5-1 蛾
8月は、集団警備に触れて行く。多くの地域では、梅雨が明け暑い夏本番を迎える。普段大人しい人たちも熱にやられ本性をついつい出してしまう。怒号飛び交うそのような場所での集団警備。一度以上の挫折を知っている魔王たち。なぜ、勇者はそうも戦いを挑みたくなるのか。専門家の魔王が立ち向かうことで、精神を削られる人々を救う。
夏本番となり大人も子供も暑さに苦しみながらもどこか解放感を味わいながら楽しむ季節。
魔王株式会社への依頼は、多岐にわたる。その中でも施設警備が主となる。
魔王と呼ばれる者たちも所詮は人間。室内での仕事と喜びがちだが、いざ働くととても暑苦しい。
その場所とは。。。
主要、国際空港に魔王は派遣される。
空港テロ警戒なのか?
いや違う、勇者が大量発生しやすい夏休みシーズンの空港。
勇者らによってライフとメンタルを大きく削られるその仕事は、欠航による混乱である。
まだテレビと新聞でしか最新の情報が手に入らなかった昭和の頃ならともかく、平成ではネットでの情報が簡単に仕入れられる時代。携帯ゲーム機からでも最新の情報が仕入れられるこの時代に、昭和の頃から何の進歩もない勇者たちが押し寄せる。
航空会社「○○便は欠航です」
文字で見ればわかるように大きく表示されていても勇者は突撃を繰り返す。これらによって、航空会社の窓口の職員たちは、メンタルを削られてしまう。
ただ単に突撃だけの勇者であればまだマニュアルがある。のだが。
突撃勇者「飛んでくれないと明日仕事があるんだよ。どうにかしろ!!」
飛べない理由があることくらい理解できるであろうに、どうしても飛ばせと食って掛かる突撃勇者たちは後を絶たない。これらにもマニュアルはあるようだが、分かっていても精神的に堪える。
大阪や神戸の海上にある空港のような場所では、危険を顧みずに空港に死に物狂いで突撃し帰り道を寸断されて、さらに怒り狂うという狂人勇者も現れる。陸路を自ら失ってでも突撃するその根性はどこから湧き出てくるのか。
空港職員「やれやれ。またか。こういう勇者らに与える毛布はねえ!」
とは表立って言えずに毛布を配布する。
一番良いのは、空港に行くよりも陸路で可能性を探るのが最善の方法であるのだが、夏の解放感からなのか空港に押し寄せたくなるらしい。どことなく、灯りを見たら寄りたくなる蛾のようだ。
そんな空港に魔王が派遣される。なにをするのか。
立ち向かってくる勇者の防波堤となるべく身体を張る。
普段は、後ろ手に組んで対抗する魔王たちであるが、空港と言う場所では手は太ももの外側に指を揃え立つ。覇王の気を出さないように注意。魔王の後ろに職員らが立ち説明をする。直接勇者の顔を見ないことでいくらかのメンタルを少しでも削られないようにと魔王が立ち向かう。
職員たちの苦しさをいくらか紛らすことを望まれている。
我ら魔王は、常に勇者に立ち向かう唯一の集団である。
不破派欲汚「なんと愚かな勇者なのだ。たとえプライベートジェットでも許可を出せないというのに。夏の勇者はどうしてこうも無駄なことばかりするのだろうか」




