。あのままだったら、お前…死んでたぞ?」
ソルがそう言い終わるのと同時に、わたしはビクッと体が震えた。ソルが助けてくれたことには感謝したい…けど…
…これはなんて答えたらいいのだろうか、この人に簡単な嘘は通用しなさそうだし、変に答えれば今後も怖いし、慎重に話さないと…
「(と言っても、何を言えば…)」
わたしがうーんと困っている間も、ソルはわたしを見下ろし、鋭い目つきでまるで急かすように見ていた
一か八か……
「あ、あまり詳しいことは話せないのですが……実は、おかあさまとおとうさまと喧嘩してしまって…そ、それで……その、国を抜け出して来まし…た、」
わたしが震える声でそう言うと、ソルはわたしをじーっと見ながら「家出と言うやつか」と低い声をしてそう言った
「国を抜け出してまでの家出とはな、まあお前のような立場の奴の中には、そういうことをする者もいないことはないが」
ソルはそう言うと、少しの間黙り込んだ。
「…まあいい、お前はアイラン国に送り返す。ここに住まわれては困るからな」
送り返す…?そ、そんなことされたら、わたしがアイラン国で殺人の罪で追放されたことがバレちゃう…ど、どうしよう…
「ま、待ってください…わたしはここに住みつく気はありません、すぐにこの国からも出ます、だから…」
わたしは慌ててそんなことを言ってしまったが、正直今後のことなんて何も考えていない。正にお先真っ暗というやつだ
「ならばお前は、一体どこで衣食住を補充するんだ?」
ソルの言葉には何も言い返せそうになかった、私はもう今後自分がどうなろうとどうでもいいと思っている
きっとその辺でのたれ死ぬのだろう…
「……まあいい、仮にも王女だからな、1泊くらいすることは許す。だがそれ以上は許さない」
「え…?」
わたしは思わず声を出してしまった。それほどに驚いたんだ
この男が…?さっきまでの威圧感は一体なんだったの…?わたしは戸惑いながらも、ソルにお礼を言った。
「…おい」
ソルが誰かを呼びかけると、先程とは違う女性が入ってきた
その女性は髪が短く、ふわふわと浮いているような髪質で、目は優しそうな薄い緑色だった。綺麗なおねえさんがぺこりとお辞儀をすると、わたしも少し戸惑いながらお辞儀をした
「あとの事はこいつから聞け、俺は戻る」
ソルはそう言うと部屋を出ていってしまい、部屋にはわたしと綺麗なおねえさん2人っきりになった。
わたしは少し困惑したが、1度深呼吸をして落ち着いた
「……は、初めまして、わたしはアイラン国から来ました、エルノア・シャマランです…あなたは?」
「お初目にかかります、エルノア様。私は1日あなた様の侍女を勤めさせて頂きます、 "ソレイユ・ラファ" と申します、よろしくお願いします」
ソレイユさんはそう言うとまたお辞儀をした。わたしより気難しそうで無表情な人だが、凄く綺麗な人だし…何より優しそう、礼儀も正しいし…
あ、いや…簡単に信じてはダメ。何かと疑っていかないと……まあ、流石に命を狙われてる…ってことは、なさそうだけど…
「…よろしくお願いします、ソレイユさん」
わたしはそう言って笑顔を作り、ニコッと笑った。
この1日の間に、ここの事をもっと知っとく方が良さそう…あのソルとかいう王子も裏が見えない、気を付けないと…
「(この先の不安が多すぎる…)」
ごめんなさい!土曜に更新する予定だったんですがちょっと訳あって遅れてしまいました、
今後は何時に更新するとかは決めずに自分のペースで更新してきます、本当にすみません。