校正者のリアルな日常(「カッコイイ」なんて言われて浮足立っているけれども)
私は、フリーランスの校正者をしている。
こんな書き出しでいくつか文章を書き、コメントもいただいた。その中で、ある方が「校正者ってカッコイイ」と書いてくださったのを見て、「え、そ、そうかな」などとひそかに恥ずかしがっている(いやいや、そこは否定しなさいよ)。でも実際はまったくそんなことはない。ひたすら机にしがみつき、作業をしながらぶつぶつとひとりごとを言い、よくわからないことにキレている。今回は、そんな校正者のリアルな1日を書いてみようと思う。
朝、6時5分に起きる。なぜ、6時ではなく6時「5分」なのか。できれば、朝は1分でもゆっくり寝ていたい。でも家族の朝ごはんやお弁当の準備もある。少しずつ逆算してこれ以上は遅くできないギリギリが6時5分だった。何のことはない。変なこだわりだ。
7時を過ぎるころには家族は全員家を出る。そこから家族が帰ってくるだいたい夜の8時くらいまでは、ひとりの時間だ。家事をばたばたと片づけ、パソコンの前に座ると、仕事に入る。
いちおう朝は、パジャマ代わりのTシャツから洋服に着替える。上だけ。下は基本的にパジャマのまま。そのほうが楽だし、どうせ誰かに見られることもない。コロナ禍でテレワークが普及したときにはそんな話をよく耳にしたが、私はそれよりもずっと前からそのスタイルだ(ちなみに「コロナ禍」については、「コロナ渦」や「コロナ鍋」をときおり目にする。正解は「うず」でも「なべ」でもなく「禍」の字)。急に誰かが来ると非常に焦る。
仕事でのやり取りは、おもにメールを使っている。仕事上の疑問点などもメールで完結する。だから、昼間は人と話すことがほとんどない。ひたすら無言で、文字を目で追う。唯一、校正プロダクションだけは依頼が電話で来るのだが、もし依頼された仕事が1週間くらいかかるのであれば、その間は直接話すことはない。2週間かかれば2週間、人と話をしない。本当に、家族がいなかったら言葉を発することのない生活だ。まあ、もともととても社交的とはいえない性格なので、このくらいがちょうどいいのかもしれない。
仕事で扱う本の内容についてはこれまでもいろいろ書いてきたが、やはり私に回ってくるのは資格試験の問題集が多い。大きく分けて社会福祉系、医療系、法律系など。ちょっと変わったところでは「毒物劇物取扱責任者」というのもあった。いままであまり目にしたことのないような薬品の名前をずいぶん調べた。当時印刷して使用していた資料には、「シアン化合物」だの「ヒ素及びヒ素化合物」だの「水銀及び水銀化合物」などの文字が並ぶ。そして、こんなことばかり調べていると、検索履歴にも危険な香りが漂う。私、こんなヤバい人じゃないんだけど。思わずそんな言葉が頭に浮かぶ。
そして、ここでちょっと脱線。「ヤバい」について。いまあまり考えずに「ヤバ」をかたかな、「い」をひらがなで書いたけれど、これって語源はどうなってるんだろう。たとえば「サボる」であれば「サボタージュ」が語源なので「サボ」はかたかなで「る」はひらがなになる。大辞林にもそう載っている。「ヤバい」も調べてみると、大辞林にあった。こちらは「やばい」とある。「やば」に「不都合なこと」という意味があり、その形容詞化したものが「やばい」。なので、こちらはかたかなにする必要はないらしい。なるほど。でも、いまは意味も拡大されて、美味しいものを食べたときに「これ、ヤバい!」みたいな使われ方もする。「ヤバい」という書き方も間違いではないのかも。
話を戻します。
朝9時ごろから仕事を始める。午前中は集中力があり仕事がはかどる。難しい仕事はできるだけ午前中にすることにしている。午後、食事のあとはどうしても眠気が襲ってくるのだ。どうしようもないときは、夕飯の買い物に行ったり、洗濯物を片づけたりして何とか眠気をやり過ごす。夕方、その日に片づけようと思っていた仕事が終わると、夕飯の支度に入る。これが日々のルーティンだ。
校正の仕事を始めるきっかけは、日本エディタースクールの求人案内だった。校正技能検定に合格すると、求人情報を送ってくれる有料のサービスがあった。それに応募し、縁あって今日に至っている。もし校正に興味にある方がいらしたら、ぜひ。あなたも「カッコイイ」校正者になりませんか(調子に乗り過ぎ)。
夜は、お酒を飲む。冷えたビールは最高。1日の疲れを忘れさせてくれる。私はどうやらお酒は飲めなそうに見えるらしく、「あれ、小山さんってお酒飲めるんだね」などといわれる。そんなときは「あ、はい」と遠慮がちに笑顔で返す。でも、実は結構強い。ビールの後はウイスキーを飲む。濃いめの水割りで。ちょっと飲み過ぎかな。毎日反省する。
厚生労働省の行っている「国民健康・栄養調査」のなかに、飲酒についての記述があり、そこには「生活習慣病のリスクを高める量」というのが載っている。男性なら1日2合以上、女性はその半分。清酒1合はビールなら約500ml、酎ハイ7度で350ml、ウイスキーダブル60ml、ワイン240ml。はいはい、知ってますよ。仕事では、確かな根拠をもって誤りを指摘する。でも、こんなにちゃんとした根拠をもってしても、節酒は難しい。次の健康診断、いつだったっけ。赤字で指摘されたらどうしよう。