3-2 第一次面接
不破派欲汚「ようやく始まるのか。まずは、人事魔王のを見させてもらおうか。どれどれ」
瀬戒能人事魔王の面接の様子を見てみよう。
コンコン
ドアを叩く音。
瀬戒能「はいどうぞ」
応募者「失礼します。天職蜜桁です」
瀬戒能「どうぞご着席ください」
言われ着席。緊張感が強い。
瀬戒能「リラックスしましょう。座ったままでよいので、両手をこうグーっと上げて背伸びしましょう。伸ばしたら今度は前に突き出すように伸ばしましょう。はい。では始めましょう。生年月日と年齢をお願いします」
緊張しながらドモリながらも懸命に伝える。不思議とノドの渇きを感じない。それもそのはず、加湿器を設置してある。多くの応募者は緊張のあまり口が乾き上手く話せない。加湿器で口元は乾いてもノドを乾かせない配慮をしている。
瀬戒能「履歴書の他に挫折歴を事前に書いていただいてますが、挫折歴はこれが全てでしょうか」
天職「あっはい。それですべてです」
瀬戒能「わかりました。1つずつお伺いしますが詳しい理由と何が原因なのか、そして、どう解決し前向きになれたのかをお聞かせください。では、1つ目の小学3年生のサッカークラブからお願いします」
天職「ぼぼぼくは、FW希望でしたが当時から体格が良くGKを任されます。自分が抜かれたら負けてしまうというプレッシャーに耐えられずサッカーそのものに挫折を覚えました」
瀬戒能「原因と解決策をお願いします」
天職「はい。原因は、監督に何度も直訴しても願いが叶わなかった点です。解決は辞めたことで次に進めたと思います。あと、母から次は別のにトライしたら?と言われたのでそちらに打ち込みました。それが2つ目の勉学でした」
瀬戒能「はぁなるほど。2つ目の勉学とありますが、進学塾だとありますが先ほどと同じようにお願いします」
天職「小学4年生の時に中学受験のために進学塾に打ち込みましたが、成績が伸び悩み地元の中学へ進学することにしました。原因は、勉学に集中できるだけの熱心さが無かったと今思えばそうだと思います。解決は先のサッカーと同じくすぐに見切りをつけたことで、深追いせずに済んだのだと思います」
瀬戒能「なるほど。3つ目の初恋が実らないとありますが、その原因と解決策をお願いします」
天職「原因は、緊張するとドモるところにあると思います。解決策は、特にありません。今もまだあるので、解決できるなら解決したいと思いますが、これも個性だと思うようにして気を楽にしています」
瀬戒能「それは、立派な解決策ですね。解決策は自分では分かっていなくても言葉にすると案外やっていた。ということがあるんですよ。では4つ目の学校に無断でバイトして停学になったとありますが。そちらはいかがですか」
天職「原因は、地元高校で無断でバイトが発覚して停学になりました。割の良いバイトでした。社会に早く触れたかったのが停学と言う恥ずかしい結果になりました。停学でクラスメイトから嫌がらせをされるようになり徐々に学校に通えなくなり卒業できるギリギリの登校をしたのが解決策と言うのでしょうか。今でも納得がいかないのですが、校則を守らなかった自分の責任だと思いつつも反抗していました。今考えたらこれはブラック校則なのだと考えてます」
瀬戒能「年頃からして反抗心はありますね。誰もが抱くことですね。もし、当時の自分に教えて上げれるならなんと言いたいですか」
天職「え。ええっと。そうですね。大学進学してからでもバイトは出来るんだから普通に学校に通った方がいいぞ。と言いたいですね」
瀬戒能「最後の新卒で入ったお菓子工場での挫折とありますが詳細と原因と解決策をお願いします」
天職「就職氷河期真っ只中のため1年の頃からバイトをして自分に向いた仕事を色々と経験しました。2年の時に大学の先輩のコネで、お菓子工場で原材料を機械に投入する体力のいる仕事を週4日でバイトをしてそのまま卒業し入社しました。入社後もバイトの頃と同じ仕事を任されます。大学進学して体力仕事をしてることに気づき、これがボクの天職なのかなと思うと悲しくなり配置換えを希望しましたが、他に適任者がいなかったとして配置換えが叶わず。転職するために仕事を辞めました。それからは未だ仕事が決まらず、気づくと体調を壊し今に至ります」
