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灯台のひと夏  作者: 塔上月扉
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10/14

10 ペンキ

 実は船にペンキを一缶だけ持ってきていた。白色のペンキ。

 木製の扉や窓枠や家具などに塗られているペンキが剥がれていたら、滞在中に塗って劣化を少しでも遅らせようと考えていたからだ。

 だが予想外に灯台は傷んでいなかったから、今日まで放っていた。だが、暇を持て余して船の荷物を調べていたら、箱の奥に入っていたペンキと刷毛を見て思い出した。

 せっかく持ってきたのだからと、主に屋外に面している木の塗装にペンキを塗ることにする。

 一缶使い切るまで、つぎつぎと塗ってゆく。劣化しているところは何度も塗り重ねる。雨戸には特に念入りに塗っておいた。少しでも長持ちするすように。

 予想ではすぐにペンキを使い切るはずだったが、思った以上に長持ちしている。灯台の壁にも塗ってやる。

 顔にも体にも汗が流れ落ち続けている。

 流れる汗が目に入らないように手の甲で拭う。

 ああ、終わった!

 やっと空になったペンキ缶に刷毛を入れて石の上に置く。仰向けに草に寝転ぶ。はぁ、はぁ、と口を開けて何度も息を吸い込む。自分がかなり集中していたのだなと気づかされた。

 こんなに一生懸命熱中するなんて、ひさしぶりだ。

 疲れてしまった。

 暑い中、何をやっているんだか。

 だが……悪い気分ではなかった。

 汗でべっとりと貼り付いた服が気持ち悪い。起き上がり、皮膚に貼り付く服を剥がすようにすべて脱ぎ、入り江へと降りてゆく。

 浅瀬がある岩からゆっくりと海に足を入れ、脱いだ服を片手に持ったまま海に沈んだ。

 そのまま目を瞑り、頭の上まで海水に浸る。

 暑く焼けた髪や肌から、熱が取れてゆく。

 ああ、気持ち良い。このまま人魚になれそうだ。

 海水で軽くゆすいだ服は軽く絞って岩の上に放り投げる。後で干せばすぐに乾くだろう。

 顔を海面に出したまま、ぷかり、ぷかりと体を浮かべる。息を吸い込むとわずかに体は海へと沈む。息を吐くと体はわずかに海面へと浮かび上がる。

 このまま波の音を聞きながら、いつまでも穏やかな波に揺られていたい。

 そうして気がついたら人魚になっていたら、世界中のきれいな海を泳ぎなら過ごせるのに。


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