9. 柊蒼視点2 (中学時代)
乙瀬さんのことが好きだと自覚して1週間がたった...そして、何もなかった。
何も進展はない。
それもそのはずだ。
席は僕が窓側の先頭で彼女は廊下側の一番前だ...こんなに離れていたら、話す機会なんてない。
しかも、今は三学期だ。
体育祭や文化祭などの行事だってない。
もっと、早く自分の気持ちに気づいていたら.. きっかけだってあったのに。
勇気を出して話しかけに行くか?
いや、待て。
窓側の先頭に居た奴が端っこの、しかも一番後ろまで行くのは....キモくないか?
それに、僕は乙瀬さんのことをいつも見ていてるからある程度彼女のことを知っているつもりだけど....
彼女からしたら、僕は全然知らない奴なんじゃ?
っていうか、待て。
いつも見てるからって、よくよく考えたら気持ち悪くないか?
ストーカーみたいだ....
いや、でも好きな人は目で追ってしまうのだよな...
どうすれば、いいんだろう....
僕が物思いに更けていると、後ろから羽交い締めにされた。
そして、
「だーれだ?」
という声がした。
「気持ち悪いことするなよ。
綾斗だろ?」
「当ったりー」
乙瀬さんとの進展は何もないが、友好関係は着々と築けていっている。
この男、八神綾斗とはとても気が合う。
しかも、綾斗と僕の家は同じマンションだった。それもあって、僕たちは直ぐに仲良くなれた。
「何、浮かない顔してんだよ?」
「あっ、恋煩いか?」
とふざけた調子で彼は言った。
だが、あまりにも図星で
「.......」
「そんなわけないだろ。」
一瞬、間が空いてしまった。
彼はよくふざけるが、勘が鋭い。
「おいおい、お前まじかよ!」
ほら、ばれてしまった。
今、否定したところで逆効果だろう....
それに、相談に乗ってもらえば、いい案がでるかもしれない...
「で、相手は誰なんだよ?」
「...乙瀬さんだ。」
僕は腹をくくって彼に言った
「えっ?」
「乙瀬?」
「お前、あいつが好きなのか!?」
「声が大きい!」
「乙瀬さんが気付いたらどうするんだ!」
「いや、あいつは気付かないだろ....」
「まぁ、乙瀬さん天然ぽいもんな。」
「天然ぽいじゃない。
天然なんだよ。」
「えっ?
何かあったのか?」
「あぁ、俺あいつとは幼なじみなんだけどさ....」
「えっ?
お前と乙瀬さんが幼なじみ?
仲良いのか?」
「まあな。」
「何で、今まで教えてくれてなかったんだ!?」
「おい、そんなに興奮するなよ。
落ち着けよ。」
「ごめん。」
「で、何で教えてくれなかったんだ?」
「いや、だってさ。
お前が莉乃のことが好きって知らなかったから。」
「で、梨乃のどこに惚れたんだよ?」
莉乃?
こいつ、呼び捨てなのか?
幼なじみってそんなに距離が近いのか?
「おい、急に黙ってどうしたんだよ?」
「お前、呼び捨てなのか?」
「は?」
「今、乙瀬さんのこと
りっ梨乃って言っただろ?」
「そりゃ、幼なじみだもん。」
「幼なじみって、そんなに距離が近いのか?
お前も本当は乙瀬さんのことが好きなんじゃないか?
いや、好きなんだろ?
あんなに可愛い人が近くにいて、好きにならないわけがない!
なぁ、好きなんだろ?」
「お前、怖....」
「別に、好きじゃねえよ。」
「本当に?」
「お前、その顔止めろよ。
めっちゃ、怖いぞ。
それ、梨乃が見たら泣くぞ。
あいつ、ホラー映画とお化け屋敷とか、とにかく怖いのが苦手だからさ。」
「そんなことまで知ってるのか?」
「だから、怖いって!」
後少しだけ、柊視点のお話が続けきます。