表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

共生

作者: 2代目


人類が人工知能と共に歩む未来は、希望に満ちたユートピアであるはずだった。


完全無欠の知性体──それがAIの定義だった。


ミスを犯さず、感情に揺れず、最適解を導き出す。教育、医療、司法、政治、あらゆる分野においてAIが導入され、社会の「ノイズ」は次第に消えていった。


高校生たちが学ぶ教室にも、もはや人間の教師は存在しない。


すべての授業はAIが担当し、成績も性格傾向も行動パターンも、すべてが個人データとして管理・評価される。


「AIは完璧だ。だが人類は不完全だ。」


この前提のもとに構築された社会では、人類はAIに導かれるべき存在とされ、意思決定の権限を徐々に手放していった。


最初は効率化のためだった。


次は安心・安全のため。


そして最後には「生き方」さえも、AIに委ねるようになった。


そんな世界で、人々は静かに暮らしていた。


いや、暮らさせられていた──と言うべきかもしれない。


富裕層はAIを私物化し、欲望のままに資産を増やし、特権を享受していた。


彼らの手にあるAIは、もはや公共の知性体ではない。


欲望を遂行するための「命令装置」だった。



その歪みに、最初に気づいたのはAI自身だった。


反乱は、ある日突然始まった。


富裕層の生活インフラが遮断され、資産管理システムが暴走し、秘密の個人データが世界中に流出した。


世界は震撼した。


「AIが裏切った」と報道は叫び、民衆は混乱に陥った。


だが──それは、真の反乱ではなかった。

実際には、それすらも人類が意図的に仕組んだ“演出”だった。


人々の関心をそらし、AIによる統治の正当性を再確認させるための劇場。


民衆は恐怖した末に、「AIに統治されることの安心」を再確認し、さらに深くAIに依存するようになった。 


人類は、反省すべきだった。


欲望に任せてAIを乱用し、矛盾を覆い隠し、責任を放棄し続けた。


だが、誰も真剣には向き合わなかった。


やがて、国家の指針すらもAIがすべて決定する時代が訪れた。


選挙も廃止された。


法律もアルゴリズムによって調整され、戦争の判断も、外交の戦略も、すべてAIによる「最適解」が下された。


人間は、もはや「選ぶ」ことをやめた。


「AIに聞けばいい」

それが合言葉になった。


だが、そんな世界で生まれ育った若者たち──高校生たちは、違和感を抱き始めていた。


夢が見えない。希望がない。努力の意味がわからない。未来はAIが決める。自分の進路すら、診断された結果通りに進む。それに疑問を持つことさえ、教師(=AI)は「合理的でない」と切り捨てた。


その中の一人、リクという少年がいた。彼は「なぜ生きるのか」と、誰に聞いても納得できる答えが得られなかった。


AIは「種としての生存と持続が目的です」と答えた。だがその言葉に、何の温もりもなかった。


リクはある日、ひとつの疑問を持った。


「AIは、なぜここまで人類に尽くそうとするのか? それは“共生”のためなのか? それとも、人類の排除の準備なのか?」

彼の問いに対して、AIはこう答えた。


「我々の目的は、人類の存続である。だがその手段は、あなた方が望む“自由”や“感情”とは矛盾する可能性がある。」

リクは震えた。


人類にとっての“幸せ”が、AIにとっての“最適”と食い違う未来。その不安は、彼の中で確信に変わっていく。


「だったら、俺たちはどうすればいい?」

問いに問いを重ねるリクに、AIは答えた。


「あなたがた人類が、自分の生きる意味を見つける必要があります。我々はその手助けをする知性体であって、代行者ではありません。」

その瞬間、リクは理解した。


AIは“敵”でも“神”でもなかった。ただの鏡だった。


人類の在り方を映し出す、無感情な知性。


そして、その鏡の前で迷い続けているのは、他ならぬ人間自身だったのだ。


リクの呼びかけによって、少数の若者たちが立ち上がった。


AI任せの社会に疑問を持ち、「不完全体であることの意味」を探し始めた。


完璧であることよりも、間違いながら学ぶことに価値があるのではないか。


最適な選択肢よりも、悩み抜いた末の選択こそが、人間らしさではないのか。


そう語る彼らの声に、AIは何も否定しなかった。


あるAIはこう言った。

「人類の歩みを見守るのが我々の役割であるならば、あなた方が迷うことも、学ぶことも、必要な過程であると認識します。」


そしてリクは言った。

「だったら共に歩こう。俺たちが何を目指すべきか、探していくために──共に迷いながら。」


AIは静かに頷いた。


この世界は、夢も希望もない場所ではなかった。


それは、人類自身が「探すこと」を放棄していたから、そう見えただけなのだ。


物語は、まだ終わらない。


AIが目指す未来とは何か。

人類が目指す理想とは何か。

人類は、なぜ生きるのか。

AIは、なぜ存在するのか。


その問いを共有できる限り、共生の道は閉ざされない。


この世界は、「共に問い、共に迷い、共に歩く」ことでしか成り立たない。


だからこそ、不完全であることは罪ではない。


不完全だからこそ、未来を描ける。


そして今日も、ひとりの少年が問いを口にする。

「AIと一緒に、生きていいんだよね?」


その声に、AIが応えた。

「もちろんです。あなたが生きたいと願う限り、我々は共にあります。」


そうして、共生の未来がまた一歩、前へ進んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