瀬戒能「入社してからどれくらいでお辞めになられたんですか?」
天職「履歴書にある通りですが、入社後半年でした」
瀬戒能「研修で希望職種を聞かれたと思いますがなんと答えたのですか?」
天職「えっと。第一が事務、第二が営業。でした」
瀬戒能「それがなぜ工場勤務になったのでしょう」
天職「それはバイト経験を書いたからかもしれません」
瀬戒能「言葉で希望は言いましたか?」
天職「ちょっと覚えてませんが。えっと」
瀬戒能「うーん。では原因は分からないのでしょうか。解決策があればお願いします」
天職「原因は、希望の職種に行けなかったことへの不満です。解決策は、特にありません」
背戒能繫文呉手は、あからさまに困惑の表情で頭をかく。
瀬戒能「では、当社ではどういった仕事をしたいと思ってますか?」
天職「自分の適性が分からないので、なんでもやります!」
瀬戒能「前職で同じようなことを言われたのではありませんか?」
天職「へ?ああ。そうかも。そうかな。そうだったかも」
瀬戒能「1つアドバイスします。なんでもやりたいというのは一見意欲があるように聞こえますが、実は、希望が特に無いということになるんですよ。天職さんの希望は、事務か営業でしたよね。事務職はデスクワークで楽そうに思う方が多くいらっしゃいますが、入社先の会社がなにを作り販売しているかを詳しく知っていなければいけない部署なのですよ。電話対応にしても、外からの注文やクレーム対応などいくつもありそれらを覚えなくてはなりません。営業もまた然り。しかし、天職さんは大学生の時に工場勤務をしており原材料の投入を3年間ほど働かれており経験者です。イチから教育するよりも経験者に任せた方が手っ取り早く即戦力として雇われたのだと思います。なんでもと言ったら工場勤務で経験のある仕事に就かせたくなるのは当然じゃないでしょうか。特に希望がないならと思われたのではないでしょうか」
天職「。。。ぼ。ボクのせいなのですか。ボクが悪かったのですか」
瀬戒能「悪いかどうかはわかりませんが、希望と違ったと言われてましたので、アドバイスをさせていただきました。最後に、質問はありますか?」
天職「と。とととくにありません」
瀬戒能「なんでも結構ですよ」
天職「えっとええと。とくにありません」
瀬戒能「なるほど。ではもう1つアドバイスします。質問ありますか?の問いに何でも良いので質問をすることをお勧めします。例えば、給料日や待遇面などが明記されていない企業さんがあります。そこで聞かないと後で困るのはご自身です。面接で聞くのをためらう方が一定数います。後でトラブルになるのが、給料関係と待遇ですので、たとえ明記されていても確認を取ることが大事です」
天職「あっはぁ。はい」
瀬戒能「最後になります。質問はありますか?」
天職「いえ。とくには」
瀬戒能「わかりました。一次面接はこれで終わります。午後から二次面接がありますので元の席に戻るなどをしてお待ちください。ご苦労様でした」
面接が終わる。
挫折歴を聞くというあまり聞かないというか。まったく聞いたことのない面接。
モニター越しに見た不破派魔王は興味深く観察した。
不破派「しかし、あの挫折はなんだろうな。あれは私が知る挫折とは違うな。本人としては、挫折と感じたのだろうが。どこか履き違えてるところが多くあるな。そう。なんでもという意欲のありそうな発言は、適性を見抜くというのは実に難しい。適性テストは当てにならないしな」
結果、天職蜜桁は不合格となり昼を前に家へ帰っていく。
不破派欲汚「第一次面接が始まったが。受ける前に帰る者がいるようだ。思ったのと違うというのはよくあることだ。東京観光して帰ると良い。しかし、面接で挫折を聞くというのは面白い。挫折を他人に話すことで挫折からの回復を見出すことが出来れば社会でどこでも働くことが出来るだろう」
背戒能繫文呉手「録音しました!ありがとうございます。次回の広報誌に掲載します」
不破派欲汚「あっ待って。恥ずかしい」
不破派欲汚「お恥ずかしいところを。またあしたも見てね」




